ボクの音盤武者修行

ボクの音盤武者修行

バレエ「火の鳥」全曲(ストラヴィンスキ


録音年:1972年4月22日、24日、28日、29日
録音場所:Paris、Salle Wagram



 小澤の才能を最初に認めたフランスはおそらくどの国よりも相性が良い(日本よりも)し、70年代は小澤が世界に向かって挑戦していた最もエネルギッシュな時代だ。凄まじい集中力と情熱的な演奏で聴いている側まで熱くなる。と書くとただ熱いだけの一本調子な演奏かと思われがちだが、この盤では演奏が始まった途端、まるで夢のように時間が過ぎてしまう。

 不気味な低弦のピチカートからどこまでも高揚していくクライマックスまで、片時も聞き手の耳を放さないドラマ作りとオケの(特に木管)の瑞々しく美しい響き。LP期のジャケット裏解説にあった「華麗にして繊細」という言葉そのままだ。火の鳥の出現から王女たちのロンドへ至る躍動感、王子の出現のホルンソロから始まる優しい歌と対照的な怪物どもに捕縛される場面の禍々しい響き。凶暴な踊りに聞かれる煽るようなリズム。子守唄の味わい深さ。深い闇からフィナーレへと向かう爽快さ、開放感はまるで山の頂上にいるようだ。そして焦らしに焦らされた最後の一撃のあとに訪れる音楽の悦び。

 ストラヴィンスキー初期の作品だけに陳腐な部分もあると聞くが、それを補って余りある小澤の瑞々しい感性の勝利だろう。まさにどこを切っても新鮮な果汁が滴り落ちるような素晴らしい演奏だ。
 そしてこれこそが小澤の持ち味であり、ドイツ物でもロシア物でも現代曲でも、変わらないスタンスだ。小澤の特徴を一言でと訊かれたら、「この演奏を聴け」と答える。

 残念ながら、ボストン響との再録音はパリ管盤の足元にも及ばない。確かに演奏はより滑らかに各場面を推移し、ダイナミックレンジも広く、音響も美しい。だがあえて言うと、躍動感と表現へのひたむきさが足りない。その意味でボストン響盤はどこか醒めた感じがする。

 ちなみに小澤の演奏の下敷きと思われるマゼール=フランス国立放送響盤(71年)は感覚の悦びに欠け、全てが人工的な感じだ。これは彼の強調癖と響きの少ない録音のせいだろう。


懐かしいジャケット画で復活しました!


ストラヴィンスキー:火の鳥
こちらは新盤(BSO)。流麗だけどちょっと面白くない。(笑)

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