東方見雲録

東方見雲録

2026.05.17
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カテゴリ: 郷土



「昔からやってはいたのよ。戦前に作られた浜井戸の水を使ってね。野菜、スイカ、ブドウ。いろいろ作ってました。『嫁殺し』なんて言われてたけど」

 物騒な言葉にギョッとして訊(き)き返した。「よ、嫁殺し?」

「昔ながらの砂丘農業だと、一斗缶とか、木製の桶(おけ)で水を汲(く)んで、持ってくる必要があったのよ。天秤(てんびん)棒で担いで、畝間(うねま)を歩いて水やりをして。とても過酷ってことで『嫁殺し』って呼ばれていたわけ。でも今はほら、見てよ」

 ギギーッという音とともに、数台のスプリンクラーが作動し、畑に自動で水をまき始めた。

「日本で初めてスプリンクラーの試作に成功したのは、鳥取大学なのよ。アメリカ製のは高くてとても買えない。古市にあった日ノ丸金属工業って会社との産学連携で、スプリンクラーを作ったの。その結果、砂丘発の特産品も沢山できたわけ。ネギ、長イモ、大根、キャベツ、メロン、ラッキョウ」

「それって、いつ頃の話ですか」

「戦後、新制鳥取大学になったあと。試験場が湖山から浜坂に移った頃だからなあ」

 星野は少し考えてから続けた。

「確か、スプリンクラー開発が始まったのが一九五〇年。完成したのは一九五五年かな」



 食糧難の時代に、砂丘で作物を育てようとしたのだろう。

 人力による水やりは、とてつもなく効率が悪い。管理できる畑の面積が限られてくる。とれる作物の量も減ってしまう。少しでも効率的に作物を育てるために、「砂丘での水やり問題」を解決する必要があったようだ。

「昔は農水省の役人から『砂丘地で農業ができたら、太陽が西から昇る』とまで言われていたみたいだけど。一九七〇年代には砂丘農業に道筋をつけることができたから、今はもっと、大きなことをやってるのよ」
引用サイト:麦は枯れない #5 序章 タンポポ(5) 新川帆立・作 金子幸代・画   こちら

関連サイト:新川帆立さん 新小説『麦は枯れない』執筆 日本海新聞オリジナル 鳥大乾地研が舞台   こちら







引用サイト: こちら



関連サイト:小麦変異体 成長より生存 乾燥適応の仕組み解明 辻本特任教授参加の研究グループ   こちら
鳥取大乾燥地研究センターや神戸大など5大学の研究グループは、乾燥に強い小麦の変異体「WS1」を解析し、成長より生存を優先する状態となり水消費量を抑制していることを突き止めた。植物が水を節約する新たな仕組みが明らかになり、干ばつに強い作物の開発が期待される。(平塚千遼)


日本海新聞 0516


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Last updated  2026.05.17 09:00:05
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