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萎縮しない。増長もしない。
先週決めたばかりだが、ひとから「好きな花は何ですか」と尋ねられたら、「ゼラニウム」と答えることにしたい。
ひとによっては、何かの機会にわたしに花を、という際の参考にしようと聞いているのでもあろうから、好きな花がゼラニウムでは困るだろう。あれは鉢花だし、およそ花束とは無縁の存在だもの。それに、ほんとうは好きな花なら、もっとほかにある。
けれど、そこをおしてゼラニウムと答えたい。
なぜか。わたしがゼラニウムという植物に、ずいぶんと世話になっているからで、なんというかもう、頭の上がらない相手なのだ。植物にふれていたいと希って、いろいろの花を身のそばに置こうとするけれど、その世話には苦心が要る。ただ水をやるというのでも、わたしにとっては苦心のうちだ。繊細な相手なら、1日水をやり損なっただけで萎れ、復活に時がかかったりする。わるくすると、そのままぐっと具合のわるいほうへ傾いて、この世から消えてしまう。
ゼラニウムの丈夫なこと。水なんかはかえってやり過ぎないほうがいいくらいだし、しばらくほおっておいても枯れないばかりか、萎れさえ見せない。もともと、白花のをベランダの手すりに居てもらっていたのだけれど、丈夫さを見こんで、このたび、その数をふやすことにした。
ここで、以前、ゼラニウムのことを書いたことがあるのを思いだして本をひっくりかえしてみたら、あったあった。ゼラニウムが和名では「天竺葵/てんじくあおい」というのだと書いてある。忘れていた。そうして、当時のわたしは、ゼラニウムを、丈夫で育てやすいが、ほんとうはプライドの高い花なのかもしれないと見ており、いまだ(ゼラニウムに)手が出ない、と気弱に佇んでいる(『おいしいくふう たのしいくふう』所収/オレンジページ刊)。
そんなことも忘れて、いつのまにかしれっとゼラニウムをもとめていたというわけだ。
ただ、ゼラニウムと暮らしはじめて、その金属的とも云えそうな青い香りが無性になつかしかったことはよくおぼえている。その香りに包まれて遊んだ日のことが、鮮明によみがえる。わたしはそれを、祖父母の家の庭で嗅いでいた。花の香であることも、ましてやそれがゼラニウムのものであることも認識していなかった。ただ、記憶のなかに棲みついていた不思議な香り。ああ、ゼラニウムだったのかと知った日、そういえば、ベランダでひとり涙ぐんだのだったなあ。
やっとはなしは現在にもどるけれど、ともに暮らす植物をひどい目に遭わせたくないという理由から、そして、わが手間がなかなか植物に向けられないというもうひとつの理由から、ゼラニウムの数をふやす。これで通年花をたのしめるし、植え替えもそうはしなくてすむということになった。
こうしてゼラニウムという花が、わたしの相手としてとても安定した存在になっていることがわかる。
さて。冒頭の「萎縮もしない。増長もしない」とことばは、美容院で髪を切ってもらっているときに、膝の上にひろげた雑誌にみつけた。老眼鏡なしに文字を読むことのかなわなくなったわたしは、美容院では、雑誌の写真だけを眺めている。けれど、このとき、雑誌にいまや国民的人気グループになった「嵐」の「二宮和也(にのみやかずなり)」の写真をみつけて、人知れずときめき、こっそりケープのなかの手提げから眼鏡をとりだして文字を拾ったのだった。
(なになに……?)と、小さくつぶやいて。
二宮さんのことを、彼と親しい俳優の「高橋克実」が、こう評していた。「ニノ(二宮さんの愛称)は、どんな相手に対しても萎縮しない、増長もしない」と。ほほお、と感心して、こんどはこっそり鉛筆と手帖をとり出して「萎縮しない。増長もしない。ニノ」と書きつけておいた。
「萎縮しない。増長もしない」という対になるふたつのことばは、以来、わたしのなかに居すわって、ときどき、わたしに向かって呼びかける。「ほらほら、アナタも萎縮しない、増長もしない、で、ゆくんじゃなかったのかい?」というふうに。
わたしなんかは、この年になっても、ひとという相手にたいして萎縮しがちである。萎縮していたかと思うと、妙なことをきっかけに増長してしまうらしく、それで痛い目に遭う。いつしか「相手」ではなく「あいて(痛)!」になる。あいてててて、である。 こんなふうにはじめは、ひとが相手になる場合にこのことばがすっとあらわれてきたのが、最近は、いろんな相手に対して当てはまることがわかってきた。たとえば、お金。たとえば、あらゆる仕事。
とくにお金のことでは、かなり萎縮している自分に気がついてぎょっとした。いつかそのあたりのことが書けるといいのだけれど。
そこへいくとゼラニウムは、誰に対しても萎縮しない、増長もしないという姿勢だなあと思わされている。それが、ゼラニウムの頑丈さだという気がして、ますます頭が上がらない。 
このたび、あたらしくやってきてくれた
ゼラニウムです。
花色は、サーモン系のやわらかいピンクです。
この場所の担当者が、旅の仕事でいなかったあいだ、
ビオラたちの世話がゆき届かず、株を弱らせてしまいました。
(ごめんね)。
そこで、丈夫なゼラニウムに、バトンタッチ。
(末永くよろしく……)。