小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

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第七章 「決意」 二節




今までだって何度か会社を辞めようと考えた事はあった。


それはよくありがちな人間関係だったり、

思い通り進まない仕事だったり、

早々に退社して行く後輩達を見送る事に疲れた時だった。


だけど今までの後ろ向きでうつむいた気持ちとは違う、

正反対の決意が今の私にはある。


途中で何が起きても、やり遂げる覚悟がやっと出来たのだ。


「えっ」


「ごめんね、一行。

驚いた?」


「はぁ・・・麗ちゃん、辞表って会社辞めるつもりなの?

これはさ、相談じゃなくて決定なんだよね。」


「そうよ。

流石ね。

栄転される方は話が早いわ。」


「いつから考えていたのさ。」


「一行の転勤が決まった頃かな。

でもね、たぶんそうするきっかけを避けて、

何となく仕事して、何となくすり抜けて来てしまったんだと思うのよ。

仕事は一生懸命にして来たけど、私が納得の行くものを見てみたいと思ったの。

私が考えて、私が決めて、そんな自分の姿を知りたいと思ったの。


それでね、一行。

私、会社を興すことにした。」



それなりの地位と安定した暮らしに頼らず、

一から始まる私の力量を試し、

正にそこから未来をスタートさせようと決めたのだ。


今まで手に入れた知識と経験で、

本当のキャリアウーマンが誕生する事を期待して。



「一行、いつか自信がついたら、私と一緒にやってみない?」


一行はしばらく黙ったまま考えていたけど


「どうかな。

多分それはないよ。

麗ちゃんの手伝いだけの仕事は、多分やれないと思う。」


そうね。

そうだよね。

そういう一行だから、こうして抜擢されたんだもの。


「ごめん。

冗談よ。」



一行、私の選択は間違っている?

あなたのそばに居たいのなら、別の方法だってあるはずなのに。


例えば 結婚。



「麗ちゃん。

麗ちゃんが決めたのなら、きっとそれが正しいんだと思う。


だけど、今の俺に何が出来るのか分からないんだよ。


転勤だけでいっぱいいっぱいで、今は何も判断がつかないよ。」



明日会社にこの封筒を提出すれば、誰もが驚く朝が目に浮かぶ。


失敗を怖れてはいけないと耳の奥から繰り返すのは、

きっと未来の私なんだ。



駅のホームで手をつなぎながら、明日から始まるそれぞれの新しい一日を想った。


「部屋に戻ったら電話するね。」

一行はつないだ私の手を自分の頬に当てて

「麗ちゃん。

すごいな。」

と何度も言った。


私は最終の新幹線に乗り、一行の元を離れた。


その夜遅く部屋に戻り、私が入社した頃を思い出していた。

何も知らない若者が一人前と認められるまで、

どのくらいの年月を必要とするのか、

私はこれで一人前なのか。



「もしもし、一行。

明日は初日だから、もう休まなくちゃね。

寝坊しないでよ。」



「麗ちゃんこそ大変だよ。

辞表出したら俺のせいだと思われる。」



「だってそうだもん。」



四十を前に女がひとりでいるだけで、

世間は見方を変える。

そんな事はもうとっくに慣れてしまったけど、

また別の注目を浴びる時が来た。



一行、あなたが一人前になって、

その時にまだ私が輝きを失っていなかったなら、

その時は私からあなたの元へ飛込んで行ってもいい?



私からプロボーズしてもいいですか。





つづく・・・





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