小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

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第二十一章 「願い」 三節




キャリアウーマンなんて呼ばれなくても 私は生きて行ける。


一行の妻となり、絢の母となり、

私が歩いて来た昨日までとこれからの希望を持ち続けて

私はこのまま歩いて行こう。


明日が来る事を当たり前だと決めつけて生きている錯覚を、

私は忘れずに生きて行こう。


隣にいる大切な人の幸せの行方を強くこの両腕に抱きしめて、

私はもう少しだけここで暮らして行こう。



一行は大阪からの電話で


「麗ちゃん、さっき専務から電話もらった。

麗ちゃんにはもう知らせてあるって聞いたけど、

だけどやっぱり自分の口から報告するね。

えぇ・・・鈴木一行、この度特修に抜擢され、

アメリカへ出向することになりました。

って・・・麗ちゃんびっくりしたよ。

大阪転勤の時も驚いたけど、特修だよ。

正直、俺でいいのかなぁ。

俺なんかに務まるのかな・・・

麗ちゃんみたいな経験もないし、

正直喜んでいい事なのか分からないんだ。

やっと一緒に暮らせるようになると思ったのに、

今アメリカに行くって事が麗ちゃんと絢にとってプラスになるのかどうか、

よく分からないんだ。


麗ちゃん、だけど・・・

行きたいと思う。

アメリカでどこまでやれるか試してみたいんだ。

麗ちゃんが過ごした二年を、

自分の目で見てみたいと思っている。」


私が一行でも、きっと同じ思いを抱いただろう。

仕事を楽しむ余裕の前に、会社を興そうとしている妻となかなか会えない幼児を、

ずっとずっとひとり想って暮らして来た一行を、

今応援しないで何がキャリアウーマンだと、私の心が騒いでいる。


「一行、それは相談じゃなくて決定なんだよね。」


「麗ちゃん、何だかその台詞聞いた事あるんだけど。」


「覚えてた?

私が一行に辞表を見せた時、一行に言われたことば。

一行もあの時こんな気持ちだったんだね。


ねぇ一行、これって凄い事よ。

私が会社にいる時は希望しても駄目だったのよ。

一行の歳で特修なんて聞いた事ないわ。

専務に一行の事誉められて私がどれだけ嬉しかったか。


一行、おめでとう。

待っているから。

絢と二人で待っているから。」



私が夢を追い掛けたように、

その夢のために寂しい日々をくぐり抜けた愛しい人のために、

次は私が見送る番ね。






つづく・・・





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