できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

1997年

*1997年

自分の推敲に自信がないため、「コスモス」に傾向が似ていると判断した「水甕」にも入会。
「コスモス」での毎月10首の他、「水甕」にも20首を投稿していた。

この年は、長女が結婚したばかりであるのに加えて、母が亡くなり、長男が結婚し・・と、私には淋しい年であった。




*コスモス掲載歌



1月号 O先生賞発表号

行つてしまへ(O先生賞佳作一位) 

入籍を今日するといふ娘の電話八千キロの彼方より来る

「おめでたう」努めて明るく言ふ我に訳の分からぬ泪湧き来る

涙声悟らせぬやう早々に娘よりの電話切りてしまひぬ

突然に目に浮かび来ぬ自転車の補助輪とりし時の娘の表情

自転車に初めて乗れしアッコの目我が怯む程真剣なりき

十七歳(じゅうなな)の娘を一人発たせたり若かりしかな夫も私も

毎週のやうに吾娘より届きゐしイラスト入りの東京便り

会ふ度にどんどん痩せて行きし娘よあの頃恋してゐたのだらうか

父母に言はないことの増えてきて敦子がだんだん輝きて来ぬ

この人と結婚したいと娘の逢はす含羞みがちな日本青年

むつつりと照れくささうに挨拶し夫は娘むすめの恋人を見る

本人が好きなら良しと夫は言ふ当然なれど少し見直す

二人して仲良く住むのはやさしいと恋する敦子に屈託はなし

行きたくば行つてしまへと呟きぬ みんなさうして来たのだものね

我らより古風な敦子の入籍は平成八年八月八日


1月号 通常作品

昼顔が絡みて垣根に白く咲く閉鎖決まれる缶詰工場

画面にて撃たれし兵が父のごと思へて瞬間眼を瞑りたり

「少國民」なりし夫にはその父の出征せぬが辛かりきとふ


2月号

メグの兄、由美子の父はマリアナに逝きたりといふ敵兵同志

赤黒く地球の影を受け止めて月が見る見る欠けて行きたり

右下に土星を連れて中秋の満月前夜の皆既月食

「気のままに寝たり食べたり走つたり」羨しきことをロバ選手言ふ


3月号

どんな顔をしたらよいのか分からずに花嫁姿の吾娘と向き合ふ

「およめさんだ」と囁かれつつ参道を吾娘の花嫁行列がゆく

息長く篳篥を吹く青年の額に滲み汗玉なす

向き合ひて目顔に合図交はしつつ二人の巫女が舞ふ「越天楽」


4月号

「お初に」と心の裡に言ひながら宮先生のお墓に詣づ

遂に来し記念館なりスリッパに履き替へながら少し動悸す

魚野川の冬に似通ふ暗さなり吹雪に霞むフレーザー川

何本も太き氷柱の下がりゐて鍾乳洞の如きわが家


5月号

湯上がりに足の運びの重たくてゆらりふらりと廊下を歩む

鋭さを感じさせずにやや枯淡武蔵の書といふ「明月入懐」

父坐さば見せたかりしを湯の宿に武蔵の書といふ「明月入懐」


6月号

「おばあちやまの夢を最近よく見る」と国際電話に母は言ひゐき

レシートの裏に短歌の断片を書きかけのまま母は還らず

まだ葬儀を出さぬうちよりかかりだす仏壇・墓地のセールス電話

気骨きこつなら誰にもまけぬ母なれど骨粗鬆症には負けてしまひぬ


7月号

悲しみは怺へるなといふ友の声徐々に私の心をほぐす

「法要」を呼びださんとせしワープロに「抱擁」の文字飛び出して来る

操縦席に吾を坐らせ教官の席より友が離陸操作す

菜の花の黄色と桜の薄紅をセスナの窓に見下ろして飛ぶ


8月号

構はねば不機嫌になる夫らを「おやぢつち」とよぶ昼の妻たち

千株の株主なれど聞き入りぬダヴを上げたる市況のニュース

女房とうまく行かぬと言ふ君よいささか陳腐な台詞でないか

「ああしんど」声に出しつつ坐りこみ言ひし分だけ気軽になりぬ

彗星の滲むがごとき耀きを久々に会ふ夫と見守る


9月号

紅淡く林檎の花の綻びぬ母が逝きても子らが去りても

誕生日の夫に贈りぬ紅薄く恥づかしさうな薔薇の花束

一日分明日の我より若きわれ干した蒲団をパンパン叩く



10月号

「八時間続けて眠るあかんぼ」と関クン早速息子自慢す

宿雨霽れ雫滴る花群れを低く掠めて燕飛び交ふ

ゆつたりと翼を拡げ風に乗り鷲が大きく空に弧を描く

ともかくも香港返還祝ふらし「同慶回帰」の看板数多(バンクーバー)



11月号

吹き抜くる突風のごと去りゆきぬはるばると来し友人一家

雲三つ刺繍されたるパジャマ着て眠るをさなに雲の夢来よ

初恋の人が離婚をせしといふ風の便りが海を渡り来

山腹の繁みが揺るる一箇所を熊の潜むと友が指さす



12月号
杜沢光一郎選 (大幅な添削揃い)

昼寝よりやをら目覚めし夕風がポプラの梢を揺らしはじめぬ
 (原作  昼寝よりやつと目覚めし夕風がポプラの梢を揺らしはじめぬ)
  「やをら」と「やつと」では意味が違うと思うけれども・・・


今までとちがふ自分になりたくて出来そうもなき泳ぎを習ふ
 (原作  「息を吸ふ」その単純が難しく泳げるまでの道は遠しも)
  「出来そうもなき」には違いないけれども、自分としては、内心、道は遠くてもできるようになると希望を持っているわけで・・・。でも、結局は、杜沢先生の添削とおり、泳げるというほど泳げるようにはならなかったので、先生が正しいので・・残念。


子の決めしその妻に会ふ明日までにニコニコ顔を作りおかんか
 (原作 子の決めしその妻に会ふ明日までにニコニコ顔を作りておかう)
 疑問形ではなくて、本当に心がけていたのです。姑になるのは、覚悟がいるもので・・・



*「水甕」掲載歌


1月号 新鋭集

橋の下に拾ひ来し子と聞かされて家出したりき五歳の我は

二回ほどそで無しの服を着しのみに短き夏の去りてしまひぬ

決断を促すごとく響きたりソナタ「月光」第三楽章

五年前の我の写真を焼き付けて明日は無効となる免許証


2月号 水甕集

夢半分本当半分とり混ぜてインターネットに虚像行き交ふ

「がんばろや」関西弁に暖かく励ましあひて神戸がんばる

東京にひと月すごし灰色の舗装道路にヒール減りゆく

署名簿の夫の氏名の次の行付け足すごとくに我の名を書く


3月号 水甕集

辛き愛耐へゐし故か万葉の「恋 」に「孤悲」とふ表記いくつか

「夫婦にもFA宣言あるといいな」夫た羨むごとく言ひたり

「日本の子供達へ」とインドより花子が来し日をかすか記憶す

他の象を見たる記憶も杳からむ五十歳となる捕らはれの象



4月号 水甕集

生まれ来て生みてその子を知らず逝く鮭も鰊もかまきりも亦

わき見して或ひはおどけて笑ひをり素直に泣けぬ花嫁の父

向き合ひて目顔に合図交はしつつ巫女さん二人舞ひ始めたり

神社より日本の国旗頂きて新郎新婦が神前を辞す



5月号 水甕集

諦めをつける思ひに夫と見る娘の花嫁姿のビデオ

新しき姓に電話に応へくる娘の声に瞬時怯みぬ

灰色の空より雪の絶へ間なく降りつつ白き夜に入りゆく

雪渓と氷河の密度の違ひなど説きつつ夫は山を恋ひをり


6月号 水甕集

シーボルトの通りし場所かも知らぬゆゑ長崎街道ゆつくり歩く

少年に初めて貰ひし年賀状決まり文句の字が踊りゐき

醤油味濃くして小さな餅入るる姑の雑煮をカナダに作る

ふと空気澄み始めたる気配して深夜が朝に入れ代はりたり


7月号 新鋭集

冗談を言ひては自分で苦笑する素直に泣けぬ花嫁の父

神前に誓ひの言葉を唱和して吾娘がどんどん遠ざかりゆく

物が二重に見えると訝りゐし友の遺書は大きな文字の三行

整理魔の男が自殺をしてしまふ一世にきちんとけりをつけむと


8月号 新鋭集

雨に濡れて舗装道路に貼り付きぬ土に還れぬ桜はなびら

「広くつて簡潔なのが空だよ」と操縦席より君の大声

二人乗りセスナは高度をやや下げる初のデートに来し山の上

ヒロインの視線が宙に留まりて今朝の連続ドラマは終る


9月号 新鋭集

億年を単位に研究するせいか天文学者の長男スロー

我が姓と違ふ姓にて答へ来る新婚の娘の留守番電話

もう子らの揃はぬ朝の食卓に夫と私の和食が並ぶ

水脈三筋海に残して音高く水上飛行機今し飛び発つ


10月号 水甕集

急逝の母の戸棚に沢山の歯磨き洗剤買ひ置きてあり

父母ちちははと姉との墓が私にはこれから「実家」と呼ぶ石の家

「絶対に人の前では泣かないぞ」太つた私の大ダイ痩せ我慢

泣くまいと視線を逸らせて見る星が彗星の如ほはりと滲む


11月号 水甕集

七月の一日に会ふ証券マン西瓜の模様のネクタイをする

「息を吸ふ」その単純が出来なくて水泳教室前途は多難

何でまあこんなに楽々泳ぐのか息子のやうな水泳教師

仰向きてプールにほかりと浮かぶ時鴎が一羽視野を横切る


12月号 水甕集

わが思ひ電話にうまく言へなくて君への手紙書き始めたり

別姓を名乗らむために書類上離婚せしとふ邦子と祐二

夫の姓名乗らずと言ふ若き女医もつと気楽にやればよいのに

小刻みに風に震へる白樺の若葉が互ひに触れて囁く



コスモス全国大会周遊実作

コスモス全国大会(いわき)に、松山晨子さんと誘いあって初めて出席
事務局長は、コスモスに誘ってくださった高橋安子氏であった。

島田選三位

わが裡の澱みに石を投げ込みぬ「自信を持て」とふおみくじの吉





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