Rock's cafe

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August 7, 2004
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説明の次の回から、ゼミが正式に開講された。形式としては、その週の英米短編小説について事前に決まった2~3名の人による5分程度の発表、テーマは自由だった。そしてそれについておのおのが討論して、最後にレポート提出をして授業が終了する。レポートは次週返却され、A~Dまでの評価及び細かい評語が付けられた。

柴田先生のこのゼミでの役割は教授というより司会者であったが、それは決して中立な立場での司会者でもなかったし、ましてや穏やかな司会者でもなかった。発表でも討論でも、気に入らないところがあると露骨につまらなさそうな顔をして、首をかしげた。「そろそろ時間だよね」と言わんばかりに時計を見たりもしていた。一方興味を引くような発言があればすごくうれしそうにうんうんとうなづき、時間を全く気にせず、「それは~ということとはどうちがうの?」といつまでも食らいついてきた。それゆえに、僕らの間では、得意げに話していても、先生の首が縦に振らなくなった瞬間ドキッとして、思わず発言が小声となることがしばしばあった。

しかし慣れてくると、その司会の絶妙なバランス加減がだんだん見えてくる。生徒の発言に膨らみそうなポイントがあればすかさずヒントを与え、さらなる発見を引き出して議論を盛り上げ、一方で議論が行き詰りそうになると、「こう見てみるのはどうだろう?」と違う出口へと誘導してみせた。そして生徒の発言一つ一つに対して、決して淀むことなく自らの意見を述べた。それは時に本当にそばから見ていてもかわいそうなぐらい痛烈な批判だったし、時には惜しみなく賛辞を与えることもあった。しかし、どれもが議論をそこで閉ざすような「結論」ではなく、むしろ新たな問いを誘い出す「答え」だった。

そして、これを忘れていけないのは、柴田先生が毎回の「ネタ」として用意した短編小説は、本当にみんなハズレ無しに面白かった。何しろ英語で10数ページ分を毎週読まされるので、他に課題を抱える身としてはかなり大変だったけど(その時ぼくは留年と格闘していたので)、辞書を引きながらも最後まで読ませようという力、そして読んだ後に「これは何かを書かんといかんな」という思いを噴出させる力を持つ作品ばかりだった。

何人かの作家は、日本語訳も少ないし、宿題として課せられなければ恐らく読む機会がほとんど無かったと思われるが、このゼミを通じてフェイバリットとなった。そしてそれまで小説は、あくまで「ヒマつぶし」ぐらいの意味でしか自分の中でなかったが、いろんな作品を読み、考察する段階で、さまざまな人生についての示唆と答えを与えてくれるものだと気づいた。例えばレイモンド・かーヴァーの「ささやかだけど、役に立つ事」といった作品には、本当に感銘させられた。その時に感じた思いは掛け値なしに今のぼくの生活を支えている。

ゼミの発言は活発だった。名火付け役かつ盛り上げ役の先生の巧みな討論奉行下で、みんな自分から手を挙げ、互いに臆することなく意見を述べ合い、時にはかなり激しい論争となることもあった。ぼくは前述したように、「無駄な会話」が一切無い法学部から来たということもあって、まるで蓄積されたものがせきを切ったように、ゼミの中でもかなり積極的な発言をした方だと思う。

もちろん中には首を横に振られた発言もいくつかあったけど、それでも毎回授業が終わるとすごく満足感と充実感があった。事前のレポートの中で混沌としていた部分、もしくは全く気づかなかった部分が、議論によって脳内で整理され、見出され、さらには発展していく様子がとても気持ちよかった。そして様々な学部学科から集まってきたメンバーゆえに、同じ小説に対しても、理系的観点、あるいは経済学的観点などからと、いろんな視点から考察がなされていくのがすごく面白かった。恐らく文学部ではなく、教養学部にてゼミを開講するのは、こういった様々な分野からのアプローチを期待してのことだっただろう。ぼくは一回「ギルティ」という小説の発表で、刑法の不真正不作為犯の立場から意見を述べたことがあるけど、その時の柴田先生の「してやったり」的な食らいつきぶりは未だに忘れられない。

考えてみればこれこそが大学のあるべき姿ではないか、といつも思っていた。それぞれ専門分野も違う、怖いもの知らずで好奇心旺盛で遠慮知らずで伸び盛りで未熟な若者同士が、意欲過剰気味に議論を通じて少しずつ自分の思慮を深くし、発想や意見を完成し発展させ、成熟していき、やがて大人となり社会へと旅立っていく場としての大学の。


もちろん、毎回結構な量の英文を読まされ、全レポート及び全出席が必須で、かつ出席すれば半強制的に発言を求められるという、合わない人にとってみれば絶対的に耐えられないゼミでもあった。最初40人ほどいたが、最後の講義まで残ったのは14名だった。1月のある日に半年間の柴田ゼミは終了する事となり、授業後に最初で最後の飲み会が企画された。中華レストランでかなりの分を先生におごっていただきながら、初めて14名同士が会話を交わした。今まで何度も講義中に議論した相手なのに、授業以外では学部も学年もばらばらだったため、全く交流が無かったのだ。でも、この時に知り合った人とは、未だに仲がいい。たった半年間の週一のゼミだったけど、なんとなく同じ釜の飯を食ったもの同士という気がするのだ。






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Last updated  August 7, 2004 06:11:33 AM
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