ドアの前でピタリと足音が止まったので、ボクと源さん、申し合わせたように息をひそめ、身じろぎもしない。
一瞬間をおいて、ドン、ドン、ドン!
いかにも怒りを込めた荒々しい叩き方である。
ドン、ドン、ドン!
ひたすら無言で通そうと思った矢先である。
『いるのは判っているわよ、さっさと開けなさいよ!』
金切り声の主は、当然ながらデウィちゃん。
『ばればれだよ。こうなったら開けるしかないだろう』
源さんの耳元で囁くと、
『あかんあかん』
とボクの腕を必死に押さえる源さんの手が小刻みに震えている。こんな時にまことに不謹慎ながら、その恐がりようが妙に可笑しく可愛らしく、思わずニヤリとすると源さん、無言のままこれでもかというばかりにギョロ目で睨み迫る。
こうなれば潔く開けるしかないのだが気懸かりは、複数の足音である。
一体デウィちゃん、誰を引き連れて押しかけてきたのか・・・。それによっては開けるのは拙い。
仕方なくボクが、
『やあ、デウィちゃん』
と声を発するや、源さん、この裏切り者とばかりに顔を真っ赤にして、無言でげんこを振り上げる。
『マモ、開けてよ、いるのは判っているんだから』
『その前に、一緒にいるのは誰?』
『・・・・・・兄弟』
デウィちゃんの返答に躊躇が滲む。
さて、この兄弟というのが曲者であり、厄介なのである・・・・。
インドネシア人は、なにかといえば兄弟と称するものがしゃしゃり出て、介入とてくる。本当の兄弟なのか、親類なのか、単なる知り合いなのか皆目判らぬ。
トラブルになった当事者は良くても、介入してくる兄弟と名乗るのが、入れ知恵し、根こそぎ搾り取ろうとするのを多く見てきたのだ。
『源さん、彼女には兄弟がいる?』
『バンドンにはいると言っていたが、バリには・・・・』
と、なんとも心もとない。
『デウィちゃんだけなら開けるよ』
『さっさと開けろ!』
『開けなければドア蹴り破るぞ!』
どうやら男がふたりいる。
これは、迂闊に開けるととんでもない事になるかも知れぬ・・・。
『なんのなんの、ドアなど蹴り破れんやろ』
源さんが、ほざく。
とんでもない。このアパートでは、今までに2回蹴り破られている。一度は、二階で酔って帰ってきた外国人の男が部屋を間違えノックし、中の人が恐がって開けなかったら、たちまち蹴破った。もう一度も二階で、留守の間に男を引っ張り込んだ時に運悪く男が帰ってきて大騒動となった。
バコーン、バコーン!
外の男がドアを蹴り出した。
『セキュリティを呼ぶぞ!』
『セキュリティなんて恐くもないぜ』
『そうかなあ、このアパートのセキュリティは現職の警官だぜ』
『嘘に決まってる』
バコーン、バコーン!
嘘なもんか。
このアパートのセキュリティは警官だ。地下のセキュリティルームに電話をすれば、飛んでくる。
ボクは、その場で電話を掛けた・・・・。
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