消失を彷徨う空中庭園

消失を彷徨う空中庭園

第八章 レポート


「どうですか。田島さん。我々も手こずっていますが、研究員はみな畏怖しながらも目を輝かせています」
「ふむ。信じられんな。こんなデータが出るなら私でも目を丸くするしかないよ」
 田島と話しているのは、依頼先の伊津部という男だった。旧友だった。分野は違ったが、生物学の考え方が近かったのだろう。あるいは他のことで気が合うのか。
「報告書の繰り返しになりますが、我々が分析したところによると、オアシスフラワーは植物であると同時に、動物に近い特徴も幾つか見つけられました。繊維質の一部が筋肉に近い働きをするんです。何故そんな細胞があるのかわかりません」
「私にもわからん。あるいは知るべきではないのかもしれないな」
「そうですね。この植物はどう考えても、通常の突然変異で自生したとの説明は考えられません」
「考えたくはないが、人為的なものだね」
「そうです。それも、品種改良や遺伝子操作のレベルではありません」
「そうか。私も君の考えと同意見だよ」
「先生と同じ意見で安心しました」
 田島は畏怖せざるを得なかった。恐るべき事実がそこにあるのだ。伊津部は畏怖しながらも、研究者としての飽くなき追求心が混在している。
 しかし田島は背筋の震えを止めることができなかった。伊津部のデータが真実であれば、説明の付かない結論に辿り着く。そして、それは伊津部には知る由もないできごとだった。
「科学とは、時に恐ろしいことを考えつくものだね」
「確かにそうですね」
 二人は、共感しながらも感想を異にしていた。
 伊津部はまだ、田島の危惧に気付いてはいなかった。否、彼に与えられた情報では思いつくことすらできなかった。
(サラ。無事に帰ってきてくれ。私はもうすぐ結論に辿り着く。だが、この先のことは君の協力が不可欠だ。事は深刻だ。無茶はしないでおくれ)

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: