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2024年9月2日の夕食後、四人部屋の病室でテレビをつけた。特に目的があったわけではなく、ただ流れていた番組に目が留まった。NHKの「アナザーストーリーズ 運命の分岐点」だった。
その回で取り上げられていたのは、サイモン&ガーファンクル。番組は、二人の歩みや葛藤、そして再び同じステージに立つまでの物語を丁寧に描いていた。
番組を見終えたあと、不思議と胸がざわついた。その理由を確かめるように、ネットで和訳された歌詞を探し、YouTubeでサイモンとガーファンクルの歌を聴いた。
中でも「The Boxer(ボクサー)」は、そのときの自分の心情に、驚くほど重なってきた。
特に、この部分の歌詞が何度も頭の中を巡った。
年月は静かに過ぎていく穏やかに揺れながら
僕はかつてより年を取りそれでもこれからよりは若い
それは特別なことじゃない不思議でもない
変化に次ぐ変化の中で人は結局あまり変わらないまま変わっていく
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と告げられ、これからも続く治療への不安。そして、下肢麻痺という現実。
体は確実に変わってしまった。それでも、心の奥にいる自分は、思っていたほど変わっていないのかもしれない。そんなことを考えさせられた。
曲の終盤、もう一つの場面が胸に迫ってきた。
空き地に立つのはボクサーそれが彼の生業
倒されてきたすべての拳の痕を彼は背負っている
打ちのめされ涙を流し怒りと恥の中で叫ぶ「もうやめだ、去るんだ」
それでも戦う男はそこに立ち続ける
何度も倒され、傷だらけになりながら、それでも立ち続けるボクサー。
治療への恐怖、脚が動かなくなった現実、それでも、ほんの少し脚が動いたときに芽生えた希望。
そのすべてが、このボクサーの姿と重なって見えた。
夕食を終えたあとの病室は、昼間とは違う静けさがあった。同じ部屋にいる人たちの気配を感じながら、イヤホンをつけて「The Boxer」を聴いた。
この曲は「がんばれ」とも「負けるな」とも言わない。ただ、「それでも立ち続けている」という事実だけを、静かに肯定してくれる。
その感じが、あたたかく背中を押してくれているようだった。
あの夜の自分は、この先どうなるのか分からず、不安の中にいた。
それから月日が過ぎ、体は少しずつ変わり、できることも少しずつ増えてきた。
変化に次ぐ変化の中で、それでも、あの夜に音楽を聴いていた自分と、今の自分はどこかでつながっている。
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