バレンタイン前日、催事場にて私は一人とろんとしていた。ここで、難しい商売を一人でしていると、とろんとしてしまうのだ。際限もない時間の折に考えてもしょうがないことを考えてしまう。
今まで自分が好きになれない世界に対しては喧嘩をせずにいられなかったことなど……。
学生ではなくなって、若いと言える年齢ではなくなって、自分の手で稼ぐようになって、喧嘩をしてばかりではいられなくなったけれど、でも、世の中って不条理だなぁって未だに思っている……。
友人の一人は私の身の振り方を心配し、連絡をくれる。彼女は一人で会社を立ち上げて不安でいながらも、その不安を笑い飛ばそうとする。一日中、動き回り、ありとあらゆる人々と交流の幅を広げている。非常にエネルギッシュだ。私は彼女とは正反対のようでいて、似通った部分を持っている。破天荒な部分が少なくとも、私にも彼女にもあるのだ。けれど、彼女の方がこの世の中を生きていこうとするエネルギーに満ちている。彼女は心が痛み涙を流すのを感じないようにしようと、心に決めた。
そういうことは、笑っていてもどこか悲しいと、私は思う。
世の中を生きるために、素のままの心を蔽っていき続けることは、必要だけれど、それでも悲しい、と、私は思う。
私が前に好きになった人はこの世界の灰色が好きだと言った。私は嫌いだと思った。その人は私を好きだと言いながら、彼女とは関係を続けていた。私は私の庭園を心の中に持っていても平静でいられなくって、好きになれば誰かを傷つけるのが目に見えて嫌だった。人魚姫の話が非常に美しく感じられた・・・・・・・。けれど、生きている人間は御伽噺のようには生きられない。
そのことがわかってもなお、灰色の世界が好きになれない。好きになれないけれど、真っ向から反抗する気はなくなった自分は非常に歳をとった、と、思う。
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