小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

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第三章  「着信」  一節



携帯のベルはちょうど10回鳴って切れ、

着信ありと表示された画面もすぐに消えた。


あと2回くらい鳴っていたら出たかもしれないのにと、

また私のひねくれた性格が顔を出したけど、

どうせ

「ごめん」とか

「怒った?」とか

そんなセリフを言うに決まっているんだ。

さっきキスしたあの同じ唇で。


でも本当は追いかけて来ると思っていた。


ひとり足早に駅までの道を歩きながら、

夢見る可愛げな女の子みたいに、浩太のあの長く綺麗な足で

追いかけて来ると期待している自分に少し腹を立てながら、

一度だけそっと振り返ってみたけど浩太の姿はどこにもなかった。


なによ。

送らせてって言ったは浩太のくせに。


駅の改札口はまるで何かに追われてでもいるかように、

どこから集まって来るのか大勢の人々が小走りで次々に構内へと吸い込まれて行く。


最終電車は今夜も一日のドラマチックだったかもしれない日常を運び、

明日へ繋げる手助けをしている。

その波にのまれながら着信の文字をもう一度確かめ、

私は携帯をバッグの中にしまった。


あれから浩太はどうしただろう。

どこかにいる浩太のシャツにまだ私の香りが残っているとしたら、

今頃はさっき触れた唇と、ひとりで帰った私の行き先を

あれこれ思い巡らせているのだろうか。

電車のホームで立ち止まると、

私の首筋に残る浩太のちょっと良い香りが次から次から押し寄せて来た。

そして、つないだ手のぬくもりと交差してそれは私の心臓を揺さぶり出した。


追いかけて来なかったアイツ。


でも

だけど


一週間が過ぎても、あれっきり浩太からの電話はない。


私の携帯のベルは、田辺浩太と表示されて鳴ることはなかった。


何?

どういうことよ?


面倒くさいなぁ…


「どうして電話くれないの?」

なんて私から電話するとでも思ってるの?


私がそんな女じゃない事は、はじめから分かっているはずじゃない。


そんな事、

意地でも・・・

意地でもするもんか…





つづく・・・







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