小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

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第二章  「冬弓」ふゆみ




その日から優二の電話はきまって深夜に鳴り響き、

それは永遠に続くと予感させる

何か大きな決意のようなものを感じさせた。


これから売り出そうとするアーティストとの旅の途中ですら、

それは一日も途切れる事なく続いた。



ある時、電話の向こうで優二が言った。

「F&Sのライブがあるんだけど来ない?」

優二は少し酔っているみたいに、何度も同じことを言った。


「う~ん、どうしようかな・・・行けたらね。」


私のあまり気のない返事に優二は


「来るまで待ってるよ。」

と弾んだ声で何度も言った。


「知ってるでしょ? F&S。

復帰ライブなんだ。

僕が担当になってさ。

盛り上がらないと困るんだよ。」


音楽業界の事はよく解らないけど、優二のおかげで たくさんの曲を知り、

私好みのアーティストも少しは語れるようになった。


私が好きだったのはエリックカルメン、マイケルフランクス。


タイプは違うけど、どちらも心地良い一時を与えてくれるミュージシャンだ。


優二が連れて来るアーティストと音楽の話をすることは、

優二を知る事でもあり、新しい出会いであり、

だけどそれが私の未来を変える要因になる事を

優二は気付かなかったのだろうか。


疑う事はなかったのだろうか。


そしてそのライブが、

私の重い罪の始まりだった事を優二は知っていたのだろうか。





私は優二の熱心な誘いに、そのライブに足を運んだ。


そして初めてF&Sの歌声を聴いたんだ。

一人は幸(さち) 

もう一人は 冬弓(ふゆみ)


二人はは美しいハーモニーで10曲程を披露し、久々にファンの前に姿を見せた。

その歌声は色あせることなく、切なく、心に響くものだった。

こびた微笑みなど決して見せる事なく、

それはファンにとって一際懐かしいオーラだった。


私はそのライブで冬弓を知り、

踏み込んではいけない危うい何かに魅了されていった。


「ねぇ優二、冬弓さんっていくつ?」


「35  シブイだろう。

5年くらい曲作りしててさ、いろんな人に提供してたんだ。

でも復帰するって決まって、ファンの人達も喜んでる。」



優二、どうして私を誘ったのよ。

ここに来なきゃ、こんな気持ちに出会う事はなかったのに。



私は冬弓に恋をしたんだ。


一回り年上の伏せ目がちのその人は、私の心をすぐに奪った。




優二が会わせてしまったんだよ。


優二が悪いんだよ。


優二のせいだから。





つづく・・・



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