Nonsense Story

Nonsense Story

2007.10.31
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カテゴリ: 奇妙な隣人



 俺は今にも掛けようとしていた、ごつい黒縁眼鏡を慌てて顔から遠ざけた。ザーッと音を立てて酔いが引いていくのが分かる。それと入れ替わるようにして、寒気が背中を這い登ってきた。
「たぶん、これの元の持ち主だろうね」
 先輩は平然とした顔で俺から眼鏡を取り返すと、自分の顔に掛けた。裸眼でも見えないわけではないのだろう。俺が眼鏡を玩んでいる間も、彼は煙草に火をつけたり新たなビールの缶を開けたりしていたが、手の動きに迷いはなかった。
 先輩といっても、学校やバイトの先輩ではない。俺の住むアパートに、俺より前から住んでいるというだけの人である。
 彼と部屋で飲んでいて、ふとその眼鏡の話になり、そんな古そうな型の眼鏡をどこで手に入れたのかと訊くと、女に貰ったなどと珍しく色気のある答えが返ってきたので、事のあらましを聞き出していたのである。
 しかし、出てきた話があれとは。途中まで中途半端でも恋バナの様相を呈していたのに、どうして最後は三面記事みたいになるのか。存在自体が異常な人だと思っていたが、恋した相手も普通の女性ではなかったようだ。コンクリで固めた腕を持ち歩いている女性なんて、いくらなんでもゾッとしない。てか、それ見つけても全く気が変わることなく彼女を好きでいたこの人って・・・・・・。映画や小説じゃないんだから、フツー引くだろ。
 当時先輩は高校三年生。彼女は家の隣のアパートに住む、二十一歳のフリーターだったそうだ。もともと先輩の実家の学区内にある施設に居た人で、小中学校の先輩であったらしい。中学卒業後、彼女は一度住み込みの就職で他県に出たのだが、何があったのか、二年後に仕事を辞めて帰ってきて、先輩の家の隣にあるアパートに住み始めた。おそらく、その男性の死が絡んでいたのだろうと先輩は言った。
「俺は、あの先輩が男を殺してたんだと思う」
「え? でも、体の一部や眼鏡を大事に持ってたってことは、その男性のことを好きだったんじゃないんですか? その女の人は」
 あまりにも突拍子もない推論を当たり前のように口にするので、俺はやり返すつもりで突っ込みを入れたのだが、先輩はニヤリと笑って返してきた。
「殺す理由なんて、何も思うところのない相手より、好きな相手に対しての方が多くあると思わないか?」
 意外だったのは、当時の彼には霊感と呼べるようなものが皆無だったことである。霊体験はおろか、金縛りに遭ったこともなかったらしい。今では話に出てきた女性並みか、それ以上だというのに。
 けれど、好きだった人に貰った眼鏡を使い続けているというのはもっと意外だ。失恋した相手が好きだった男の形見を貰うあたりの神経は、さすがこの人だと思うけど。どういうことにしろ、曰くつきの眼鏡だから掛けているという方が、まだしも彼らしい気がした。
「先輩が幽霊視えるようになったのって、その眼鏡のせいですかね」
 俺がもう一度眼鏡に手を伸ばすと、先輩はそれを外して、今度こそ俺の顔に掛けさせた。度はちゃんと入っているようだ。ぐにゃりと世界が歪む。
「さあね。でも、きみが今日、事故現場を見たというのは分かるよ」
「え? あ、」
 そういえば見た。今朝、大学に行く途中で、横倒しになった軽自動車の中から助け出されている、助手席に乗っていたと思しき老人を。
 歪んだ視界の中で、先輩が左の口角だけを上げてニヤリとした。
「ついて来てるよ。七十くらいのオバーサン」


 先輩とそんなやり取りをしたのが、つい一週間ほど前のこと。こんな時にあんな話を思い出す自分が呪わしい。
 俺は、すっぽりともぐりこんでいたこたつから頭を出して、目が覚めてから何百回目かの溜息を吐いた。何時だろうと時計に目を移すと、蛍光塗料で光っている針が、午前四時を指していた。二時くらいに眼が覚めてから、ちっとも眠気が戻って来ない。明日も自動車学校の路上教習があるというのに。
 部屋は真っ暗闇なのに、こたつから顔を出すと、嫌でも血の付着したバタフライナイフが視界に入る。昨夜、先輩に押し付けられたぬいぐるみから出てきたものだ。
 あの話を聞いた時、先輩がコンクリート詰めの腕を見つけても通報しなかったのは、単純に彼があの女性を好きだったからだと思っていた。でも、このナイフを見ていると、別の考えが過ぎるのだ。
 ひょっとしたら、その男性を殺したのは――。いや、男性だけじゃない。あの女性だって自殺なんかじゃなかったとしたら――。
 いや、こんなのは過ぎた想像だ。いくら先輩がどこか尋常じゃないからって、何人も人を殺してあんなにのうのうとしていられるはずがない。強盗や窃盗なら、罪の意識なんて微塵も感じずにやってのけてしまうかもしれないけど。だけど、いくらあの人でも殺人は・・・・・・。
 でも、それでは今この部屋にあるあのナイフは?
 恋人だか好きだった人だかを殺して自殺したとされる、先輩がかつて好きだった女性。彼女は、先輩をどこか自分に似ていると評したのではなかったか。いや、先輩自身が、その暗示によって彼女と同じ道を辿ったとしたら・・・・・・。
 考え過ぎだ。誇大妄想もいいところだ。
「俺って意外と想像力たくましかったんだな」
 うつ伏せになった状態で、顔だけ上げてへへっと笑ってみる。顔を上げるとまた、あのナイフが目に入った。
 ――殺す理由なんて、何も思うところのない相手より、好きな相手に対しての方が多くあると思わないか?
 そう言ってニヤリと笑った先輩の顔を思い出し、俺は目覚めてから何百何回目かの溜息を吐いて、何十回目かの寝返りを打った。



11.彼女 終
'07.10.31










最後がえらく長くなってしまいました。
配分が下手くそですみません。


一応、ぼっつぇ流星号αさんのリクにあった『恋愛絡みの短編』にしてみました。


どこが恋愛絡み!?(汗)


いやあの、オチがないとそういうの書けなくて・・・・・・。
すみません。


リクには主人公でも面白いかもと書いてあったのですが、「相手は幽霊でした。チャンチャン♪」というありきたりな設定しか浮かばなかったので、先輩にしてみました。


しかもこの手法って、ある話のパクリだったり(汗)
一度やってみたかったんですー! ごめんなさいー!



1で頂いたコメントを見て、「しめしめ。バレてないバレてない」と眼鏡を光らせていたのは私です。
重ね重ねすみません(汗)


えっと、あのぉ、ぼっつぇさん、こんなんでもよろしかったでしょうか?
(↑おそるおそる)







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Last updated  2007.11.08 22:42:45 コメント(12) | コメントを書く


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Comments

ふーたろー@ Re[5]:奇妙な隣人 9.5.猫 3(06/11) あやきちさんへ 返信大変遅くなって申し…
あやきち@ Re:奇妙な隣人 9.5.猫 3(06/11) お久しぶりです、お元気でしょうか? 今…
ふーたろー5932 @ ぼっつぇ流星号αさんへ お返事遅くなりまくりですみません! こ…
ぼっつぇ流星号α @ いやー 猫がいっぱいだーうれしいな。ありがとう…
ふーたろー5932 @ 喜趣庵さんへ お返事遅くなってすみません! 本当に元…

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