皆さんは最近、居酒屋に行っていますか? 一連の不況の影響で、消費者の財布の紐はギューっときつくなっているようですが、それにより外食産業は大きなダメージを被っています。中でも居酒屋に代表されるようなアルコールが絡む業態では、そのマイナスの幅は甚大です。
確かに居酒屋は生活に必須なものではないかもしれません。とは言え、多くの会社員にとっては、同僚や友人とのコミュニケーションのため、あるいは日頃のストレス発散や、生活の潤いのために、居酒屋は大切な存在であることも間違いありません。
今回は、そんな居酒屋で皆さんが普段何気なく頼んでいるであろうお酒について、少し考えてみたいと思います。
まず、乾杯と言えばビールです。いえ、「乾杯と言えば、ビールが定番だった」とした方が実は正確かもしれません。「若者のアルコール離れ」という 言葉が最近しばしば聞かれますが、とりわけ「ビール離れ」は深刻です。居酒屋において最初からサワーやカクテルを飲む若者が増えていますので、「とりあえ ず生!」というフレーズは、近い将来に死語になってしまうかもしれません。
さて突然ですが、皆さんが最初にビールを飲んだ頃のことを思い出してみてください。おそるおそる口にしたビールは苦いばかりで決しておいしいとは 思わなかったはずです。「大人は何でこんなまずいモノを、あんなに嬉しそうに飲むのか理解できない」というのが大抵の人の第一印象だったのではないでしょ うか。
しかし、大学生あるいは社会人になって、先輩や上司と飲む機会が増えると、「ビールしか選択肢のない状況」が頻繁に訪れます。そんな環境で仕方な く飲んでいるうちに、次第にその味に慣れていき、気づけばビールのうまさが体に染み付いてしまった。多くの人のビールとの関係は、こんなものではないかと 思います。
誤解を恐れずに言えば、ビールとは決して最初からおいしいと感じるものではなく、何度も何度も接しているうちに、そのうまさに次第に目覚めていくという類の飲み物です。この点は子供が飲んだとしてもおいしいと感じるかもしれない甘い果実酒やカクテルとの大きな違いです。
しかし、近年、若者の間ではそのような「都合上、ビールを飲まざるを得ない状況」が急激に減少しています。大学でもサークルなどのコミュニティにわざわざ属さなくなり、社会に出ても仕事後に先輩や上司と無理して飲む時代ではなくなってきました。
そうすると、酒を飲む機会自体が減り、また飲むとしても気の合う仲間と好きな味のカクテルやサワーを楽しむだけという状況ですので、わざわざ“苦くてまずいビール”に手を出すことはなくなるでしょう。
こうして若者はビールの魅力を知らないまま、20代後半、そして30代へと年を重ねていくことになります。そんな彼らがある時を境に急にビールのうまさに目覚めて、がぶがぶ飲むようになるとは、とても考えられません。
国内のビールの市場は長らく微減傾向が続いていますが、現在ビールを飲み支えているユーザーが高齢化したある時期から、微減どころか急速に需要が「消滅」していくのではないでしょうか。そのスピードは関係者の予想をはるかに上回るかもしれません。
そして、アルコール類のいわば「登竜門」であるビールを飲まない彼らが、一足飛びに日本酒や焼酎、ワインなどを好んで飲むようになるとも思えません。
すると、それらアルコール全体の市場も今後極めて小さくなってしまうことが予想されるのです。お酒好きの私にとっては、そのような未来予測は寂しい限りです。
ビールやアルコールの行く末の心配はこれくらいにして、居酒屋に話を戻しましょう。「ビールの後の2杯目」として何を頼むかは、人それぞれです。
最後までビールで通すビール党もいるでしょうし、ビールでのどの乾きを癒したところで今度は味わいを楽しむために日本酒を飲むという人もいるでしょう。そんな中、注目してみたいのは「ウーロンハイ」という飲み物です。
ウーロンハイとは焼酎をウーロン茶で割った飲み物で、特に中高年男性に人気があるようです。人の味覚はまちまちですから、あまり乱暴なことは言え ませんが、私自身はウーロンハイというものは、決しておいしいとは感じません。私の周囲に聞いてみても、似たような印象を抱いている人が多いので、必ずし も偏った意見というわけでもなさそうです。
では、なぜ一部の中高年男性はウーロンハイを飲んでいるのでしょうか? 1つには、飽きることなくダラダラと飲み続けられるからという理由がありそうです。
別においしいとかまずいという視点で選んでいるわけではなく、酒を飲んでほろ酔いになりたいから、あるいは宴会の間をウーロンハイで通したいか ら、というのが実は支持されている要因のような気がします。ある種の「惰性飲用」とでも言えるかもしれません。ウーロンハイ以外にも、焼酎の水割りやレモ ンサワー、あるいは最近人気が再浮上してきたホッピーなどにも似たような飲用動機を感じます。
また、その惰性と合わせて、 前回 に取り上げたテーマですが、少しでも体への負担の少ないものを飲みたいという理由もありそうです。ウーロン茶にはカロリーが含まれていませんし、ダイエットに良さそうな(少なくとも悪くなさそうな)イメージがあるのでしょう。
最近ではサントリーが発売しているトクホの「黒ウーロン茶」を使った「黒ウーロンハイ」というメニューもよく見かけます。同様に、レモンサワーもビタミンが取れそうなので、体に対するプラスの印象があるのだと思われます。
つまり、居酒屋で2杯目のドリンクとして頼む人の多いウーロンハイ、レモンサワー、焼酎水割りなどは、「おいしくて好きだから」という積極的な理由ではなく、「飲み飽きないから」そして「体に悪くなさそうだから」という消極的な理由で選ばれていると考えられます。
その意味では「ビールの後の2杯目」というポジションには、強く支持されている強力なアイテムがあるわけではなく、マーケティング的にはチャンス が隠れていると言えるかもしれません。ここに積極的に注文したくなる商品を投入すれば、その大きなマーケットを捉えることができるのではないでしょうか。
ちなみに私の知っている店では、自家製の生姜シロップを使った「生姜サワー」が大人気です。味に対する評価が高いのはもちろんですが、「自家製」 という事実に由来する温かさや希少性、そして生姜が持っている体を守ってくれそうなヘルシー感によって、ファンになる人が多いようです。これはその「2杯 目のポジション」をうまく獲得した事例と言えるでしょう。
このように「ビールの後の2杯目」に着目してみると、最近話題を集めている「ハイボール」の違う側面が見えてきます。日経トレンディが発表した2009年の「 ヒット商品ベスト30 」でもハイボールは見事ランクインしていました。
ヒットの理由としては、サントリーの営業戦略やマーケティング戦略が優れていたからとされたり、あるいはビールよりも安いその価格設定が不況の時代に支持されたから、と解説されているのをよく見かけます。
これらがその理由であることは間違いないとは思いますが、それに加えて、「ビールの後の2杯目」という長らく目立った動きがなかったポジションにスッと入り込んだからというのも、ヒットの大きな要因であるように思います。
消費者は「ビールの後に何を飲もうかなぁ。レモンサワーもウーロンハイも焼酎水割りも、どれもピンと来ないなぁ。あっ、ハイボールがあるぞ! これにしよう」というような心理で注文をしているのではないでしょうか。
さらにハイボールやホッピーが最近存在感を増しているのを見て感じることがあります。それは消費者はお酒に対して今や「ウンチク」を求めていないのではないかということです。
日本酒の地酒やワインには、産地やら原料やら作り手やらといった知識やウンチクがつき物です。もちろん愛好家にとっては、それ自体が楽しみの対象でもあるのですが、お酒に詳しくない大抵の消費者にとっては、わずらわしいものです。
数年前に起きた「焼酎ブーム」はまだ皆さんの記憶に新しいと思います。その時には、焼酎の品数を揃えることに躍起になっていた居酒屋が数多く存在しました。そして消費者はその品揃えやウンチクを楽しんでいたものです。
しかし最近ではそのような焼酎の銘柄数を誇る店はめっきり減ってきたようです。むしろ今の時代は「楽しく、そして安く飲めればいい。だから小難し いウンチクはどうでもいい」という傾向が強まっているのでしょう。ハイボールやホッピーのブレークは、そんな世の中の空気をまさに象徴しているように感じ られます。
ビール、ウーロンハイ、ハイボール。私たちが居酒屋で何気なく飲んでいる身近なお酒からも、人々の心理や世の中の動きがいろいろと見えてくるのではないでしょうか。
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