綴

綴

2005年05月18日
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カテゴリ: 連載小説-no title-
深紅の世界が、朔の身体を蝕んでいた。
巨大な炎が視界に入るだび、脳内に強烈な閃光が走り、抗えない虚脱感が襲う。
脳内がかき回される苦痛に、脂汗がにじみ、吐き気までしていた。
足取りはすでにおぼつかなくなり、どうにか背を壁に預けることで歩いていた。
(ま…ずい………)
朔は一際大きな立ちくらみに襲われ、膝から崩れ落ちた。
前のめりに倒れてしまい、どうにか手をつっぱり衝撃を和らげようとしても、ほとんど力が入らない腕では不可能だった。
どさり、と地にうつ伏せる格好で倒れこんだが、不思議と身体の痛みは感じない。
全身麻酔をかけられたようだ。

(…………裏目、にでちゃったか…)
朔は苦笑いにしては、痛々しい笑みを浮かべた。
今の自分は、もし、仮に友人達と合流できても足手まといどころかお荷物でしかない。
お笑い種だ。
(………な、んだっていう…んだよぅ……)
朔はもう、何が起こっているか考えるのさえ放棄したい気分だった。
できるなら、冗談抜きですべて投げ捨てたい。
信じているものが揺いでいる。
当たり前だと思っていたものが、消えていこうとしている。
考えれば、認めそうで怖いのだ。
認めたくないのだ。

さっきから、そう何度思っただろう。
だが、それを否定するかのように身体が、心が苦痛を訴える。
(何も、考えたくない……)
けれど、朔にはできなかった。
このまま全てを投げ出すという、とても魅力的で楽な選択肢を選べなかった。

弱気になっていく自分に、朔は言い聞かせる。
(泣くのは、後……)
朔はほとんど役割を果たしていない目を開けた。
赤い空が見え、さらに視界が霞掛るが、かまわず見据える。
(弱音も、後悔も……文句を言うのも、後)
言うことを聞かない身体に鞭打ち、ぐっ、と全身に力を入れる。
半ば這うように壁に近づいた。
(そんなこと後で、いくらでもできる)
震える身体を壁伝い、背中を壁に預ける形で上半身を起こした。。
(今、するべきことは。しなくちゃいけないことは)
朔は気を抜けばぼんやり霞む思考回路を、必死に動かした。
どうすればいい。
必死に自分の脳と闘っている朔は、ふと視線を上げた。
(………誰?)
お世辞にも上品ではない足音が鼓膜に届いたのだ。
複数、としか朔には認識できない。
足音の方向を向くのは、辛かったが、我慢して視線を動かす。
予想通りそこは炎が華麗にダンスを踊り、煌いていた。
脳内が洗濯機に回転し始め、強烈な吐き気が襲った。
それでも朔は、必死に目を開ける。
赤い光のなかに、少し離れたところに五人の人が、逆光で黒く視界に写った。
(隠れなきゃ………)
周りを確認すれば、どうやらここはビルとビルの境目で、暗く、ダンボールやらごみ箱やらが散乱していた。
隠れるのにはことかかない。
だが、隠れるまでが問題だ。
身体が自由に動かないのだから。
とりあえず小さく身を丸めて、息を殺すしかなかった。
今日の自分の格好は、幸運なことに黒い服だ。
じっとしていれば路地にいる連中に気づかれずにすむかもしれない。
そう思うしかなかった。
だが、朔の願いは簡単に打ち砕かれた。
「いたぞッ!」
ばっ、と身を翻し逃げようとしても身体は言うことを聞かず、倒れこむだけだった。
右腕に痛みを感じ、視界を上げれば肩を掴まれ、強引に身体を起こされていた。
そしてそのまま、ずりずりと路地まで引き擦り出される。
「見つけたぞッ!本当にいやがったッ!!」
叫ぶと同時に、朔は放り捨てられた。
身体をしたたか地面にぶつけ、朔はうめいた。
ほうり捨てられた衝撃はあるが、痛みはなかった。
相変わらず、体中が麻痺している。
(バ、カ…野郎……)
朔は男を罵りたかった。
よりによって、この男は四方八方炎が見える場所に連れてきたのだ。
おかげで酷い頭痛までし始めた。
ぐるぐるとした気持ち悪さに、朔は眩暈すらしそうだった。
思考回路はどんどんと鈍くなり、目もほとんど真っ白な風景しか写さず、耳の機能さえも正常に働いていなくなった。
「……………に…まさか…・・・なんて」
「……手柄…・・・差し出……金一封………」
「……………銀髪……いる…………」
男達の会話が断片的に、朔の耳に入ってくる。
そのまま聞き流しそうになったが、朔はあることにはたと気づいた。
今、不吉なキーワードが耳に入らなかったか。
朔は顔色が真っ青になるのを感じた。
男達はなんと言った。
朔は恐怖を何とか振り払い、恐る恐る視線を真横に向けた。
ぼやける視界に銀色に光る、何かがあった。
(嘘だ)
朔は必死に否定しようとするが、視線が固定されたままなので、否応なしに銀色に輝く何かが目に入り存在を示し、否定を許さない。
朔は認めざる得なかった。
夢で見た女性のような髪を、自分がしていることを。
(いや…だ……)
心が悲鳴をあげる音が聞こえた。
目の前が真っ白になり、意識が遠のいていくのを妙にはっきりと朔は感じた。





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最終更新日  2005年05月18日 13時51分53秒
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