綴

綴

2005年05月26日
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カテゴリ: 連載小説-no title-
頭から被っていたマントを朔は取り外した。
炎の中を、カイに手を引かれ突っ切ったのだ。
視界がふさがれたおかげで、ふらつきつつもどうにか走りきれたのだ。
「………こ、こは?」
朔は、呆けた表情であたりを見渡した。
深い樹海の中だった。
多い茂った木々が空からの光を遮り、どんよりとした闇を作り出していた。
木々の一本一本が街路樹より大きく、幹がしっかりとしている。
(…………秘宝でも眠っていそうだなぁ)

ばかげたことを考えたと朔自身わかっていた。
だが、一番この光景に近いのはテレビでみた秘境、と呼ばれる地だった。
少なくとも、日本でこんな光景は見られないはずだ。
現実が、ますますファンタジー色を帯びてきたことにため息しかでない。
あまり気味のいい光景ではないので、振り払うように後ろを振り向き、朔は固まった。
大きな城壁があったのだ。
白く、中世を舞台とした映画のセットのような、城壁に圧倒される。
朔は冗談抜きで時空移動、もしくは瞬間移動したのでは、と思った。
街の中心にある駅前の映画館付近の建物から十数分走っただけだ。
だが目の前に雄大な山のようにそびえ立つこの壁は何だというのだ。
人の足で走る速度には限界がある。

「…………どういう」
朔は自身の声が弱々しい事に驚き言葉を止めた。
予想以上に、自分は精神的に追いつめられているようだ。
このような状況では無理にでも冷静になるべきだ、と小さく呟き、言い聞かせる。
大きく息を吸い、吐き出した。

今日は、初めて見るモノに対して身体の拒否反応が凄かったので、内心この広大な光景を見て頭痛や目眩、吐き気などが襲ってこないのに安堵の息を付いた。
例えば炎とか、シェルターとか、人の死とか。
内容が違いすぎているのもあるだろう。
だが、現実離れしているのはどちらも同じだ。
朔は今日、幾度目かのため息をついた。
と、同時にカイが閉ざしていた口を開いた。
「………あいつが戻ってくるまで時間はある」
朔はカイを仰ぎ見た。
カイの言葉は端的すぎて、わかりにくい。
言葉の後に、『だからどうした』と言ってしまいそうになるのだ。
言葉の真意がなになのかを、朔は考えた。
「…………ひょっとして、教えてくれるんですか?」
朔の中で混沌としている疑問を氷解してくれるというのだろうか。
カイが頷くのを見て、じゃあ、と何から聞こうか考えた。
気まぐれだろうと、親切心だろうと、裏があろうと、この状況を説明できる人がいるのは朔にとってありがたかった。
だが、いざ聞こうとしても、何から聞こうか、戸惑う。
(まず、この壁、かな)
とりあえずさしあたって、目の前の謎を聞こうと思った。
目の前のことから片付けていこう、と思ったのだ。
でなければどこから手をつければいいか、見当もつかなかった。
口を開きかけて、そのまま朔は凍りついた。
声が、でない。
何故、と考えて背筋にぞっと悪寒を感じた。
怖い。
泣き出してしまいそうな恐怖が目の前で口を空けているのだ。
聞けば、間違いなく何かが壊れる。
何を、と聞かれれば困る。
だが、朔は漠然と壊れる予兆を感じていた。
(けどッ)
聞かなければ、何も始まらない。
事態を解決できないし、どうすることもできないではないか。
一度頬を叩き、朔は腹を据える。
まっすぐにカイを見つめ、はっきりと頷いた。
「教えて、ください」
声が、震えた。
聞かなければ良かった、と後悔する予感が胸を過ぎった。
だが、朔はうつむかず、視線を逸らさなかった。





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最終更新日  2005年05月26日 10時45分21秒
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