おいしい 千葉 ~ponの食べある記~

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2006.10.31
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カテゴリ: 蒼緑の新ページ
自作のピアノ曲は、結局おなじクラスの女の子にたのむことにした。美和子には、小品を6曲渡したが、今度はピアノソナタと幻想曲のほうにした。本当は、小品のほうが自分らしいのだが、あれは彼女向けのセレクトであり、それが無くなってしまった今となっては、また新たな曲のほうが良いように思えた。

ある意味、彼女に対する配慮という側面もあった。同じ曲を、よその子がもっと上手く弾いていたとしたら、いやな感じを受けるだろう。最初から比較を避けることで、無用な音楽的ジェラシーを回避できる。

クラスの子は、初見の天才だった。難易度に関係なく、見た譜面をリアルタイムに鍵盤で具音化できる。ショパンもスクリャービンもドビュッシーも、初見で軽くこなす。いったいどういう具合になっているのか知りたくて、自作を試奏してもらったことがある。途中、左手だけで同時に7音か8音の和音をつかむトラップ箇所をつくっていた。その箇所にくると、こちらが予想だにしない指づかいと、平置きの指でそのとおり忠実に弾きすぎてしまう。何の躊躇もなかった。これには、さすがにびっくりしてしまった。楽譜と指先と鍵盤とが、精巧な機械のように直結してしまっている。世の中には、こんな子もいるのかと感心を通りこして、あきれてしまった。

そういう訳で、今度あらたに渡した2曲も、なんの問題もなかった。一度弾いた段階で、すでに80%出来ていた。曲のつかみが速い。この上に、こちらの意図するテンポや細かいアーティキュレーションを指示すれば、じゅうぶんだった。

日曜の午後に、美和子と待ち合わせて本町のJAZZ喫茶店にはいった。薄暗い店内には、あちこちにアンティークなしつらえがしてあった。棚にはレコードが何万枚とならび、天井のスピーカーからカビ臭いジャズが静かにながれていた。
「仮に、自分の顔を太陽とするだろう」
一度、彼女の顔をのぞきこむ。
「5m先に仁丹くらいの大きさの粒がある。これが水星。88日で太陽の周りを1周する。9m先にパチンコ玉より少し小さな粒がある。それが金星。12m先に雲や海の青が表面に浮きでたパチンコ玉がある。それがこの地球。1日1回自転して、365日で顔のまわりをぐるりと回る。18m先に、やっぱりパチンコ玉より少し小さな星がある。これが火星」

同じように説明した。60m先のピンポン玉が木星、120m先の輪をもったピンポン玉が土星、230m先のビー玉が天王星、360m先のビー玉が海王星、600m先の粒が冥王星。冥王星は約250年かけて太陽の周りを1周する。

「この全部のひとまとまりで太陽系というわけ。太陽から冥王星に到達するのに光の速さで5時間半かかる。これほど大きいんだ」
彼女はめずらしく頬づえをついて、黙って聞いていた。
「それで太陽と同じ恒星でいちばん近いのだって、4.3光年のケンタウロス座の星なんだ。たぶんそこにも同じように太陽系ができているだろうけどね。そこに、この地球みたいな生物のいる惑星があるとはとても思えない。一番近くてこれだから、もし地球外生物がいたとしても、それはこの地球までとても到達できるわけがない…」

UFOが実在するかどうかの話になって、私はむきになって(実在しない)ほうの理由を説明していた。
「どう頑張っても、物理的に無理かなと…。どうかした。顔に何かついてる?」
彼女は、笑いながら首を横にふった。
「いいえ、感心していたの。あなたって何でもよく知っているから」

彼女の友だちの淳子さんのことが話に出た。詩の雑誌の読者欄に、その子が出たことがあった。合唱用の詩を求めていた私は、同じ街の彼女がそういう詩を書けないかどうか、かなり昔に手紙を出してきいたことがあった。返事は手紙ではなく、電話でやってきた。(あくまで趣味でやっているので、そういう高度なものは私にはとても…)ということだった。
「…それで、あなたのことを知っていたんだ。話をしたらすぐにピンと来て、私のほうが驚いちゃった」

一週間すぎて、彼女から手紙が届いた。

Dear○○
お元気ですか。あなたと会ってから、もう一週間もたってしまいました。今頃どうしているかしら? と思っています。

このあいだ学校に、卒業生で声楽家の伊佐田理子さんがいらして、お話を聞く機会がありました。伊佐田さんは、これからオーストリアと日本を行ったり来たりしながら、精力的に活動を続けられるそうです。(モーツァルトがお好きなのだとか)ドイツ歌曲を中心に据えて(あなたの好みとぴったりでは?)あちこち回りながら、オペラ場の試験も受けられるとか。(みんな頑張っているんだなぁ。私も負けてられない!)

淳ちゃんの合唱部は、新入生を迎える前の新しいパート編成に着手したそうです。ちなみに彼女は、またまたアルトだったとか。今は、高木先生の「姫」と「白鳥」と大城さんのNHKの曲が中心だとか。高木先生のはいかにも高木節だけれど、この詩がとてもすばらしい。

そむかれた姫が池になって、池に近寄った人は帰れない…という姫の詩と、凍りついた白鳥の2本の足。それなのに白鳥は空へ飛ぼうとしてもがき、池には足が2本浮いている。春になって足のない白鳥が2本の足をくわえて空を飛んでいる…。おそろしいような詩だけれど、それを歌にしたらどんなに素敵なんだろうか。彼女のことばを聞いていて、そう思いました。

歌、それも合唱というのはハーモニーの美しさだけにひかれがちで、歌詞なんか無視してしまいがち。特に聴いている方は。でもそれは歌う方が言葉をはっきり発音しないで、和音に酔ってしまうせいもあると思うの。私もついこの間まで在籍していて、その傾向が強かったから、偉そうにいろいろ言えないけれど。これからはもっと、歌詞に重点をおいて聞いてみようと思います。

この3日間だけ、父が帰ってきたの。父は今「エンジニア」さん。エンジニアといっても、一種の発明家さんらしいの。私にはよくわからないけれど。コンピュータの製図機械とか、いろいろやっているそう。母は、一日じゅう出たり入ったりで、忙しく過ごしています。このごろ何となくやる気が出ない。すこし空虚な気分になっています。

話は変わるけど、このまえ話題に出た「若い川のながれ」を読みました。とっても明るくて、すがすがしい読後感でした。みさ子さんみたいな行動的で情けにもろい人もいいし、ふさ子さんみたいな理知的な人もいいなと思いました。室井と健介の友情もすてきだな、と思いながら読んでしまいました。この頃読んだ本の中では、芹沢光治郎の「巴里に死す」が感動的だったです。

何度もお手紙を書こうと思いながら、こんな汚い走り書きでごめんなさい。それ
では、かしこ。美和子より     =I respect you.=





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Last updated  2006.11.05 15:12:44
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