小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

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第三章  「罰」




二人のライブが終わり、優二が打ち上げの席まで私を連れて行った。

私は引き寄せられるように冬弓のそばへ急いだ。


私のどこにこんな想いが潜んでいたのか、

冬弓に怖い程ひかれて行く私がいる。


冬弓たちと一緒に仕事が出来る喜びに興奮している優二の目は、

生き生きと正面を向いている。


私の危険な想いなど、きっと考えもしないだろう。


優二が耳元で私に言った。


「来てくれて良かったよ。

どうしても二人の歌を聞かせたかったんだ。

新曲も出たしさ。

後で紹介するから待ってて。」


そんな話をしたのは、ほんの数時間前だった。

なのに私は冬弓に強くひかれ、

冬弓が見えるテーブルの隅から離れられずにいた。


「皆さんお疲れ様でした。乾杯。」


優二のリードで更に賑やかさが増しているその場所で

私の瞳は冬弓しか見ていなかった。


私はさりげなく冬弓の近くに座り、

ライムの強いジントニックを飲んでいた。

すると優二が

「冬弓さん、僕の彼女。」

と私の背中を押して冬弓の前へ連れて行った。

冬弓が静かに振り向いて、私を見つめた。


なんて紹介の仕方だろうと思ったけど

私は黙ったまま、冬弓の瞳を見つめ返した。 


「そうなの?」

冬弓はそう私に聞いたけど、何も返事はしなかった。

優二が私を冬弓の隣に座らせ


「僕にもジントニック」と言った時


冬弓の瞳が私を見つめている間のほんのわずかな瞬間に、

テーブルの下で冬弓が私の手を握った。


誰にも気付かれないように。


優二に気付かれないように。



優二が

「今日は飲むよ。

冬弓さん、場所変えますか?」と私超しに聞いている。


冬弓は身じろぎもせず


「いいよ、ここで。」と、優二の言葉をさえぎった。



冬弓の言葉は絶対と思われ、

強く握り直された私達の指の隙間は痛い程に狭められた。


冬弓と私は不自然な程 言葉を交さず、並んでグラスをかたむけ、

その私の隣に優二がいる。


冬弓、私、優二


これから何が起きるというの。



優二がほろ酔いで、黙ったままの私の顔を覗きこんでいる。


優二の知ってる私は、22歳でメルローズのシャツで

クシュカのブレス。

でもね優二、本当の私はうそつきなんだよ。



饒舌な人々がそれぞれに語り、訴え、知ったかぶりをする。

誰もが抱え込んでいる不安や妬みは、見て見ぬふりをする。

優二が見ている今は、

いつか私に罰を与え苦しみ哀しみをもたらすかもしれない。


だけど引き返せないこの時間を、優二に委ねる事はないんだ。



優二がちょっと席を外した時

冬弓が私の耳元に顔を寄せて


「出よう」


と甘い歌声のような声でそっと囁いた。





つづく・・・






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