ねこと歩こう

ねこと歩こう

「幻聴」


私自身も本当の処、どうなのかはわかりません。
でも、確かに聞こえたんです。

あの時、あの子の声が・・・。

あれは、私が19歳の時。
当時、家には「みー」という真っ白で目の青い猫が住みついていました。
その子は、他の家族の誰よりも私を慕ってくれていました。

とても頭の良いオス猫で、殊、私には忠実でした。

しかし、家族の中では特に母が猫嫌いだったので、
その母の機嫌を損ねないようルールを教え込んでいましたが
私が教えた事や私の言う事はちゃんと守る子でした。

元々、家が賃貸だった事と、母の猫嫌いという性質上
みーは半野良でした。日中は家の周りで寝て、他の時間は外で
過ごしていて、ご飯時にしか帰ってこなかったのですが、
ご飯は私が出さなければ食べませんでした。

なので、私の帰りが遅い時は、どんなに暑い日でも寒い日でも
必ず玄関の前で、私の帰りを待っていました。

そんな時「なんで中へ入れたあげへんの?」と家族の人達に
注意をした事があったのですが、「なんぼ言うても入ってきーひんねんもん」
「えさを見せても入ってきーひん。あんたが帰ってこなあかんみたいやで?」と、
逆に帰りの遅い私が悪いかのように言われたものです。

そして家族は、まるで「中堅ハチ公」のようだと口を揃えて言いました。

実は、そのみーという猫は、迷い猫でうちへ来た時
鈴を通した赤い紐を首に付けられていました。

でも、どういう訳か私の家へやってきて
いつの間にか住みつき、その頃には、もはや、みーがいるのが
当たり前の毎日になっていました。

ところが、みーは時々、家に帰って来ない日がありました。
原因は、その時々によって違ったようですが、何か不満があって
言わば「家出」をしていたものと思われます。

けど、うちの周りがみーのテリトリーでしたから
道を歩いていると、いつもみーにばったりと出くわすのです。

そして私は、必ずみーに声をかけました。
「あれ?みーやんか。何してんのん?」私がそう言うと
みーは、ちゃんと返事を返してくるのです。
「にゃっ。」
それは、不満を訴えるような・・・または
私を責めているかのような響きでした。
「なんかイヤな事あってんな?ごめんな?もうそろそろ
帰っておいで?待ってるしな?」
そう言って私は、その場を立ち去るのですが・・・
そんな日の夕方には、本当に帰ってくるから不思議でした。
そして、何食わぬ顔で普通の生活を続けるのです。

そう・・・私とみーは、何やら不思議な繋がりがあったようなのです。


ある日の事、私とみーは家で二人っきりになりました。
それは、日曜日でした。

家族は、みんなどこかへ出掛け、私は掃除やお洗濯を
言付かり、せっせと家事をしていました。

みーは、いつもの如く朝帰りだったのですが
ご飯を食べ終えると、直ぐにどこかへ行ってしまうので
引き止めたいという私の我が侭な気持ちから
ご飯は、お預けになっていました。

お腹が空いているであろうみーは、とても大人しく
ルール通りに玄関の土間で寝ていました。

私は、みーの寝顔を見ながら幸せな気持ちに浸っていて
時間が経つのも忘れていました。

そうやって家事が終わりかけたのは、11時を回った頃でした。
もう少し、あともう少し、と私は、みーの滞在を引き伸ばしたくて
みーの御飯はお預けのまま、お昼御飯の準備に掛かりました。

朝、使った食器を洗い、お米をといでいたその時に
不思議な事件が起こったのです。

私は、あまりにも突然だったので物凄く動揺しました。
その時・・・信じられない事に、みーの声が聞こえたのです。

『聞こえた』と言っても耳で聞こえたのではありません。
頭(正確には後頭部?)の中で突如、声のような音声を認識したのです。

それは、怒っているかのようでした。
私は、本当にビックリしたので身体がビクッ!と動いたのを
今でも覚えています。

そして、その声がした後、なんとなく振り返ると
寝ていた筈のみーが、真後ろに座って私を見ていました。
また、その瞬間、背筋に冷たいものが流れました。

私は、きっと待たせ過ぎたのです。

その事に直ぐ気が付いたので、私は慌てて御飯を出してやりましたが
とにかく信じられない事が起こったので動揺のあまり私の手は、震えていました。

みーには、可哀想な事をしたと反省しながら
御飯を食べるみーの頭を撫でてやりました。

それ以来、私はみーを待たせるような事をしなくなりましたが
あの声は・・・きっとお腹を空かせたみーの声だったと思うのです。
自分でも信じられないけど、あの時、確かに声のような声を
キャッチしたんです。

でも、どうして、そう思うのか上手く説明がつかないのが
歯がゆいのですが・・・。
今でも尚、不思議で仕方ありません。

通常では、考えられない事だけに・・・。


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: