座布団を筒型に巻き練習す吾娘に結ばむふくら雀を 今月の十首 A お嬢さんの晴着姿を引き立てる「ふくら雀」結びはなかなか難しい。両羽の部門が肩のところにくる振袖用の帯結びを何度も練習している母親像が緊密なことば配りで表現されている。練習台が筒型に丸めた座布団である具体性によって共感が深められる。倒置法も効果をあげている。(吉田英子) B 二十歳の長女に着物を着せることになった。折角だから、帯は若々しく華やかに結びたい。結ぶ側の技量も考え、ふくら雀あたりが適当かと、座布団二枚を腰紐で縛って筒型を作り、早速に練習。娘に手をかけてやれることが段々に少なくなってきた母親としては、心楽しいひとときであった。(作者) C 「ふくら雀」は、ミスの盛装用の帯結び。そのような帯結びをする年頃は、もう母親から自立しはじめ、やがて伴侶を求めて巣立っていく。母と娘の絆がややに希薄になっていく年頃、本人一人で結ぶことのできない「ふくら雀」は母親の出番である。この作、上句は極めて無造作に事実を述べているが、その事実の中に、痛いほどの母ごころが伝わってくる。その点に注目した。(井口直子)