招待制から登録制へ、地方攻略の切り札として期待
ミクシィは3月8日より、同社が運営するソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「mixi」のテレビCMを展開し始める。展開するエリアは北海道、東北、関東、中部。3億円を投下してマスプロモーションを展開していく。
ミクシィにとってテレビCMは初の試みだ。2009年12月末時点でmixiは1858万人の会員を獲得しているが、これはユーザーが友人・知人を誘うことで拡大してきたもの。プロモーション費用はほぼ使っていない。
ここにきて、マスプロモーションを始める背景には、さらなる会員増を目指すことに加え、同社の登録方法の変更によってマスプロモーション自体が可能になったという事情がある。
3月1日、ミクシィは従来の招待制に加えて新たに登録制を開始した。これまではユーザーは加入したくても、既存の会員からの招待を待つ必要があったが、 今後は自ら登録して加入できるようになる。つまり、従来の招待制時にはマスプロモーションで興味を喚起しても意味がなかったわけだ。
ミクシィ社長の笠原健治氏は「mixi自体を知っていても、周りにやっている人がいなければ加入できなかった。登録仕様の変更でこうした人たちに入ってきてほしい」と期待を寄せている。
ただ、ここで疑問も出てくる。なぜネット企業がテレビCMなのか、だ。
電通が2月22日に発表した「日本の広告費」によると、ネット広告市場のみプラス成長、そのほかのマスメディアは軒並み前年比10ポイント以上も下げた。テレビに関しては5年連続で前年実績を下回っている。
新聞の広告市場も抜き去り、がぜん存在感を増すネット。その中心的プレーヤーでもあるミクシィがテレビCMを出稿するのは少し不思議な感じがする。
「我々は地方が弱い」(笠原社長)。これは同社が安全・安心なコミュニティを実現するために長きにわたって招待制を維持してきた影響も大きい。首 都圏の大学生を中心に急速に広がっていったmixi。それだけに登録制を採用してきた「グリー(GREE)」や「モバゲータウン」と比べて、地方ユーザー の割合は低い。
ユーザーの首都圏比率は、mixiが42.6%に対し、グリーは32.0%、モバゲータウンは32.5%と10ポイント近く高くなっている。「テレビ CMを打つ理由の1つは首都圏も地方も両方にリーチできること」(笠原社長)。同社が課題としている地方ユーザーの開拓に寄与するのではという期待があ る。
ミクシィはテレビCMの展開では競合他社に比べて後発。最も早く手掛けたのはモバゲータウンのテレビCMを2007年2月から始めたディー・エヌ・エー(DeNA)だ。
「モバゲーのユーザー分布は住民基本台帳の割合とそれほど差がない」とDeNAの池田純・執行役員マーケティング・コミュニケーション室室長は話す。彼らが求めるのは地域差ではなく、むしろ会員年齢層の拡大にある。
そもそも、モバゲータウンは若年層の間でクチコミが急速に広がり、成長してきたサービスである。そのため、「ケータイで訴求できないF1、M1の 獲得を目指してテレビCM出稿を決めた」(DeNAの池田氏)という経緯がある。この狙いは的中し、池田氏によれば「年齢分布の円グラフがみるみる変わっ ていった」という。
一方、2008年年末から断続的にテレビCMを出稿し続けるグリーで執行役員マーケティング部長をつとめる小竹讃久氏は、「会員獲得に寄与してい るのは当然のこと、既に会員になっている人たちへのリマインド効果もある」と指摘。休眠ユーザーの再アクセスを促し、アクティブ率を向上させる効果も大き いという。
このほか、ブログサービス「アメーバ(Ameba)」を運営するサイバーエージェントも4月からテレビCM出稿を予定。サイバーエージェントの谷 口達彦Amebaプロモーション室シニアマネージャーは「苦節5年でようやく黒字化を達成したAmeba事業を強化するタイミング」と言う。最大で10億 円を追加で投下して会員獲得のペースを早める。
テレビCMに殺到するネット企業。ただ、彼らは非常に費用対効果をシビアに見る。効果が薄れてきているとされるテレビCMも、彼らは冷静にその費用対効果を見ている。
グリーの小竹氏は「ネットやモバイルが台頭してきたとはいえ、依然として接触時間はテレビが1位」とメディアの中でのテレビの地位を冷静に評価する。その上で「現在の広告費用を考えれば、マスメディアの広告効果は過小評価され過ぎではないか」と指摘する。
サイバーエージェントの谷口氏も「テレビCMの広告費の価格は下がってきている。だからこそ投下資金をリクープ(回収)しやすい」と言う。
ネット企業は旧来型メディアの効果を徹底的に検証している。顧客獲得単価(CPA)、LTV(顧客生涯価値)を媒体ごとに算出した上で、テレビCM出稿を増やそうとしているわけだ。
となると、テレビCMは効果があるかないかという議論ではなく、単に高過ぎただけ、とも言える。「ナショナルクライアントの出稿が大幅に激減した」とテ レビ関係者は語るが、一方で効果測定にシビアなネット企業が再評価しているということは、追い風が吹いているとも言える。
マスメディアはもはや終えんを迎えるのではという風潮が広がる中で、そのきっかけを作ったネット企業のUターン出稿。シビアな効果測定に耐えうるだけの成果を出していくことこそが、テレビCMをはじめとした旧来型メディアの最後のチャンスと言える
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