こころの宴(うたげ)。    

こころの宴(うたげ)。    

帰る場所


やがてそれは雲となり、そして雨の雫と姿を変え、また地に戻る。

水はその長く、永遠に繰り返される旅のどこかで
自分の故郷を探すのだろうか。

今、僕は旅の途中。
機上の人となり、眼下に広がる雲の海を見つめている。

白く陽光に輝く雲の海もまた、僕と同じように
旅を続ける途中の水の姿。

僕には帰る場所があるけれど
水は絶えず、その場所を探し求めながら繰り返し繰り返し旅に出て行く。

水は帰る。
真夏のグラウンドの片隅で流した18歳の少年の汗に。

水は帰る。
遠ざかる彼の背中を見つめて流した22歳の女性の涙に。

水は帰る。
命を宿す限りない優しさに包まれた母の子宮に。


                「帰る場所」


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