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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2011/10/18
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カテゴリ: 生活

 雨が降ってきた。
 まず、物干しを思い浮かべる。洗濯もの……は、きょうは外に干さなかった。つぎに思い浮かべるのは、「きょうは、どこを洗おうか」ということだ。雨脚がつよくなってきた。これはいい。風がないところも、具合がいい。けれど、もうちょっと待つほうがいい。雨が地面をすっかり濡らすまで。
 ひと仕事片づけるあいだ待つことにする。思いついたことを宙に浮かせておいて、べつの仕事をする、というのは、なかなかむつかしい。ひと仕事、と思うけれど、とりかかっていた原稿はまだだいぶ時がかかりそうだから、それを脇にやり、挿絵を3枚描いてしまうことにする。
 挿絵はいつも、はがきサイズの情報カード(無地)に描く。うまくすると、するするっと終わるけれど、何にひっかかるのだか、なかなか終わらないことがある。ただし、描きなおすということは、ない。もうずいぶん長いこと、挿絵らしきものを描いてきたが、描き損じというのは3回くらいしかしたことがない。
 出だしで線が縒れてしまい、あらま、とつぶやいて紙を裏返し、気をとりなおしてまた描く、というのは描き損じのうちに入らない。紙を無駄にしていないからだ。
 挿絵は運よく、するするっと描けた。運がよかったのではなく、おそらく思いついたことのほうへ早くうつりたいというこころが、するするっといかせたのだろう。そういうことは、よくある。出かける前の家事なんかは、もう、するするするするっとすすむ。
 挿絵を透明の袋に入れ、小さい紙にうんと短い手紙を書いて、それらを封筒におさめる。宛名と住所を書き、差しだしのほうには住所印を押し、封のスタンプ(その日の気分でハリネズミのか、羽根のかを選ぶ)も押し、切手を貼って、「速達」と赤いペンで書く。これを「うちのポスト」と呼んでいる玄関の靴箱の上に置いて、ここでこの仕事はおわりだ。
 ひと仕事が完了した。やっと思いついたことのほうへうつれる。
 雨合羽を着こみ、傘をさして玄関を出る。傘を左手に持ち、右手にはデッキブラシを持った。玄関前の石の階段は雨に濡れて、すこし雨水がたまっている。いい具合だ。ここを、デッキブラシでごしごしこする。小さな門の前を傘をさしたひとが通り、ちらっとわたしのほうを見る。ちらっと見た目が、「へ?」と、驚いたふうな感じになる。
 わたしなら、雨のなか傘をさし、もう片方の手に持ったデッキブラシで玄関前をこすっているひとを見ても、「へ?」とはならないだろう。そういうことを思いつく同志のように思えて、ずいぶんうれしくなるだろう。



「東日本大震災のあと、どういうところがいちばん変わりましたか?」と、幾度も尋ねられた。そのたびに、いろいろの答え方をしてきた。答えはひとつではなかったけれど、全部ほんとうのことだった。ずいぶんいろいろな答えをしてきたいま(きょうは震災から7か月が過ぎ、8か月めがはじまった日だ)、いちばん変わったのはこれかなあという答えに突きあたったような気がしている。
 水のことだ。
 震災前、朝風呂に入っていたわたしがそれをやめたところから、そのことははじまっている。朝風呂は、朝風呂にはちがいなくても、掃除だからという大義を自分に向かってささやきつづけていた。でも、震災のあと何日も何週間も、ある場合はひと月以上も湯船に浸かれなかったひとのはなしを聞いて、朝風呂には入れなくなった。
 風呂の湯は2日に1回替えるようにした(以前は毎日替えていた)。洗髪は2日に1回、これは以前からだ(娘たちは、毎日洗っている)。
 風呂に浸かりながら、水のことを考えた。ああ、水をもっともっと、大事にしなけりゃと思った。夏になり、ますます水のことを考えた。夏でも、湯船に浸かるのがからだにいいことは知っていたが、どうもそういう気にならなかった。バケツ1杯の水か湯で、自分ひとり分のからだをきれいにすることくらい平気でできるひとになりたいなあと思った。
 家の者たちのためには湯をためてきたが、夏のあいだ、こっそりその練習をした。髪を洗うときは、湯がたりなくて、ちょっとシャワーを使った。



 雨が降ると、デッキブラシで玄関前をこすったり、たわしでベランダの手すりをこする。いまに雨の日に庭に出て、髪を洗ったりするかもしれない、わたしは。




Photo



雨のはなしを書いたので、傘を思いだしました。
この折りたたみの傘は、三女が保育園を卒園するとき、
記念に贈られたものです。
ですから、もう7年半、使っているわけです。
長いつきあいになってきました。

Photo_2



主に、学校の置き傘として使ってきたとはいえ、
子どもが思いきりよく(乱暴に、と言い換えることもできる)
使うので、これまでに3回骨が折れました。
そのたび修理して(この傘を扱っていた店で)、ほら、この通り。

Photo_3



この傘の骨、丈夫にできています。
丈夫で、修理がしやすいというふうです。

水も大事、道具も大事。
このごろとみに思うことです。



※お知らせ

東京・池袋の「自由学園 明日館」で、
小さなおはなしの会をおこないます。
この会のタイトルは、
「家の仕事に憩いあり」。
ご興味のある方は、どうぞお出かけください。
詳細は、 こちら へ。







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最終更新日  2011/10/18 10:00:00 AM
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