小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

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第四章 「ひとり」 三節




「麗ちゃん、遅くなったけどケーキ食べようよ。」


歳が増えたとたんに、余計な引っ掛かりも増えた気がした。


「ケーキ入刀なんてしてみたりして。

麗ちゃん、ここ持ってみる?」

と、ナイフを持って笑っている。


一行はこういう事を楽しそうにやってしまうけど、

私には結構ドキドキするシーンだということに、気が付いたりしないものなの?


何をするにもニュートラルに戻る余裕のある感覚を忘れずに来たつもりだけど、

私の履歴を書き換えるくらいの何かが迫ってくる気がするのは考え過ぎだろうか。


人生の“のりしろ”のような、余分ではない大切な役割を持つ宝をたくさん持っていたはずなのに、

今の私はなんて気弱なんだろう。


一行がきっと恥ずかしげにバースデーケーキを頼んでいただろう姿を思い浮かべれば、

そんな憶測も吹き飛ぶといったとこだけど。


今日は、多すぎるロウソクでカットしにくいケーキを二人で味わいながら、

面倒な話しはやめて、穏やかな一日を始めなくちゃ。



「麗ちゃん、プレゼントがあります。」


一行が身体の後ろに何か隠している。


「なに? なに?」


「涼にそんなのもらっちゃって、出しにくいなぁ。」


「なに?

ダイヤモンド?

マンション?」


「あたり!

んなわけないでしょ。

俺の給料知ってるくせに。」


一行が差し出したものは、茶色の大きい封筒だった。


「ラブレター?」


「そうとも言えるけど、早く開けてみて。」

ちょっと厚みのあるその封筒の中には、

温泉ホテルと観光スポットのパンフレットがたくさん入っていた。


「次の週末、予約したから。」


そのうち行きたいねと、話したばかりだった休暇を、

ちゃんと現実にしてくれるなんて、こういうプレゼントは考えてもいなかった。


「また泣いてもいい?」


「どうぞ、何回でも。」


一行が優しく生きている事を、私は充分に知っているつもりである。


だから、元カノのことをどうこう言う前に、

私の心が正直に一行に向かい、愛していく事が重要なんだと云う事を、

もう一度ちゃんと思い返してみよう。


「のんびりをプレゼントです。

行けるでしょ?

美味しいもの食べに行こうよ。

麗ちゃん働き過ぎだから。」


ありがとうと言う代わりに


「旅のしおり、作らなきゃ。

おやつも買わなきゃ。

バナナは絶対だよね。」


まるで遠足だと笑いながら、私たちは遅くまで話し込んだ。


「麗ちゃん、それからさっき話したパーティなんだけど、

やっぱり顔出してもらえないかなぁ。」


「考えておく。

一行の演奏は聞きたいけど、他には誰も知らないし。

場違いな気もするしね。」


「もしかして、彼女が理由?」


“当たり前よ”と強きに出るには、素敵なプレゼントがチラチラ目に入り


「まぁね。

これでも結構ヤキモチ焼くかも。」


「心配するような事は何もないよ。

演奏するだけなんだからね。」


そうかな。


そうだといいなぁ。


何かが待っている予感がする。

だけど

誰でも何かに立ち向かう時、自分の心は自分で決める。


私はそう思っている。





つづく・・・






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