日本でディーゼルが普及していない理由
ダイムラーは、乗用車や商用車のブランドであるメルセデス・ベンツを環境に優しい高級ブランド(グリーン・ラグジュアリー・ブランド)にイメージチェン ジするために、様々な技術で燃費削減に取り組んでいる。その甲斐あってメルセデスは欧州で市販する新車のメーカー平均燃費が確実に向上している。
欧州では、2012年から世界で最も厳しい自動車CO2排出規制が段階的に導入される。2015年までに欧州で販売される新車の平均CO2排出量を 120g/km以下(2006年の欧州の実績は160g/km)に下げる規制は、メルセデスのような高級車メーカーには非常に厳しい内容で、達成には様々 な環境技術の投入が必要になる。
欧州で普及しているクリーンディーゼルにも一層の磨きをかける必要がある。先般、アッパーミドルサルーンカーである「Eクラス」にクリーンディーゼル搭 載車が追加され、日本国内でもエコカー減税・補助金の対象車として市販されるようになった。
メルセデスは2006年にEクラスのディーゼル車「E320」を日本で発売した実績がある。しかし、さらに厳しい排ガス規制、いわゆる“ポスト新長期” が輸入車にも2010年9月1日から適用される。そこで今回、メルセデスは新型Eクラスとして、ポスト新長期規制をクリアできるディーゼル車「E350 BlueTEC」を日本市場に投入した。
排ガス規制に関しては日本や米国の方が欧州より厳しい。そこでメルセデスは、日本と米国向けのディーゼル車を「BlueTEC(ブルーテック)」と呼ん で、欧州向けとは差別化している。今回はメルセデスのディーゼル車、ブルーテックについてレポートしよう。
ディーゼル車の方が燃費やCO2排出でガソリン車より優位であることは、日本でもそこそこ知られるようになった。欧州では新車の約50%がディーゼル車 だ。しかし、国内自動車メーカーはディーゼルに消極的で、日本ではほとんど普及していない。
理由としては、ディーゼルの大きなトルクに耐えるトランスミッションを持っていないとか、米国市場偏重のビジネスを続けてきたことなどが挙げられるが、 結果としてディーゼル乗用車の開発が遅れたことは否めない。
欧州メーカーに大きな後れをとったものの、日本でもディーゼル車の動きは始まっている。日産自動車は2008年に、ポスト新長期規制をクリアする初の国 産クリーンディーゼル搭載車「エクストレイル」を世に出した。今年の夏には「エクストレイル」に待望のオートマチック車が追加される。マツダも2012年 までに先進的なクリーンディーゼル(SKY-D)の実用化を公言している。
しかし、ハイブリッドで先行するトヨタ自動車とホンダは「燃費ならガソリンハイブリッドで勝負できる」として、ディーゼル車の国内市場投入はいまのとこ ろ予定していない。
それどころか、技術系出身でトヨタ自動車副会長の岡本一雄氏は「ディーゼルは引き続き厳しくなる排ガス規制がコストアップの要因になるが、ハイブリッド はコストを下げながら規制対応が可能」と見て、ディーゼルには否定的だ。
一方、日産自動車やマツダは、規制強化に伴うコスト上昇を招きやすい排ガスの“後処理技術”には頼らず、根本的に燃焼の改善で有害物質の生成を抑制する クリーン化技術の開発に取り組んでいる。
ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと比べて圧縮比が高く、しかもガソリンでは難しいリーンバーン燃焼を得意とする。したがって、大きなトルクと燃費 の良さでは最良の内燃機関と言える。半面、排気ガスの処理が長年の課題だった。しかし、米国でマスキー法(排ガス規制)施行から40年が経ち、ようやく ディーゼルもガソリン車並のクリーン化にメドが立ったのである。
ガソリンハイブリッドに傾くトヨタとホンダ。クリーンディーゼルで勝負を賭ける日産とマツダ。「ディーゼルVSハイブリッド」論争は日本の自動車業界を 二分している。
こうした日本メーカーの“二分状況”に対して、メルセデスは環境技術としてガソリンハイブリッドエンジンやダウンサイジングしたガソリン直噴ターボエン ジン、そして今回のクリーンディーゼルエンジンと多様な環境をそろえている。
まず、これまで日本市場に投入された環境対応車からその多様性を押さえておこう。メルセデスでは環境先進車に「BlueEFFICIENCY」というブ ランドネームをつけて差別化している。
大型ボディのSクラスでは、V6ガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車「S400ハイブリッド」を実用化している。「S400ハイブ リッド」は2009年秋に日本でも販売が始まり、輸入車としては初めてエコカー減税と新車購入補助金の対象になった。
SクラスよりもコンパクトなEクラスやCクラスでは、1.8リッターのガソリン直噴ターボを採用している。Eクラスの「E250CGIアバンギャルド」 などがこのタイプにあたる。
Eクラスのガソリン直噴ターボエンジン車「E250CGIアバンギャルド」。エコカー減税の対象で自動車取得税が 14万9500円、自動車重量税が3万円減税、新車購入補助で10万円優遇される
Sクラスのガソリンハイブリッド車「S400ハイブリッド」。国内の減税措置で自動車取得税と自動車重量税の免税 と自動車税は50%減税を合わせると金額にして70万6100円も支払い税額が少なくて済む。さらに新車購入補助金は10万円(13年目の古いクルマを廃 車にすると25万円)優遇される
メルセデスの環境技術のトップランナーである「BlueEFFICIENCY」シリーズに、今回「E 350 BlueTEC(ブルーテック)」が加わった。日本では数少ないクリーンディーゼル乗用車である。電気自動車などと同じく、ベース車両とクリーンディーゼ ル車との差額の50%を補助する「クリーンディーゼル自動車導入費補助制度」の対象車に認定された。
ディーゼルで問題となるのは主に浮遊粒子PM(パティキュレートマター)とNOx(窒素酸化物)だ。前者は高圧燃料噴射で細かく粉砕し燃えかすを残さな いようにする。それでも残った燃えかすは後処理で除去することになる。そのフィルターをDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)と呼ぶ。今回のク リーンディーゼルは、DPFの追加によりガソリン車よりもPMは少ないと言われるほどになっている。
厄介なのはむしろNOxだ。もともと空気中には窒素が78%も含まれている。その空気を吸入して燃焼させるエンジンはNOxが発生しやすい。その量はガ ソリンエンジンより、リーンバーン(希薄燃焼)であるディーゼルのほうが多い。そこでNOxの発生を燃焼の段階で抑える工夫が施される。その1つの手法 は、圧縮比を下げることで燃焼温度を下げて、NOxの生成を抑制するものだ。
しかも、実用的な燃焼効率を可能とする理想的な圧縮比に近づける。メルセデスは15.5前後が理想的な圧縮比だと考えている。現在の圧縮比は16強なの で理想に近づいているわけだ。
もう1つはEGR(排気ガス再循環)で、排気ガス(CO2)をシリンダーに還流する技術だ。酸素濃度を精密に制御することでNOxは抑制できる。それで も完全には取り切れないため、ブルーテック・ディーゼルでは尿素SCR(選択触媒還元)を採用した排ガス後処理システムを使ってNOxを除去する技術も追 加した。

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