足下不確かな手帳

足下不確かな手帳

2006/09/05
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カテゴリ: 短い創作
1月7日

 6日の晩はヘミングウェーの「武器よさらば」を読もうと思い、意気込んで布団に潜ったのだが、その熱意はほんの30ページあまりで萎えてしまった。文体のタンパクさと恋愛模様の口に合わなさ加減がメーターを振り切ったのだ。これだからアメリカ小説って奴は。俺は毒づいて眠ってしまった。「老人と海」は、まあそっちもタンパクだったが、まぁまぁ面白かったから、期待したのがマズかったのかもしれない。それにしても、何なのだろうこのアメリカン特有のタンパクっぷりって奴は。プロテインじゃあるまいし。あの大陸の連中はマッチョイズムに汚染されているに違いない。彼らを東洋的風流さに浸からせ、静養させなければなるまい。……といっても、連中としては連中そのままで問題ないのだろうから、わざわざ俺に適合するように人種を作り替える必要性なんざ、何処にもありゃしないわけだが。ちくしょう、三文芝居だ。俺ってピエロは例によって他称「自我劇団」の劇場で踊り狂っていやがる。だが、まあそれはいい。なにしろこれは6日の夜の話で、この文章は7日の日記なのだから、話に盛り込む必然性は感じられない。

 ……それにしても、はっは、必要性に、必然性と来たか。こりゃ、俺の中に何かしらの定義があるとみて間違いないな。その定義に基づいて、俺は俺らしく話すことが出来ているってわけだ。今は一月で、つまりはそれは冬の価値観だ。もうじき冬は終わるから、価値観は生き残りを賭けて孤軍奮闘しているが、そんなもの、無駄なあがきの代表格。生き残れやしない、人間の出来得ることなんて知れている。季節を覆したり、昼夜を逆転させてみたり、そんなことはSFの話で、それも荒唐無稽なSFにふさわしい話だ。奴は、冬の価値観は死ぬだろう。そうして次がやってくる、まるで奴らは消耗品だ。春の価値観、ふむ、また俺は半端な季節のおかげで体調を崩すってわけか。いやあ、居た堪れないねえ! 半端な奴、可哀想に、そんな言い方をされてしまって。「半端」ってほどの侮辱はそうそう無いような気がする。とはいえ、大抵のブツは半端なものだというのも、また事実ではあるけれど。

 さて、いつもの通りにズレにズレた話をずずいっと戻そう。7日の話だ。明日から高校がまた始まって、それから3ヶ月ぐらいすれば俺は栄えある最上級生、私立N高校3年、理系クラス1組、ナンバー20代前後、となるわけだ、が、そんなことはどうだっていいし、これからも有用になるたぐいの話じゃない。どうせ俺は馬鹿正直に授業をこなし、そのまま大学に進み、まるで変わり映えしない社会に放り出される。俺の現在位置から、前を見ても、後ろをみても、ほとんど一緒、前と後ろっていう違いがあるばかりなのだから、そんなことはまったくどうだって良く、これから有用になることなんて絶対にあり得ない。のだから、俺はその辺を丸々すっ飛ばして、今日のことだけを書く。八歳児のころから延々と書き連ねてきた日記の中で、今日だけがこんなに分厚く肥大しているのは、言ってしまえば、そのような理由によるものだ。

 さあ、今日の話だ。





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Last updated  2006/09/05 07:43:33 AM
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0のま0 @ おや? お久しぶりです。 まずは大学合格おめ…
0のま0 @ 待ってますね。 そういう時期ってありますね。 なんと…
新石司 @ Re:いや、僕もそうでしたw(09/05)  コメントありがとうございます。  …
0のま0 @ いや、僕もそうでしたw 柄にもなくそれなりに勉強していたんです…
新石司 @ Re:なるほど。(08/30)  あ、いえ、正直なところ、僕としても何…

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