小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

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第三章 「不信」 一節




「二人で歩くのは、初めてだね。」

平気なふりをして言ってみたけど


「ショックだなぁ。
二度目ですよ。

買い物に行きました。

付き合ってもらったじゃないですか。」


「あ、そうだった。
ごめんね。

私ったら動揺してるのかな。」


何か別の話題を探さないと、いい年をして右手と右足が一緒に出そうだ。


「麗子さん大丈夫ですか?

俺といる時に、なんでこんな事になるかなぁ。」


「涼くん、聞いていい? 

こんな時、私の行動はどうするのがベスト?」


まさか走って行って、元カノと歩いている一行を呼び止めるわけにもいかない。


“誰 このおばさん”なんて言われたら、高熱にうなされて三日ぐらい寝込みそうである。


一行は私達には気付かず人混みの中に消えて行った。


確かに学生時代の集まりには違いないだろうが、やはり平常心ではいられない。


黙ってしまった私に涼はきっぱりと言った。


「聞けばいいんですよ。見たよって。

一緒にいたのは誰って。」


涼は私の味方なの?


「ねぇ涼くん。

一行の前の彼女って、どんな人だったの?」


「大学のサークルで一緒だった娘です。」


「あぁ、ずっとバンドやってたって一行に聞いた。」


「そう、一行がギターで彼女はボーカルだったんです。

でも卒業するころは解散してたし、詳しい事は聞いてないから解らないけど、

彼女が先に卒業してからは一緒にいた所をみた事ないですよ。」


一行の過去の全てを知りたいとは思わないけど、

私の目の前にいる一行だけが一行ではないのだ。



「一行だって麗子さんと俺が二人でいる所見たら、驚くかもしれないですよ。」


「そうか・・・

そうだよね・・・」


でも私達は偶然だよと、やはり釈然としない気持ちが残った。


「麗子さん、もう一軒付き合ってくれませんか。」


涼と会った事を私が話さなければ、今日の私達の事を一行は知らないままだ。

それと同じように私が見てしまった一行と元カノの姿も、

私は一行に伝える事はないかもしれない。


でも、心の引っ掛かりが出来てしまった事実を、

どうやって処理すればいいんだろう。



「そうだね。

ちょっとお腹も空いたし。」


うわの空で涼とお店を選びながら、私はいったい何をしているんだろうと

ふと我に返って考えていた。


根拠のない不安の中、涼に救いを求めている。


「気分を悪くしたら許してね。

涼くんの好きだった人はどんな娘だったの?」


「彼女ですか?

可愛かったですよ。

待ち合わせすると走って来るような娘。

麗子さんに買い物付き合ってもらった時、俺んとこに走って来たから思い出しちゃった。」


「会ってないの?」


「会いたいとは思わないです。

一行に聞いてませんか?別れた理由。」


「聞いた。」



一行はどんな理由で元カノと会っているんだろう。


肌寒い夜、人恋しい夜。


隣にいるのは一行ではない。


「ごめん。

やっぱり帰るね。」


涼に背中を向けた時、絞り出すように涼は言った。


「麗子さん、俺のチャンスカードはもうないですか?」


背中に投げ掛けられた言葉はあまりに重い。



「おやすみ」


聞こえないふりをしてタクシーをひろった。






後ろ髪が引かれて、ほどけないくらい絡まっている。




つづく・・・






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