見のがした孵化と羽化
こうしてかわいい雛たちを見ていると、無事な巣立ちを祈る一方で
なんとも残念に思えてくることがあります。
それは、雛たちが卵から孵る瞬間を見逃したこと。
親鳥が鳴こうが騒ごうが、ヒヨドリはもともとそういう鳥だと決め込ん
でいたばっかりに、我が家の白樺に巣があり、そこに卵が産み付け
られていることに気がつかなかったのです。目の前で野鳥の孵化を
観察できる、滅多にないチャンスだったのに。私はそれ以前にも、蝶の羽化で、とても残念な経験していました。ま
た寄り道になりますが―。
ある日、郷里・北関東にいる小学生の甥から都会で暮らす私たちの
もとに、宅配便が届いた。包みをあけると、和菓子の空き箱のなかに、
虫食いだらけの小枝が一本、それにただ手紙が添えてあるだけ。
はてな、何のつもりかしらとけげんに思いながら、手紙を読むと、
およそ次のような文面だった。ぼくの大切なアオスジアゲハの幼虫を救ってやってください。
このあいだ、鎌倉に行ったとき見つけて、持ってきてしまいました。
こっちでは、エサのタブノキやクスノキがみつかりません。もう、
いっしょに持ってきたタブノキの葉っぱもそれだけになりました。
どうかオバサンのところで、チョウチョにしてやってください。
すごくきれいなチョウチョになります。
鎌倉といえば、たしか頼朝の廟所に大きなタブノキがあったはず。
まさか、そこから失敬してきたのでは...?
そんなことを思いながら箱から小枝を取り出し、おそるおそる調べ
てみると、ほんとに青虫が一匹かくれている。のけぞりたいほど気
持ちが悪い。当時は、まだ私は虫は苦手だったのだ。甥は幼いときからやたら蝶好きな子だった。よくサンショウやカラタ
チなどの木から幼虫を見つけてきては、だいじに育てていた。大人
たちが気持ち悪がるとよけい調子に乗って、その幼虫を自分の胸
にいくつも勲章のようにたけてみせたりするのだった。彼は、アオスジアゲハの幼虫を餓死させてしまうのがしのびなくて、
私を本気で頼ってきたのである。叔母さんとしては、なんとしても頼
りがいのあるところをみせたい。気持ち悪がってばかりいられなかった。幸いなことに、ちょっと先の辻公園に、大きなクスノキが一本あった。
毎日、暗くなってから、誰がとがめだてするわけでもないのに、なん
だか後ろめたいような気持ちで、こっそり小枝を折ってきたのをお
ぼえている。ときには夫が勤め帰りの道筋でみつけたのを、おみや
げだといいながら渡してくれることもあった。
大食漢のイソウロウにせっせと餌を与えているうちに、だんだん気
持ち悪さが消え、なんだか可愛くなってくる。葉を食べる音さえ耳に
心地よいのだった。蝶の幼虫がサナギになるまでの過程を、あんなにつぶさに観察した
のは、あのときが初めてだった。まして、郷里では見たこともないア
オスジアゲハの...。さて、今日がいよいよアオスジアゲハの羽化まちがいなしという日、
ところが、である。サナギが割れ始めた肝心なときに、玄関のチャイ
私はそのさぞ神秘的であろう一瞬をしかとこの目で見届けようと、早
朝からそわそわ落ち着かなかった。
でにもぬけのから。
蝶はと探すと、カーテンに止まって、羽を静かに乾かしている。その
羽は、黒地にブルーの斑紋が列をなす、宝石のようなとしか例えよう
がないほど美しい。
本物のアオスジアゲハをみたのは、これがはじめてだったので、感
動もひとしおだった。
なにはともあれ、無事に羽化したことにほっとしながらも、その瞬間
を見逃した無念な思いは、しばらく尾を引いたのだった。
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雛が、親のあしもとに甘えかかっているように見えます。
親は、やはりこちらを警戒しているようです。
ビニールひものくずも巣の材料に―。
いま観ているヒヨドリの雛たちの孵化は、きっと少しづつ時間のずれ
があったはずです。巣立ちのときも、だから四羽が全部同時というこ
とはないだろう。どんなに運が悪くても、気をつけていれば、一羽くらい、
巣立ちの瞬間を見ることができるかもしれない。いや、どうしても見た
いと思いました。
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つれりんさん