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第6章
落城、戦火再び
「陛下! ここはまずお逃げください!!」
魔法騎士団団長、シックス・ナターシャの悲痛な叫びが響く。玉座の裏には城外へと続く隠し通路があり、コライテッド王家の魔力にしか反応しない魔封印が施されているため、南王であるシスカしか今は通ることが出来ない。
「セシリアは?! セシリアはどこだっ?!」
いつもは冷静で、全てを自分の掌の上で転がしているような彼、南王シスカ・コライテッドが叫ぶ。その顔に浮かぶのは、極めて純粋な焦りだった。
「王妃は諜報部が探し出します!」
南の諜報部に所属するナナキ・ミュラーが答える。彼女は黒装束に身を包んではいるが、装束のあちこちが破れ、その隙間からは赤い液体が見えた。
彼女ら南の家臣団の第一の使命は、国王を守ることだ。
シスカの15メートルほど手前では、南の精鋭である魔法騎士団の騎士たちが剣を振りかざし、敵と戦っている。
こみ上げる感情を押し殺し、シスカは愛する配下たちに背を向け、王の間から脱出した。
時は遡る。
その知らせは突然だった。
神聖騎士団を率いるネル・モックルベラが血相を変えて王の間へと現れたのだ。普段は無表情の彼女だが、今ばかりは青ざめているようにも見えた。
「ザッカート孤児院が、兵を挙げました……!」
その言葉に王の間にいた全員が驚愕の表情を見せた。
ザッカート孤児院、通称“孤児強制育成所”と呼ばれるそこは、純粋な強さを持つ兵士を育てる一種の収容所だ。抱える兵士は約500人程度と言われているが、彼らは皆孤児院の訓練を生き残ってきた精鋭だ。大半が訓練の途中で命を落とす中、生き残り、完成された強さを持つ彼らは、一人で魔法騎士5人相当の実力を有すると言われている。
「全騎士団に召集命令だ。自由軍は城下町の警護を。王立騎士団、魔法騎士団、神聖騎士団、白鳥騎士団は全兵力を以て迎撃に当たる。向こうから来てくれたなら好都合だね。いずれは潰さなくてはならなかった相手だし、これで不可侵条約も破棄だ、全力で潰すよ」
冷静を装って指示を出す。自分が取り乱すことが一番家臣たちへ不安を与えることを、若いながらも南王は理解していた。もちろん確実に勝てるかどうかなどは分からない。平和が続いていたおかげで、実戦を経験していない兵が多いことや、四国会談による軍備の縮小の影響は不安要素でしかない。
「ネル、敵の王城到達までどれくらいだい?」
先ほどの命令を受けて既に騎士団への伝達は回り始めているが、全ての部隊が戦闘態勢を整えるまでにどんなに早くても2、3時間はかかるのが現実だ。
「おそらく一時間かからない程度かと思われます」
その答えが示すのは、ほのかな不安。
「我ら王立騎士団は城門前にて敵を迎え撃ちます。その間に、シックス殿が魔法騎士団の軍備を整えてください」
王立騎士団長ジェファー・コンクルウェスタンが発言する。今年で32歳になる歴戦の勇者は、王立騎士団を率いて今年で5年目になる。
「了解しました。魔法騎士団は城外にて召集し、敵の側面を突きます」
シックス・ナターシャ率いる魔法騎士団は南が誇る精鋭騎士団だ。その実力は森の中でも随一とも噂される。
「白鳥騎士団もそれに続きますわ」
大戦後に結成された白鳥騎士団を率いるはコーネリア・ゼオンドール、今年で23になる元女性魔法騎士だ。白鳥騎士団は大戦で解散となった紅騎士団の後釜であり、女性のみで構成された、主に遊撃を担当する騎士団だ。魔法騎士団を率いるシックス・ナターシャとは貴族学校時代の級友であり、彼の推薦もあって彼女が騎士団を率いるに至っている。
「神聖騎士団は、城内の警護を致します……」
所属する騎士も少ない神聖騎士団は普段から主に国王の守護を担当している。その騎士団を率いるネル・モックルベラはまだ若干15歳ながら、神の声を聞く、予知能力を持つということでの特別待遇の騎士団長だ。
兄を大戦で失った今は、彼女が一人でモックルベラ家を支えている。
「この戦い、諜報部も守りの剣を振るいましょう」
威厳ある声が届く。黒装束に身を包み、彫りの深い顔に無精ひげを生やした男はジン・レベッフェイルだ。まだ30に届かない28歳だが、諜報部を率いて6年の、南王の信頼厚い男である。表舞台にはまず出ないが、各国の諜報部では知らぬ者のいない強者である。
「よし、全力でザッカート孤児院に現実を見せ付けてやろう」
家臣たち全員の力を合わせれば大丈夫、シスカはそう信じるしかなかった。
だが、期待は淡くも崩れ去った。その敗因を大きく左右したのが、ザッカート孤児院に対する協力貴族の存在だった。ザッカート孤児院を取り仕切るエンペロジア家だけではなく、ガルバス家やインファランス家、アスタリオン家などの有力貴族たちが南王に対して反旗を翻したのである。
そのおかげで敵兵力は元々の10倍を超える数となり、協力貴族からの兵力寄進によって成り立つ自由軍は為す術なく敗れ、敵勢はいとも容易く城門前へと到達した。
その敵勢を待ち受ける、一糸乱れぬ隊列を成した王立騎士団の姿は、王家の権威を示すに相応な姿だった。総員合わせて2万を越える騎士団だが、今はまだ8000ほどしか出陣できてはいない。だがそれでも敵の倍ほどもある人数だ。これに加えて、もう少しすれば両脇から魔法騎士団と白鳥騎士団が挟撃を開始する。万全の対策は取れているといっても過言ではない。
敵勢が突撃してくるのが引き金だった。南の王城の前で、大部隊の戦闘が始まった。
「この強さ、化け物か……?」
王立騎士団が明らかに圧される状況を見て、予定数に揃わないまま、シックス・ナターシャ率いる魔法騎士団とコーネリア・ゼオンドール率いる白鳥騎士団は攻撃を開始した。
そして、その両騎士団さえも孤児院側の勢力に圧倒された。
協力貴族の私兵たちもある程度の強さはあるが、彼らだけであれば負けることはなかっただろう。だが、孤児院で育てられた戦士たちの強さは異常だった。
「団長!!」
戦況を苦々しく見つめていたシックスに、敵刃が迫る。部下の一声がなければ命はなかったかもしれない。寸前の所で攻撃を防ぎ、対峙する。
一撃一撃が正確で、重い。これで一兵卒とは恐れ入る。
2年前の大戦をくぐり抜けたという自負は、脆くも覆された。
エルフの森の中において最強を誇る魔法騎士団の団長であるシックスが、一人倒すのにやっとなのだ。敗れる、ということはないかもしれないが、徒党を組んで襲われては堪らないだろう。
気づけば、だいぶ配下もやられていた。
「俺はいったん城内に入る! 南の騎士団の誇りにかけて、何としても食い止めろ!!」
城内では神聖騎士団と諜報部が軍備を整えているはずだ。その彼らに、情報を与えることは急務だ。そして、万一の用意を整えることも考えねばならない。
この戦いを、他国はどう思うだろうか。東西南北の中で、一番の大国は南だ。その南が、このざまだ。
そう思うと情けなくなってくる。軍備の縮小は受けたが、自分の率いる魔法騎士団は最強のはずだ。いや、最強でなければならない。それが歴史ある魔法騎士団を受けついだ自分の使命であるはずなのだ。
先代ジルヴェステ・ナナゼンサスは、魔法騎士団の長い歴史の中で唯一の女性騎士団長だった、偉大な存在だ。自分たちの親の世代の中では知らぬ者のない程の戦士だった。自分の父、エドガー・ナターシャも偉大な戦士だったと思うが、自分が入団した時から、尊敬する騎士はジルヴェステだけだ。
その彼女が病死し、死の間際に若干18歳だった自分を騎士団長に任命してくれた。最初は戸惑ったが、逆にそれがプレッシャーとなり、自分を成長させてくれたと思う。
城内を移動し、王の間へと向かう自分に喝を入れる。
「陛下!」
自分が王の間に入るのと同時に、諜報部の一人が飛び込んできた。
「王立騎士団団長、ジェファー・コンクルウェスタン様が、戦死なされました!!」
悲痛な叫びが王の間に響く。玉座に鎮座したシスカは無言だ。
「コーネリア様が城門の守備に全力を挙げておられますが、突破は時間の問題かと思われます!」
その報告を受け、王の間に控える文官たちが矢継ぎ早に批難なり、悲嘆なりを喚きだす。彼が悪いわけでないのに、軍の劣勢を彼に罵る者さえいる。
こういうとき、諜報部とは酷な仕事だと思う。真実を告げるのが仕事の彼らは、当然時刻にマイナスなことも報告せねばならない。
「シックス、君の目から見て勝率は?」
淡々とした声が届いた。振り返ったその先にいるは、南王シスカ・コライテッドだ。外見はいつもと変わらない、中性的な美少年だが、今は何故だか違って見えた。
自分たちの愛する王へ、恐怖を覚えた。
「屋外では、希望を持てません」
その答えに、シスカ以外の者が絶句する。南の魔法騎士団団長ともなれば、南の軍部の最高位だ。その彼が吐く弱音は、想像以上のダメージを味方に与えた。
「地の利のある城内戦を展開したい、ってことかい?」
「それならば、敵が隠し玉を用意していない限り敗北はないでしょう」
しばしの沈黙が流れる。
「魔法騎士団を城内へ移動させて。白鳥騎士団と王立騎士団に、魔法騎士団の移動の時間を作らせる」
「……御意」
自分に拒否権はないのだ。騎士の本文は仕える主君に忠実であることだ。そして、主君のために命を賭してでも剣を振るうことだ。
王の間を走り去るシックスの胸中は複雑だった。先刻のシスカの命令は、白鳥騎士団と王立騎士団を時間稼ぎの囮にする、という作戦に相違ない。
大戦が終わった直後、シックスは南の英雄だった。最後の聖戦前の会談を知らない国民たちは、屋外戦にて一大部隊を指揮した彼を熱く讃えたものだ。あの会談で、自分の実力が下位だと悟ったからこそ、クールフォルト家内への突撃メンバーを辞退したことなど、知る者は少ない。
先刻から晴れない心のモヤモヤ。理想の強さを手に入れ切れていない自分への腹立たしさ。
やりきれない気持ちのまま戦場に立つことは非常に危険だとは分かっているが、それでもやりきれない気持ちだった。
「魔法騎士団よ! 城内へ撤退だ!」
シックスの号令にどよめきが走る。だが、戦場における上司の命令には服従、これが南の騎士団の掟だ。素早く移動が始まる。
この移動に対し、魔法騎士団以上に驚いているのは白鳥・王立の両騎士団だ。城内に戻ったシックスがこの命令を出している以上、これがシスカの命令だということも判断出来る。だが、判断出来ても納得しがたかった。
自分たちは見捨てられたのか、そんな思いが浮かぶ。王立騎士団団長のジェファーが戦死したことも脳裏から離れない。
孤軍奮闘するも、両騎士団を指揮するコーネリアの脳裏から不安は拭えなかった。
戦場に背を向けたシックスを見つめるコーネリアの胸中やいかに。
城内へ移動を終えた魔法騎士団たちの表情は暗かった。あの状態での撤退が意味するものは、自分たちの敗北だ。自信を砕かれた騎士団を再起させねばならない。だが、自分自身も敗北感を味わっているシックスには、何と声をかければいいのか分からなかった。
「シックス殿、疲労している魔法騎士団は最奥部の警護を頼む」
「ジン殿……了解した」
彼に愛想や、労いを求めることは間違っているとは分かっているが、淡々とした彼の言葉は、どこか皮肉を込めているようにも感じられた。
自分と比べたら彼の方が明らかなベテラン戦士だ。さきほど戦死報告の入ったジェファーは、自分の倍以上長く軍に身を置いた男だ。この場における自分が惨めで情けなくなってくる。
「シックス様、まだ負けたわけではありませんよ?」
殺伐とした空気の中、柔らかな声が届いた。
「アミール……」
声をかけてくれたのは、アミール・サンデーフォークト、女性の魔法騎士だ。彼女は義弟であるゼロと貴族学校時代の同学年生であり、大戦後からメキメキと実力を上げた期待の若手だ。下級貴族出身ということもあり、常に他人に頭の上がらない生活をしてきたためか、彼女の物腰や口調は非常に丁寧だ。
「コーネリア様の戦いを無碍にしないためにも、今は立て直しましょう」
彼女は人を元気づける力がある。彼女の笑顔は気持ちを和らげてくれた。
「君たちに恨みがあるわけじゃないんだけど、僕たちはこの世界に恨みがあるんだ。だから、ごめんね」
コーネリアの前にふらっと、紫色の髪を長くたなびかせる青年が現れた。柔和な表情だが、彼の軽鎧には大量の返り血が見える。表情とは裏腹に、ゾッとするような殺気を持った男だった。
本能的に勝てないと思ってしまった。だが自分はこの戦場の指揮官だ。敗れるわけにはいかない。
「震えた刃じゃ、凶刃には勝てないよ」
優しげな声で敵が言葉を投げかけてくる。自分に向けられた剣先は、微動だにせず、突きだされている。
どうにか気持ちだけでも強く保たなくてはならないのに、それもかなわない。相対する敵の発するオーラは、自分が見たこともないレベルのものだ。2年前の大戦でも味わったことのない、本能的な恐怖がある。
「私とて、南の騎士団を支える一人、簡単にはやられないわ」
本能に逆らって、コーネリアは言葉を発する。それでも彼女の構える剣が揺れていることに、彼女は気づいてなかった。
「ホントに?」
敵が動いたのは分かった。だが、どう動いたのか、全く分からなかった。分かるのは、いとも容易く自分の剣が吹き飛ばされたこと。
「簡単にやられちゃうじゃないか。さぁどうする? 死か、逃亡か」
最早自分に勝ち目がないことも分かっている。自分の敗北は城門の解放だ。後は城内に戻った魔法騎士団をはじめ、神聖騎士団や諜報部に頼むしかない。白鳥騎士団団長として、何も出来なかったことが不甲斐なくて涙が滲んできた。
「え?」
突然胸の辺りに走る、熱さがあった。
「新米騎士団長様に投げかける選択肢として、それはあんまりよ、兄さん」
新しい声が耳に入るが、段々と意識が遠のいていく。背後から、剣を刺されたのだと自覚するまで数秒かかった。
「敗者には死を。名誉ある敗北の方が、光栄でしょう」
コーネリアに剣を突き刺したのは、紫色の髪をした女性だった。儚くも美しい、そんな容姿の女性の瞳に、人を殺したことへの怯えなどはなく、ただ淡々と一つの作業としてこなしたという感がある。
「究極の二択に悩む者の表情は、実に興味深いだけさ」
「悪趣味」
地に伏せた自分の頭上で交わされる会話など、最早彼女にとって何の意味もなかった。
――オリア……ス……ごめ……んね、お姉……ちゃん、帰れ……ない……み……たい。
最後に浮かんだのは魔法騎士団に所属する弟の顔だった。敵勢の歓声と、おそらく城門が突破されたであろう音が、彼女が最後に聞いた音だった。
白鳥騎士団団長コーネリア・ゼオンドール、戦死。
「城門、突破されました!!」
南の軍勢に絶望を告げる情報が知らされる。
「神聖騎士団、総員戦闘態勢へ」
白銀の軽鎧を身にまとったネルが落ち着き払った態度で指示を出す。平静を取り戻した彼女の表情は、普段通りの無表情だ。だが逆にそれが頼もしく思える。
彼女自身に戦闘能力はほぼ皆無のため、彼女自身は後方待機だが、南の神ミカヅキを崇拝することによって結ばれた団結力こそが、彼女の騎士団の最強の武器なのだ。
「ジン様、万一に備え、陛下の退路の確保を」
「……了解した」
未来が見える彼女の、この発言の真意とは。
「シスカ、あたしも有事に備えて、武器取ってくるね」
王の間にて、王妃セシリア・コライテッドが南王に告げる。その時は何も考えずに了解した。
この判断が、彼にとっての最大の失敗だったかもしれない。
城門突破から半刻を過ぎた頃、攻め入るザッカート孤児院側と戦っているのはジン・レベッフェイル率いる諜報部だった。正規軍と違い、彼らにまとまった戦術などは存在しない。個々の戦術レベルの高さが売りだった。狭い通路を利用し、敵兵を各個撃破していく。暗器を用いる彼らの戦術は効果的で、王立騎士団、白鳥騎士団、神聖騎士団と南の騎士団を破ってきた敵勢も、諜報部相手には苦戦を強いられていた。
だが諜報部は絶対数が少ない。全諜報部団員を合わせても200名程度だ。城内各地にて、地の利を生かし戦うもいずれは劣勢へと追い込まれて行っていた。
「死守せよ! 我らの敗北は、王の間への敵兵侵入を許すことぞ!」
ジンの激が飛ぶ。彼自身の戦闘能力は非常に高く、既に幾人もの孤児院の戦士を葬っていた。返り血で凄惨な顔になってきている。
「南の同胞同士で殺し合う、糞みたいな話だ……」
敵に情けはなくとも、彼らも南を居住地とする同胞、その意識は頭の片隅から消えない。
「同胞で殺し合う、混沌めいていていいじゃないか」
今まで相手にしてきた戦士たちとは比較にならない早さの剣が迫る。迷いなく、殺しに来た剣だ。
――強いな……。
相対していて、冷や汗が流れる。発せられるプレッシャーの桁が違う。
「ナナキ、王の間まで下がれ。万一の際の指揮権はお前に任せる。陛下の御身を守ることが最優先だ」
「……了解」
ジンの傍らで戦い続けていた女性諜報部員に命令し、彼女を下がらせる。今彼が対峙している男を止めねば、南の敗北は決定的だ。だが、彼自身この男を止められる確証は持てなかった。
攻撃の隙を伺う沈黙が流れる。
「ジン・レベッフェイル、貴方ほどのレベルの男を殺すのは惜しいんだけどね。諜報部の忠誠心は、絶対なんでしょう?」
「愚問!」
彼が問いかけてきたタイミングで、ジンが動く。現在では諜報部という名称が公にも用いられているが、彼が入団したての頃はまだ世間的には暗部という名称の方が有名だった。隠密行動に、要人の暗殺など、こなしてきた任務は胸を張って話せる内容だけではない。その経験が身に付けさせた彼の強さは、単純な強さではない。
「それでも、甘い」
紙一重の距離でジンの剣を避けつつ、カウンターの要領で自身の剣を突きだす。その速さは、見えなかった。
「ぐっ……」
左肩を貫かれたジンの表情に、苦悶の色が浮かぶ。
「さぁ、後は負け犬の魔法騎士団だけだ」
痛みに意識を奪われたジンにすかさず止めの一撃を放ち、男は不敵に笑った。紫色の髪の男は、悠然と王の間へと進んでいった。
「だいぶ、兵が減ったのか……」
王の間に向かう途中、男はふと気付いた。流石南の騎士団たち、とでも言うべきか。ザッカート孤児院が手塩にかけて育てた戦士たちのうち、今回連れてきたのは400人ほどだったのだが、既に30名ほどまで減っていた。協力貴族の私兵たちなど、ほとんど姿を、見ることは出来ない。
「私たちがいれば、数は問題ではない。それに魔法騎士団も、もうあまり残っていないでしょう」
「そうだね、妹よ」
妹、その発言を裏付けるように二人ともの髪の色は紫だ。どこか楽しそうな男に対し、女の方はまるで無感情というような様子だった。
王の間の扉が、開く。現れたのは見知らぬ連中だった。つまり、敵だ。
「既に進退極まったか」
魔法騎士団の残りも既に百数名だ。
「君たちの首謀者は誰だい?」
悠然と玉座に座り、頬杖をつきながらシスカが尋ねた。両部隊の戦闘態勢は解かれない。
「レジン・エンペロジアと言ったら?」
「予想通り過ぎて笑えないよ。シェージェ卿」
苦笑いを浮かべるシスカの言葉に男が「お」と小さく感嘆の声を上げる。
「私のことをご存知でしたか」
「南王をなめるなよ? 自分の配下の貴族くらい全て把握している。……ま、腹の内まで把握出来てなかったみたいだけど」
自嘲めいた口調の彼に敬意を表し、男が一礼する。この動作も明らかな皮肉だ。
「決着をつけるぞ、イオニティ」
シスカに代わり、シックスが剣を突き付ける。シェージェ卿、イオニティと呼ばれた男はイオニティ・シェージェ、シェージェ家の家長であり、シックスとは貴族学校時代の知り合いだ。
「決着なら、ほぼついてるようなものじゃないか……」
不敵に笑う彼の言葉を皮切りに、両軍が激突した。
戦いは終始孤児院側が優勢だった。個々の戦闘レベルの差が大きく、何より両指揮官の戦闘能力も孤児院側のイオニティが上だった。
「陛下! ここはまずお逃げください!!」
魔法騎士団団長、シックス・ナターシャの悲痛な叫びが響く。玉座の裏には城外へと続く隠し通路があり、コライテッド王家の魔力にしか反応しない魔封印が施されているため、南王であるシスカしか今は通ることが出来ない。
「セシリアは?! セシリアはどこだっ?!」
目の前で味方の劣勢を見せ付けられ、いつもは冷静で、全てを自分の掌の上で転がしているような彼、南王シスカ・コライテッドが叫ぶ。その顔に浮かぶのは、極めて純粋な焦りだった。
「王妃は諜報部が探し出します!」
南の諜報部に所属するナナキ・ミュラーが答える。彼女は黒装束に身を包んではいるが、装束のあちこちが破れ、その隙間からは赤い液体が見えた。
彼女ら南の家臣団の第一の使命は、国王を守ることだ。例え何人が死のうとも、王家の血筋があれば国は蘇る。
シスカの15メートルほど手前では、南の精鋭である魔法騎士団の騎士たちが剣を振りかざし、敵と戦っている。
「陛下!こちらへ!!」
数人の魔法騎士たちの手引きに従う。
こみ上げる感情を押し殺し、シスカは愛する配下たちに背を向け、王の間から脱出していった。
戦いの幕開けから終始、シックスとイオニティは戦っていた。強化魔法を唱えたシックスと、素の実力のイオニティであるのに、戦いはイオニティ有利に運ばれている。
「7年間同じ学校に通ったよしみだ。降伏すればナターシャ家をこっちの味方にいれてあげるよ?」
「馬鹿にするなよ、魔法も使えぬ下等民族が」
シスカが王の間を脱出し、味方の騎士もほとんど全員倒れた中で、シックスが不敵に笑いだした。今の言葉を条件に、彼の手から光の矢が放たれる。
「くっ」
その矢は真っ直ぐのイオニティの左腿を貫いた。突然の速さに、対応出来なかった。
「シックス殿……?」
生き残っているナナキが、彼の異常に気付いた。普段は冷静な彼からすれば、今の発言はあり得ない。だがこの隙を利用し、王の間を脱出、彼女は王妃セシリアを探しに行った。
「ナターシャ家を味方に引き入れるだ? 冗談も大概にしろクズ。俺はナターシャ家家長シックス・ナターシャ。最強の魔法使いの一族の長なるぞ?」
まだ意識ある魔法騎士団員たちも事態の把握が出来ていなかった。
「殺せるものならば殺してみろ、カスが」
シックスの言動に疑問を抱きながらも、イオニティは何とか冷静を取り戻した。
「これが君の本性なのか、暴走なのか……。まぁいい。君の実力なら、僕の方が強いのは変わらない」
イオニティの繰り出した攻撃は速く、シックスは避けることも出来なかった。確実な手応えを、イオニティは感じた。
「どこを狙っている?」
イオニティが攻撃したシックスの姿がサラサラと消えていく。幻影だったというわけだ。いつ魔法を使ったのか分からなかった。
「今度は俺の番だな!」
彼の振り下ろした剣から強烈なプレッシャーを感じ、本能的にイオニティはそれを避けた。シックスの剣から飛び出してきた光は、避けられてなお真っ直ぐに進み、王の間の壁と衝突し、激しく損傷させた。喰らっていればただではすまなかっただろう。
その後しばらく、誰も中に入れない攻防が続いた。前半とは打って変わって、シックスの優勢は誰の目から見ても明らかだった。直線系、網状系、干渉系、空間系全ての魔法を駆使し戦う彼はまさしくナターシャ家の者であることを証明し、エルフの森における最強騎士団、魔法騎士団の団長の名に相応しい実力を発揮していた。
だがそれは突然だった。糸が切れたマリオネットのごとく、シックスが倒れる。
「……ガス欠か?」
きっと自身の危機に対する防衛反応としての暴走だったのだろう。潜在能力が解放され、持てる力の全てを発揮していたに違いない。だが体力が底を突き倒れるに至ったのだろう。
「一度能力を解放すると、格段に力が上がるからな……」
ここで生かしておけば、また脅威となる可能性も否定できない。だが、殺すには惜しい力だ。もし彼を味方に出来たならばと考えると、ナターシャの血は魅力的過ぎた。彼の妹の方が魔法使いとしては優秀という評価だったが、これを見る限り兄である彼の方が破壊力は上なのではないかと思えてくる。
「魔封じの縄で縛って、こいつを牢屋へ連れて行け」
やっと、一息つけた。失った戦力は大きいが、ザッカート孤児院側は見事にクーデターに成功したわけだ。この事実を見せ付ければ、多くの貴族が力の前に従うことは目に見えている。
「兄さん、この子どうする?」
妹が連れてきた女性は、両手足を縄で結ばれた姿の王妃セシリアだった。
「ふむ……」
南の王城を落城させた男、イオニティ・シェージェは不敵な笑みを浮かべながら、セシリア・コライテッドを見つめていた。
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