小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

第十八章 「魂」 四節




アメリカへ来てから、早いもので二年の月日が過ぎようとしている。


妻になり海を越えた時、

思い描いていた未来とは違う母と云う役割が私の人生に訪れた事を、

これもまた自らが起こした運命なのかと

もうひとりの自分に聞いてみたいと思う時がある。



ここアメリカでひとり出産すると決め、

会社には少しだけ休暇をもらい、

システムの整った環境で残り少なくなった特修をしっかりやり遂げたいと伝えた時、

普通では考えにくい立場での仕事を、

会社は快く受け入れてくれたのだ。



もうすぐ家族みんなで暮らせるからねと、いつも話しかけている愛しい息子の名は

「絢」(けん)


日本でもアメリカでも通用するようにと、

一行がつけたその名前を、私はとても気に入っている。


挙式の日から教会へは行っていない。

何度か電話やメールで連絡をしたきり、

岩沢に会わぬままこの子を抱いて半年以上が過ぎてしまった。

何もかもが発見と驚きで、私の毎日はあっという間に過ぎて行った。



「もしもし鈴木ですが、岩沢神父様いらっしゃいますか?」


若い声の男性は


「出かけています。」と、忙しそうに電話を切った。


そんな事が続き、岩沢の声を聞くことがないまま月日は過ぎて行った。


でも本当は、無理をしてでも教会に行かなければいけなかった。


そう、絢を抱いてあの教会の階段を上らなくちゃいけなかった。







「もしもし、一行。

聞こえてるわ。」






つづく・・・





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