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保険の異端児・オサメさん![]()
いつも会ってはいるが、女房の「たま」ちゃんしかしかわからない。
声をかけた。「あーら、センセ」とたまちゃんが驚いた。
「何してるの」
「椎名さんが、ほら、あそこを」
見えた。ふらふらと前方を歩いている一人。「心配なのよ、ね、あの歩き方」
そういえば、椎名さんは店にいる時から相当に酩酊していた。
と改めて見れば、もう一人、ふらふらと歩いている影がある。
確かに見覚えがあった。藤井!
かくして、二人の男の後を追いかけることになった。椎名はいつの間にか見えなくなっていた。追いかけている玉ちゃん夫婦も見えなくなった。ワシは一人、「よろよろマン」を追いかけた。
<藤井>を尾行した。通りすがりの店の前に近づいてはまたふらふらと歩き続ける。
名前を呼んだ。藤井さん藤井さん。
ワシの声が聞こえない…ではなかった。名前を間違っていた。「東大君!」と呼んだら立ち止まった。 この地域では「東大君」と呼ばれていた。
「声は聞こえていたんだ。でもね、名前が違うから。ぼく、堀内」
こちらが間違っていた。堀さんだった!! 「あなた、いつか、彼女と駅構内のコーヒー店で仲良く話していたね」
そう、「彼女」ではないが、<生徒さんM>の原稿に朱を入れていた。彼はそれを見ていた。「生徒さんだかなんだかしらないけれど、睦まじさがほの見えた」と堀さん。
ひえー、じつはワシの彼女。
じつに久し振りだった。オーナーも店名も変わった昔の店に今でも通っていると言う。
そこでの再会を約束して、少し彼の家路のほうへ歩き、「では、私はあっちだから」と踵を返して別れた。
それから、再会を思い返しながら30分歩いた。
なんだか、あまりしまらない二重の尾行の顛末。でも、地元の夜は面白い。そして、昔の仲間にばったり会ったのも面白かった。
だが、ほんの少しの不満もある。ワシもさっさと家へ帰ればよかった。なのに、「東大君」が、ただ「気持ちのいい客」として歓迎され、飲んだくれている、ということを確認してしまった。
多分、飲めなくなる日まで、ああして飲んでいて、ある日、「あの方、亡くなったわよ」という情報を耳にするのだろう。
ワシが彼よりも生き延びていれば、の話だが。