綴

綴

2006年07月05日
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カテゴリ: -本編- [第1部]
 仄暗い、だが優しく包み込むような深い闇の中、遠くで淡い光の群舞を朔夜は膝を抱えながら眺めていた。
 淡く発光する石がある場所は一部だけだったようで、逃げ出した朔夜のいる場所は上下左右もない、と感じられるような漆黒の空間だった。よくできた夢だなぁ、とぼんやりと思う。
 この美しい光景をどれほどの時間眺め続けただろう。正確にはわからないがかなり時間が経っている。だが朔夜は、いつまでも飽くことなく、ただ一心に見つめ、時折幸せそうに小さく微笑む。
 幸せだな、と思った。いや、幸せと言うにはあまりにも切なさの成分が多すぎた。それは、幸せだった日々を光景に重ねて、思いだしているからだろうか。
 どちらでもかまわない。
 朔夜は深く考えてしまうことを恐れるかのように、考えを振り切るために数度強く左右に頭を振り、膝を抱え直し、身を小さくした。
 様々な光の珠の中で、仄かな薄紅色の光が三つあった。少しずつ濃さが違う、だが似通った雰囲気の光の珠を見ており、朔夜はふとその輝きから連想された人物に想いを馳せた。
(胡家は……麗蘭様、や怜蓮様…玲鈴様は、…………皆は、大丈夫、なのか、な?)
 一瞬『あの人』を思いだし身が強張ったが、それでも唇を噛み締めることで耐え、薄く目を開く。朔夜の目に映っているのは幻想のような目の前の光景ではなく、赤い色に彩られたほんの少し前の、過去の記憶だった。

 体中の血が凍ってしまったように動けなくなった朔夜の手を、緋深の温かい手が力強く引っ張り、胡家の敷地を駆け抜けた時に、朔夜が見た光景だった。
(…また、壊して、しまった……私がいたせいで………)
 朔夜は強く瞼の上下を合わせた。涙をこぼさないためか、思い出したくなかったからなのか、朔夜にもどちらか分からなかった。いや、両方の理由からかもしれない。
「………いつも、そう、だ」
 『朔夜』という“異分子”が温かくも美しい光景に混じる。すると一枚絵の様な穏やかな光景に罅を入れてしまい、それは少しずつ、少しずつ浸食し、最後には木っ端微塵にまでしてしまう。いくら両手を広げ、欠片がばらばらにならないように必死にしがみついても、擦り抜ける。
 欠片が掌から滑り落ちる感覚をまた味合うぐらいならば、最初から美しい光景から弾かれるほうがましだ、とさえ朔夜は何度も思った。だがいつもそう決意をしても、美しい光景の住人は優しく朔夜の手を引き、招き入れてくれる。その手を振り払えばいい。そんな簡単なこと、朔夜は分かっている。
 だが、朔夜にはできなかった。朔夜が弱いからもある。だが、幾ら振り払っても嫌な顔一つせず、手を握り直される。心を必死に押し殺して温かい手を振り払い、逃げだそうとするとそっと抱きしめる。そうされてしまえば、朔夜は振り払わなければならないと命じる冷静な理性と、縋ってしまいたいと願う弱い心が鬩ぎ合ってしまい、混乱に陥る。そして半ば呆然としている朔夜に“とどめ”と言わんばかりに優しい言葉を尽くし、温もりを分け与え、額にふわりとした口づけが落とされる。そうやって朔夜の心を優しく手折ってしまう。
 残酷だよ、と朔夜は何度思っただろう。八つ当たりじみていることは分かっている。招き入れてくれて嬉しいと、心からも思っているのだから。
(でも………やっぱり、壊れた、よ………壊しちゃ、ったよ)
 大丈夫だ、と言われた。だから手を取ってくれ、と。一緒にいよう、と。幾度も、飽くことなく与えられた優しい言葉が今、刃に姿を変えて朔夜に襲いかかる。
 どうしてこうなるのだろう、とは朔夜は思わない。そんな自身への問いかけなど2年前、もう考える余地がないほど考え抜いたからだ。考え抜いた結果は、理由などない、だ。『朔夜』と言う存在があったから災厄は引き起こされる。なら災厄の根源たる己が、破壊が起きることへ理不尽さを感じるのはおかしいのだ。

だが、現実はどうだろう。朔夜に痛いほど現実が訴えかけてくる。だから、どうしても朔夜は否定の言葉を受け入れられない。  
 朔夜は頭を膝に押し付けるようにして、身を更に、更に小さくした。
 今、あの光の珠を見たら大切な人達を連想してしまい辛くなる。自身を抱きしめる力を緩めれば震えてしまう。
 朔夜はただ、悲しみに似た身を切り裂くような痛みに耐える為、更に膝を抱える腕の力を強くした。
 このまま、早く夢から覚めてしまいたいと思いながら。いつまでも見ていたい、と先ほどまで考えていたことと違うな、と小さく自嘲しながら。


 ……前回のとあまり内容的に変わらなく、短いですが…
 次の話と前回の話の繋ぎなので、目を瞑って頂ければ、と
 次か、次の次で夢編を終わらせて、朔夜を起こして本編をさかさか進めます。
 が、頑張るぞぉ





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最終更新日  2006年07月05日 20時12分00秒
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