小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

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第二十二章 「運命」 最終章 -完-




プレゼンの日からしばらくして、

私は絢と共に一行との約束を果たすため、アメリカへ出向く事を決めた。

それは一行に会いたいと思う気持ちと、

このCDを一行の元へいち早く届けなければならないと云う思いが押し寄せて、

私の気持ちを大きく揺さぶったからだ。


きっとそのうち一行の所へ、作曲者としての知らせが入るのだろう。

そしてその歌を唄う園が小池の娘だと云うことを、驚きと共に知るだろう。



やはり知らせなければならないと、そして私の口から知らせたいと思った。


私と絢は休日を利用して一行の元へ急いだ。


空港で出迎えた一行は、すっかりその土地に溶け込んで

生き生きとした表情で私の名を呼んだ。


「麗ちゃん」

日本を出る時に呼んだ時と同じように。


半年ぶりの一行は絢を優しく抱きしめ

「絢、絢」

と、私の周りを走り回った。


「一行、約束通り来たよ。」


一行は黙ってうなずき、片手で私の頬を撫でた。

「麗ちゃん、このままアパートに行こう。

麗ちゃんの好きなパスタ作ってあげるから。」


何だかずっと昔の、私達がもう少し若かったころの、

同じ会社にいたころの、あの時が蘇ったようだった。

ただ違うのは、絢がいる。

私達の命、かけがえのない絢がいるということ。


そして初めて訪れた一行のアパートで、私たちは時間が過ぎるのを忘れ

幸せの中に浸っていた。


ただこうして一緒に居る事が、普通に暮らすという事が

いちばんの幸せだという事が、身に染みていた。


私達は三人で寄り添い、ただ寄り添い眠った。


早朝 目覚めたとき、一行はすでにベランダでひとり朝日を浴びながら

雑誌をめくっていた。


「一行、何してるの?」


「ん?

あ、麗ちゃん起こしちゃった?

昨日来たばかりなのに、帰っちゃうのかと思ったら眠れなかったよ。」


私は一行に言った。


「すごいお土産持ってきたの。」

そして身体の後ろに隠してあったCDを一行に見せた。


「え?  え?

なに?

楽園って・・・

園がデビューしたの?」


「そうよ。

良かったね。」


一行は黙ったまま、そのジャケットを見つめていたけど

ふと笑って

「麗ちゃん、わざわざ持ってきてくれたんだね。

麗ちゃんらしいや。」

そう言って、私の肩を抱いた。


「だって一行の曲だよ。

すごいじゃない。」


「うん。

だけどね、これは今の俺じゃないよ。

これは園の歌。」



一行、カッコ良すぎるよ。


そして私は一行が知らない真実を告げた。


「園さんって、ご両親離婚されてるんでしょ。」


「うん。」


「このCDね、園さんのお父さんが教えてくれたのよ。」


「え?

どうして麗ちゃんが園の父親のこと知ってるのさ。」


「北原ってお母さんの名字でしょ。

お父さんは、小池、小池敬志っていうのよ。」


「小池・・・

え・・・専務?

園の父親が小池専務?」


私はプレゼンの日に見た小池の涙と、そのいきさつを一行に話した。


「そうか・・・

そういう事か。」

と、一行は朝焼けの空を眩しそうに見上げた。



人は繋がっている。

出会うべき人に、いつかちゃんと出会うように

人はしっかり繋がっている。

私が一行に出会ったように。







これが私に起きた奇跡の数々である。


時々人はそれを「運命」と呼んだりする。


でも私がそれを信じているのかと聞かれたら、

本当のところはわからない。


誰だって自分が正しいと信じ、身勝手に今日を生きて行くんだから。

立派な生き方をしなくても、愛していける自分を生きて行くんだから。


「絢、あぶないから走らないで。」


絢はもうすぐ三才になる。


広い空港の人混みの中を走り回って、母は追い掛けるのに必死である。

一行がアメリカへ行ってから二年。


涼はフプロ棋士の夢を追い続け、三年目の挑戦を続けている。


夫は28歳になった。


そして、私の夢が叶う時が来た。

やっと三人で暮らせる時が来たのだ。

私と一行に力をくれたアメリカ。

そこで生まれた 絢。

でもこれからは、ここでずっと一緒に暮らして行こう。



私は大きなガラスの向こうの小さく点滅した機体を指差しながら

「絢、あの飛行機にパパが乗っているのよ。

絢、寝ちゃ駄目だよ。」

と絢の手を握った。


出迎えの人に押されて、絢と二人、一番後ろで一行を待っている。


みんなみんな、大切な人を待ちわびている。


もしかしたら、予想もつかないドラマチックな人生を過ごして、

悲しい心を抱えて、何もなかったような顔をして微笑んで。

でも、それでいいんだよね。

その先の運命は誰も知らない事だから。


背伸びした私の目に、一際大人びた、愛しくそして懐かしい一行の顔が見えた。


「絢、パパがいた。」


精一杯手を伸ばして


「一行」と呼んだ。


一行は私の声に気づいて私と絢を探している。



麗子 背筋を伸ばしなさい。


泣かずに歩くのよ。

ちょっと先にある、自分の信じた夢に向かって。


両手を広げた一行の元へ。


伸ばした腕のすぐ先に、私達の未来がある。




     -了ー





長い長いお話を最後までお読み頂き、有難うございました。





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