綴

綴

2005年05月11日
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カテゴリ: 連載小説-no title-
優奈は剣を握り、感触を確かめ終わると朔の手を強く引き寄せた。

それを、強く握る。
(一人、二人………五人、六人、ね)
招かざる客が、こちらの周りを取り囲むような位置にいる。
が、簡単に場所がわれるということは、たいした事は、ない。
優奈は気を取り直すように、頭を振った。
油断は、禁物だ。
まだこちらは現状が把握できていないのだから。

そっと後ろを振り返ると、呆然とこちらを見ている朔がいた。
守らなくては。
確かに、それが義務だ。
だが、それよりも思うのは。
(守り、たい)
これが、最初で最後になるのが、優奈は漠然と感じた。
守ることができるのも、友として傍にいることも。
朔は、許さないだろう。
すべてを知ったなら。
覚悟していたことだが、いざとなると、揺らぐ。
それを、押し殺し、凍らせる。

携帯に向かい怒鳴りちらしていた、友の名を呼ぶ。
「西門が、爆破。他はまだ調査中、だと」
役立たずが、っと吐き捨てた稜は、携帯を地面に叩きつけた。
それが、戦いの始まりの鐘だった。
隠れていた不審者達が一勢に襲い掛かってくる。

「半分、お願い」
二人で同時に異句同語を叫び、相手に向き剣を抜いた。
お互いの背中で朔を庇い、守る。
一番近くにいた男の剣が優奈めがけ、槍で突く。
それを半身、傾けかわし槍の柄を両断し、剣の柄で腹を突く。
優奈が攻撃するときの隙を狙っていた男が剣を振り下ろした。
それを剣で受け止め、横に流す。
がらりと空いた相手の腹に蹴りを入れ足を払った。
最後の一人がやけになったかのようにがむしゃらに突進してくる。
優奈も、向かい距離をつめる。
その際足を払われ地面に倒れていた男の腹を踏んで、気絶させて。
突進してきた男は、まさか優奈が距離を詰めるとは思わなかったのだろう。
狼狽が、優奈には見て取れた。
その隙に姿勢を低くして、男の視界か消える。
後ろに回りこみ背中を思い切り蹴り、体勢が崩れたところで首を圧迫し、気絶させた。
片付け終わり、優奈が一息ついたときだ。
そのとき、耳障りな悲鳴を聞いた。
慌てて振り返ると、そこには血まみれの三人の男性を足蹴にしていうる稜の後姿があった。
「稜」
「殺すな、とか言うなよ?」
ぐっと言葉に詰まる。
視線が下がり、朔が座り込んでいるのに気づく。
まずい。
そう思い近くに寄ると朔はただぼんやりと座っているだけだった。
おかしい、と首をかしげる。
初めて戦場、もしくは戦闘に、なんの前触れも、覚悟もなく放り出されたなら大体反応は決まってくる。
初めて人の死を、不可抗力で見たときも、だ。
泣き叫ぶか、半狂乱になる、のように、たいていはパニックに陥る。
だが朔は呆然としていたが、取り乱してはいなかった。
大丈夫だろうか。
そう思ったが、優奈はあることに気づき、納得した。
(あまりにも、朔の日常からかけ離れすぎているから、か)
理解のキャパシティを超えてしまったのだろう。
当然といえば当然だった。
朔は、今、信じていたもの、あたりまえだったものなど、全て否定されたのだから。
一般道路で不審者と友人が戦うなど、信じがたい光景を見ても、もはや取り乱すことさえできないのだ。
(かわいそうに)
朔の姿は優奈の胸に見えない、小さな短剣をつきたてた。
「優奈」
名前を呼ばれ、はっとする。
と、同時に気づく事柄があった。
「援軍、のようね」
「弱いのに、しつこいッ!うっとうしいッ!」
稜の意見に優奈は心の中で賛同する。
確かに、しつこいようだ。
このままだと、何度倒してもぞろぞろと新手が着そうだ。
その場合になると。
「邪魔になるだけ、だな」
稜が朔に視線を向けて、そういった。
朔が、今まで聞いたことのないような冷たい刃を含んだ声だった。
繋いだ朔の手が強張るのを、優奈は感じた。
「稜」
咎めるように名を呼ぶ。
稜は舌打ちをし、黙った。
足で地面を何度も貧乏ゆすりのようにタンタンと靴裏で打つ。
優奈はそれを見て、あることを思い出す。
「避難、させましょう」
「どこにさ」
「あそこよ」
優奈はブーツのかかとで地面を蹴った。。

稜がさっと地面にひざをつく。
そこにはマンホールがあった。
おもむろに、それに手をかけ、蓋を開けた。
朔のぼんやりとし、定まっていなかった焦点がマンホールにそそがれる。
そしてまた、朔の常識が壊され、絶句していた。
思わなかったのだろう。
まさか、マンホールの下が下水道ではなく、シェルターになっているなど、とは。
戸惑う朔をシェルターの入り口の前に導く。
ここなら、安全なのだ。
このシェルターは耐久性にすぐれ、耐火、耐水などあらゆる工夫がしてある。
酸欠の心配も一ヶ月はないし、食料もある。
だから、大丈夫なのだ。
心配いらないのだ。
そう言い聞かせ、優奈は朔をシェルターに向かい、朔の背を押した。
落下していく朔を見つめながら、優奈は声に出さずつぶやいた。
(バイバイ……朔なら、きっと大丈夫だと…私は、思ってる。願ってる)
願うだけなら、願っているだけなら誰にでもできて簡単なことだ。
分かっていたが、それしかできない。
優奈は、断腸の思いでしっかりと蓋を閉めた。





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最終更新日  2005年05月11日 13時00分59秒
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