不破雷導

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Apr 11, 2005
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テーマ: 小説(12)
カテゴリ: 小説
 男は、焦っていた――。
 今日は、12月25日。クリスマスだが、同時に、男の息子の、誕生日だ。男の息子は、満7歳になる。男は、仕事もそつ無くこなすが、また所謂家庭的な人物で、休日は勿論、平日でも成るべく早く帰って、息子と遊ぶような人物だった。男の息子は、この春、小学校に入学したところだ。そして、男も同じ時期、課長に昇進した。それで、以前にも増して、仕事が忙しくなって仕舞った。流石のこの男も、夜の帰宅は遅くなり、休日も、接待ゴルフや仕事で潰れ、子どもと遊ぶ時間は、無くなって仕舞った。小学生になった息子と、顔を合わせなくなって、久しい。朝、寝顔を見て家を出、夜、帰って来て、やはり寝顔を見るだけの毎日だった。そして、誕生日。男は、日頃の罪滅ぼしのつもりで、今日は、今日こそは、早く帰って、喜ばせてやるつもりだった――。が。
 退社時刻間際になって、部長に呼ばれた。急いで資料を作ってくれ、と言う。明日必要なので、今日中に、仕上げなければ成らない。部下は、数人いるが、彼等に任せられるような内容ではない。男は、それでも、3時間かけて、完璧な資料を書き上げた。時計を見る。もう、8時半だ。息子への誕生日プレゼントは、息子の好きな変身ロボットを買って、既に自宅のクローゼットに隠してある。問題は、バースデー・ケーキだ。妻に任せず、男が自分で自宅近くのケーキ屋に予約したのだ。息子の大好きな、チョコレートケーキだ。ケーキ屋までは、会社から、1時間かかる。男は、思い付いて、財布から、予約カードを取り出した。見ると、ケーキ屋の電話番号が書いてあった。会社を飛び出して、駅まで走りながら、携帯電話を取り出し、その電話番号をプッシュする。店は、9時に閉店するのだが、9時半まで待っていてくれる、と言う。良かった。男はホッとしながら、丁度来た電車に飛び乗った。
 お待ちしておりました、と言う店員に、恐縮しながら、男はケーキを受け取った。自宅まで、走って5分。もうすぐだ。もうすぐ、息子の笑顔に会える。待ってろよ。信号が、赤になった。いつもなら、立ち止まって、次の青信号を、待つのだが、焦っていた男は、それでも左右を確かめて、渡ろうとした。そのとき、やはり信号が赤になりかけたのを見て、急いで右折して来た車が、男に向かって、突っ込んで来た。
 男が最後に見たものは、無残に潰れた、バースデー・ケーキと、折れ曲がり、散らばった、7本のローソクだった。ケーキの方へ、手を伸ばし、男は、薄れ行く意識の中で、呟いた。
 ごめんな……。ケーキ、潰れちまった……。


(2001年1月)





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Last updated  Apr 11, 2005 10:38:04 PM
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