プレリュード

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2010年10月01日
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「名曲100選」 ベートーベン作曲 ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」

この曲にまつわるエピソードには、ロシアの文豪トルストイが書いた小説「クロイツェル・ソナタ」があります。 倦怠期のロシア貴族の一家庭の不倫事件を扱っており、貴族の妻が家庭に出入りするヴァイオリニストと恋に落ちたと思い込んだ夫が嫉妬のあまり妻を殺すという物語ですが、その不倫の発端となったのがこの「クロイツェル・ソナタ」の男性教師と妻との合奏だったのです。 トルストイはこの小説の展開上、この曲を重要な予想として扱っています。

またチェコの作曲家ヤナーチェックは、このトルストイの小説を読んで「トルストイのクロイツェル・ソナタに霊感をうけて」と題した弦楽四重奏曲第1番を作曲しています。

ベートーベン(1770-1827)はヴァイオリンソナタ第5番「春」を書いた後、6番ー8番を作品30として一括して出版したあとに、1803年5月にイ長調の第9番「クロイツェル」を書き上げています。 ベートーベン32歳の春でした。 交響曲では3番「英雄」が完成間近の頃にあたります。 彼はヴァイオリン・ソナタを全部で10曲書いていますから、「傑作の森」と呼ばれる中期以前の第1期にすでに9割のソナタを書き上げてしまったことになり、最後の10番の完成はほぼ10年経った1812年まで待たねばならないのです。そして1812年以降、亡くなるまでの15年間はとうとうヴァイオリンソナタを書くことがありませんでした。

ベートーベン以前のヴァイオリン・ソナタ、例えばW.A.モーツアルトなどの作品はピアノが主体でヴァイオリンが序奏的な楽器として扱われていました。 華麗に踊るかのようなピアノの動きがヴァイオリン・ソナタに見られたのです。 ヴァイオリン・ソナタと言えばヴァイオリンが華やかに活躍するソナタという現代の定見とは違ったヴァイオリンの扱いでした。

ところがベートーベンが作曲したヴァイオリン・ソナタはまるで「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」に変わっています。現代の私たちの定見と同じです。特にこの曲には「ほとんど協奏曲のように競い合って演奏するヴァイオリン序奏付きとのピアノのためのソナタ」とベートーベン自身によって楽譜に書かれているそうです。

協奏曲風と呼ぶよりもきわめて二重奏的な色合いの濃い曲となっているのが特徴です。 これは前作の第5番「春」についても言えることですが、ヴァイオリンとピアノのパートが独立性が高く、まるで2つの楽器による二重奏といった趣きで、決してヴァイオリンパートは「助奏」ではありません。 もっとも曲を聴けばそんなことはすぐにわかるくらいにきわめて優れた二重奏曲であると理解はできますが。

演奏時間は30分を超す雄大・壮大な規模で書かれており、3楽章形式です。

第1楽章は、二つの楽器の対話で進む緊張感にあふれたアダージョ・ソステヌートで始まり、大規模な主部へと進んでヴァイオリンとピアノの掛け合いによる張り詰めた緊張を伴う音楽に耳を奪われます。

第2楽章は、アンダンテでしかも変奏曲風にと書かれていて、変奏曲スタイルによる緩やかなテンポの楽章で、風格ある主題が提示されたあとに4つの変奏が行われ、しかもカデンツァとコーダ付きという重厚なアンダンテ楽章です。



まさにヴァイオリンソナタの音楽史上でも稀な大傑作です。

ベートーベンは、この曲をイギリス国籍のブリッジタワーというヴァイオリニストに献呈するために書いたと言われています。 ですから初演はこのブリッジタワーとベートーベンによって行われたのですが、完成が遅れたために初演のステージでは、楽譜の清書が間に合わず、第2楽章はヴァイオリンは草稿のまま、ピアノはスケッチで演奏されたというエピソードが残っています。

ブリッジタワーに献呈するために書かれたこの曲が、何故「クロイツェル」なのか? それは初演のあとベートーベンとブリッジタワーが不仲となり、献呈はフランスのヴァイオリニストのロドルフォ・クロイツェルに献呈されてこの副題がつけられたそうです。

しかし、クロイツェル自身がベートーベンの激しい音楽を好んでいなかったので、彼によってこの曲は一度も演奏されなかったという後日談が残っています。

愛聴盤

(1) ギドン・クレーメル(VN)  マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)


447054 1994年録音
(ドイツ・グラモフォン 447054 1994年録音 輸入盤)

「激しさ」と「熱情」に満ちた気分が伝わってくる鋭角的な鋭さを備えた演奏。


(2) アルテュール・グリュミオー(Vn) クララ・ハスキル(P)

UCCP9521 1959年録音
(Philips原盤 ユニヴァーサル・ミュージック UCCP9521 1959年録音)



(3) 西崎崇子(Vn) イェネ・ヤンドー(ピアノ)

8.550283 1989年録音
(Naxosレーベル 8.550282 1989年録音)

これほど無個性とも呼べる演奏はないとでも言えそうな、まさに模範的に弾かれた演奏で聴き終わった後に、じっくりと音楽を聴く喜びを味わえる、世界で最も録音回数の多い、Naxos社長夫人である西崎の演奏。

(4) ジョス・ファン・インマーゼル(Vn) ヤープ・シュレーダー(P)

BVCC1688-70 1987年録音
(ドイツ・ハルモニアムンディ原盤 BMGジャパン BVCC1888-70 1987年録音)




(5) ヨゼフ・スーク(Vn) ヤン・パネンカ(ピアノ)

20CO2846 1964年録音
(チェコ スプラフォン原盤 日本コロンビア 20CO2846 1964年録音 廃盤)

情感豊かに歌い上げるスークのヴァイオリンは、常に緊張と優しさにあふれ拡張の高さに満ちた音楽を聴かせてくれます。 この演奏を一番気に入っていますが、この曲の単売としては廃盤となっているようです。ジャケット写真はコロンビアがリリースした「スプラフォン・ヴィンテージ コレクション」シリーズで、ベートーベンのヴァイオリンソナタ全10曲が4枚組となっているものです。 DENON CREST1000からでも再発売を願ってやみません。








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最終更新日  2010年10月01日 00時15分08秒 コメント(2) | コメントを書く


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