ルナ・ワールド

ルナ・ワールド

悲しい決断



彼女と、とある街中の道を歩いてた。

人気がなくて静かな日曜日の朝。
周りはみんな教会にでも行っているのだろうか。

ふと

子供のころよく親に連れられて行った
日曜日の朝の野菜市場を思い出して
彼女にその話をしてみた。

「俺さ、子供のころ、日本に住んでたじゃん。
日本だとさ、キリスト教徒の人って少ないから
朝は教会に行く日、とかって決まってなくて
単に仕事がお休みの日なんだよ。
それで家の親はよく
近所の農家の人たちが集まって開いていた
野菜市場に連れて行ってくれてたんだけどさ
そこで買った野菜ってやっぱりおいしんだよね。
スーパーとかの店で買うものとは全然違うんだ。」

「へ~。・・・。
ねぇ~え。
もし私たちが結婚したとして
子供ができたとしたら
ケンは子供も一緒に日本に住みたいと思うの?」

「・・・」

どんよりと曇った空が
突然俺を押しつぶす。

何を言ったらいいか、
わからなかった。

突然黙り込んでしまった俺を見て
彼女は
「ごめん・・・。
深い意味はなかったんだけど。
そんなに考え込んじゃうとは思わなくて・・・。
ただ単にさ、ケンにとって日本は故郷だって知ってるから。
だから子供たちにもそれを経験させたいのかな、と思って・・・」

その日は彼女と別れてからも
彼女のその言葉が頭から離れなかった。

「もし子供ができたら
子供にも日本で暮らしてほしい?」

そりゃあ、日本は知ってほしい。
日本語だって知ってて欲しい。
結局は日本語が俺の母語なんだ。

でもそれは俺のワガママなのか?
白人系ハーフの俺と
黒人・白人ミックスの彼女の間に子供ができたら
子供は見かけ上、東洋系には全く見えなくなる可能性が高い。
そんな子が日本語をぺらぺら話せたって
周りは珍しいもの扱いするだけだろう。
そして日本人としてのアイデンティティーを持ったって
周りの「日本人のはず、ない」という認識とのギャップに
苦しむだけじゃないのか。

俺ですら溶け込めなくて
自分と周りとの「俺」という存在の
認識のギャップに苦しんだ日本。
そんなところに更に見かけ的に
「日本人」から遠のいてしまう子供。

そんな子に「先祖に日本人がいる」という程度以上の
日本人アイデンティティーを植え付けるのは
酷だ、
と思った。

答えは
子供には日本での生活を味わわせないだろう
ということか・・・。

「俺」という人間の大部分を
子供とシェアできないと言うことか。

その晩は枕が濡れた。


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