第9話

『第9話』  作:楽文謙さん



あらすじ
(1話より)
クロノス城を拠点とする、駆け出しパラディン「リザード万太郎」は、
共有倉庫の一室で刺殺されたゲート魔術師「マエル」を発見してしまう。
(2話より)
動揺する万太郎。そこで河伯氏と出会う。
疑われるのを恐れた万太郎は、状況を説明できず曖昧にやり過ごしてしまう。
河伯氏が去った後、クロノス町内会の顔役の男が現れた・・・・。
(3話より)
顔役の男を欺き、早業で鍵を奪った万太郎。
再び、マエルの倒れていた部屋に赴く。
胸中には、マエル殺しの罪をかぶせた犯人への憎悪が渦巻いていた・・・。
(4話より)
再び倉庫に入る万太郎。一般市民に見せてはまずいと鍵を閉める。
暗がりの密室で、万太郎はマエルが生きているのを知り、驚嘆する。
持ち合わせの薬をありったけ使い、突き刺さった短剣を抜こうとしたその時・・・。
(5話より)
隣室から聞こえる、謎の男と、覚えある声の持ち主の語らう声。
静観していた万太郎だが、マエルが咳いたため気取られてしまう。
(6話より)
扉越しに聞こえる男達の声。
その会話は、男達がマエルを殺めようとしたことを示していた。
男達が扉を開いた。マエルは、やっと取り戻した意識で呪文を唱える。
その呪文は万太郎とマエルを未開の地へと運んだ。
マエルは言う。「ここは・・・ワシの里・・・」
(7話より)
村を探す万太郎。だが、衰弱はマエルを確実に蝕んでいく・・。
それは万太郎にも言えることであった。ようやく着いた川沿いの村。
マエルを村人に委ねると、万太郎も意識を失い、倒れてしまった・・・。
(8話より)
気がつくと、そこは療養所のベットの上。
薬湯を貰ったが、頭が重い。
再度眠りを貪り、目を醒ましたそこには、体を鍛えるたくさんのマエルがいた・・・。
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第九話



目が覚めた。全身が、汗でぐっしょり濡れている。
さっきのマエルの群れは何だったのだろうか・・・。夢にしては、はっきりしすぎている。
起き上がろうとしたが、咄嗟に起きることが、万太郎には出来なかった。

疲労?いや、だるさは強いわけではない。
怪我?いや、体には傷一つ無い。
暫くして、万太郎は自分の力が衰えているのを悟った。
傍らに置かれたセルキスソードに、うっすらと埃がかぶっていた。
それは、時間の経過を意味していた。
あごに手を触れる。髭が少し伸びているようだった。


(いままでのは、すべて・・夢?)
万太郎は、辺りを見回す。
見覚えのある風景。だが、少なくともクロノス城ではない。
夢で見た診療所である。
そして、窓から見える風景にマエルは見えなかったものの、景色はそれと一致していた。
ただ、新緑は濃い常緑となり、日輪は高く捧げられていた。
「夢ではなかったか・・・」
吐き出すように言った。


「気がついたかの?」

どこからか声が聞こえた。その刹那―
ベットの横に青白い魔方陣が展開し、マエルが現れた。
刺された様な傷は、一見した感じでは見当たらない。
「じいさん・・・無事だったんだ・・・。」

自分がすくなからず安堵していることに、万太郎は気付いた。
「え~っと・・・」
続く言葉が出ない。
マエルの里とはなんなのか?一体俺はどのくらい寝てたのか?

そして・・・・夢で見たマエルの大群はなんだったのか?
マエルは、困惑している万太郎を見て、諭すように語り掛けた。
「事態が飲み込めんじゃろうから、説明しよう・・・・。」


「万太郎、お主はワシの命を救ってくれた。
もっとも、お前のくれた薬はマナ薬じゃったがの・・・フォッフォッフォ・・。
じゃが、それが幸いした。おかげでワシは移動魔法を使うことが出来たからの。」

万次郎は回想していた。
確かにあの時、慌てていてポーションの種類など確認していなかった。
マエルは続けた。
「ワシは、連れてこられた病室で治療を受け、なんとか一命を取りとめた。
じゃが、命の恩人たるお主はまだ意識を取り戻しておらんかった。
原因がわからぬまま、二ヶ月が過ぎたが・・・いやぁ、目が覚めたとは、好々」
かっかと、マエルは目を細めて笑った。


微笑みかけるマエルを見ながら、今までのことを一つ一つ思い出していく。
万太郎は、マエルに聞かなければならない事があるのに気付いた。
それは、万太郎にとっても重要なことであった。
それは、たくさんのマエルでも、マエルの里のことでも、今の状況でもなかった。


万太郎は、衰弱した体の背筋を伸ばし、マエルに目を据えた。
居住まいを正した様子に気付いたマエルは、万太郎に言った。
「何か、質問がありそうじゃな・・・それも重大なの。」

万太郎は、弱弱しいが─落ち着いた、凛とした声を放った。



「じいさんを狙った奴は誰なんだ?」

* * To be continued * *

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