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小説3!!
「ここは・・・書斎か何かでしょうか?」
ルイスが辺りを見回している。
クリーム色だったと思われる壁紙で、下から1メートルくらいまでは木製だ。
天井からは小さめのシャンデリアが架かっていて、埃と蜘蛛の巣の間から、
微かに金色なのが見て取れる。
壁の一面が本棚になっていて、その巨大な本棚にはびっしりと本が詰まっている。
「すげー本の量だな・・・」
「そうですね・・・」
「あ。これ、写真じゃないっすか?」
そう言ってフィルが指差しているのは、丸いテーブルの上に置かれた写真立てだ。
その写真は、優しく微笑む男性が、小さな手を握って立っている・・・そんな写真だ。
しかし、小さな手の持ち主は、肘の辺りで千切り取られ、写真のあちこちに傷があった。
この館の主だろうか、色あせてもなお、赤い瞳と銀色の髪は
当時の色を残しているように鮮やかだった。
「なんか・・・この人、すごく寂しそうじゃないですか?」
ルイスがその写真の男性を指差して言う。
「確かに・・・優しそうな顔してるけど、なんか寂しそうな感じもするな。」
笑顔に少し影があるように見えるのは、俺だけじゃなかったようだ。
「この手は、この人の子供っすかね?服的に女の子っぽくないっすか?」
フィルがそう言って、千切り取られた部分のちょっと上あたりを指差す。
「そういえばそうだな・・・昔のドレスってこんな感じか?」
俺の記憶の中にある歴史の知識だと、昔の貴族が着ていそうだと思う。
色褪せてセピア色に染まっているその写真を見つめていると・・・
ギイィ・・・
と、突然、扉の開く音が聞こえた。一斉に振り返ると、そこには写真の男がいて・・・
「誰が入り込んでいるのかと思ったら・・・お前達か。こんな所に何の用だ?」
「ここにいちゃ悪いか・・・?」
俺はちょっと緊張しながらも強気な態度で言った。
「ほぉ・・・私の家に勝手に入っておいてその態度か。お前は礼儀知らずな者のようだな。」
切れ長の眼は、不機嫌さからか細められていて、その間から見えるのはやはり赤い眼。
腕を組んで凛とした表情で立っているその男は、
額にかかってきてしまった銀色の髪を軽く掻き上げる。
そして、ふっ・・・と息をつくと、俺達を鋭く睨み付ける。
「お前達は邪魔だ。さっさと出て行ってくれ。ここは私の館だ。
礼儀知らずな小僧の相手をしている暇はない。帰れ。」
そして、それだけ言うと、開けたままの扉から出て行った・・・
「今のは・・・この写真のと同じだったよな?」
「そう・・・見えましたが・・・」
「違うんすか?」
俺達はそれぞれのポーズで考えた。
・・・・・・・・・
4~5分して、一番最初に口を開いたのは俺だった。
「この写真・・・かなり昔の物だよな?そう考えると、この館の主だった人の
孫とか・・・曾孫とかでもおかしくはないよな?
でも、自分の館だって言ってたけど、明らかに生活感がないよな・・・
てことは、さっきのは幻の可能性もある。
今までの情報を総合して考えると、過去に葬られたヴァンパイアが
蘇ってきた、もしくはヴァンパイアは死んでいなかった・・・って考えられるな。」
俺は一人でブツブツと呟きながら必死に情報を整理した
突き当たりまで行くと、左に曲がる通路があった。
戻るわけにもいかないため、その通路を曲がって歩いて行った。
その通路の左には、ちょっと大き目の四角い窓が点在している。
ここは俺達が見て来た東の棟と、和臣と芳人が調べている西の棟を繋ぐ渡り廊下らしい。
こちら側と西側との丁度真ん中くらいの右側には巨大な木製の扉がある。
古びて黒くなった扉は、見るからに重そうだ。
「・・・まだ芳人達は来てないみたいだな。」
辺りには俺達3人以外には誰もいない。
「しばらく待ちますか?」
「リーダー、連絡は取れないんすか?」
「残念ながら電波が届かないらしい。繋がらないんだ。」
俺は使い物にならない携帯電話をポケットにしまいこんでため息を吐く。
・・・・・
時間が経つのがものすごく遅い。
未だに芳人たちは来ない。
「あれ~?龍司じゃんか!もうここまで来てたのか。」
と、いきなり芳人の大声が響き渡る。
「芳人、和臣!無事だったのか!」
「リーダー・・・無事じゃいけないみたいじゃないですか!」
和臣が呆れ顔で言ってくる。
「悪かったって!で、ここまででなにか見つけたか?」
早速、お互いの情報を交換する。
「俺達の方は館の主だって言う男に会った。あとは特にないな。」
「僕達は面白いモノを見つけましたよ!」
嬉しそうにそういう和臣を、俺達は不思議そうに見つめる。
「面白いモノ?なにを見つけたんだ?」
「まずは写真!女の子が写ってる写真が1枚と、女性を合わせて4人で写っている写真。
どちらも大昔の写真のようですが、話にあったヴァンパイアの娘達でしょうね。
次は地下に続く隠し階段です。西の棟の10番目の部屋に、隠し階段がありました。
地下には入ってないのですが・・・最近開けた形跡はありませんでした。」
「そうか・・・俺達の方にも写真はあったんだ。
でも、男が子供の手を握って立ってる写真なんだけど、子供の肘から下は
千切り取られてて、顔は分からなかった。」
「そうなんですか・・・」
俺達は暫し考え事をしていたが、結局はその大きな扉を開けて中に入ることにした。
ギィィィ・・・
扉は思っていたよりも重くはなかった。
開くときに、扉の軋む音が大きくて驚いた。
「ウルサイ扉だな・・・」
「仕方ないんじゃないですか?随分古い物のようですし。ね?和臣さん。」
「そうですね。でも、誰かが使っているのは確かですよ。取っ手に埃がなかったし。」
言われてみれば、確かに俺達が触る前から取っ手には埃がなかった。
「よく気がついたな・・・」
「和臣だもんな~流石だよな!」
芳人が声を立てて笑う。・・・喧しい。
「・・・まだいたのか。」
突然響いてきた声に、俺達は首を竦める。
「帰れと言ったはずだが・・・・聞いていなかったのか、理解していないか・・・」
呆れたようにそう言う男は、やはりあの銀髪の男だった。
赤い瞳はまるで炎のように見える。それくらい、鮮やかな色をしているのだ。
「それで、お前達はなにが目的なのだ?私に用がある・・・と言うわけではないだろう?」
瞳を細めて椅子から立ち上がると、髪を掻き上げながら睨んでくる。
「お前達には早く出て行って欲しいものだ。こちらは昼食を食べる所なのでな。
邪魔をしないでいただきたい。」
淡々とそう言う男は唐突に後ろを向いて、別の部屋に入って行った。
「なんなんだ?今のは・・・」
その後姿が見えなくなってから、俺達は詰めていた息を一気に吐き出す。
「食事の邪魔をしないで欲しい・・・か。」
「あの人って、ヴァンパイアなんでしょうか?」
「さぁ・・・?」
俺達がどうするか悩んでいると、さっきの男が戻ってきた。
今度は見覚えのある少女を連れて・・・
「み・・・さ・・・?」
驚愕で固まる俺を、フィル達が不思議そうに見ている。
「美砂っ・・・美砂なんだな?無事だっ・・・」
俺が慌てて近付こうとすると、美砂・・・いや、その少女は俺を鋭く睨んできた。
「あなた・・・誰?私はあなたなんて知らないわ。せっかくお父様と一緒に
食事をする所なのに、邪魔をしないで。」
冷たい眼で俺を睨む少女は、美砂と同じ声でそんなことを言う。
「美砂・・・」
呆然として立ち竦む俺を一瞥して、男と一緒に食事を始めた。
「うそ・・・だろ・・・?」
「リーダー?どうしたんですか?」
「龍司、しっかりしろよ!!」
芳人が俺の肩を掴んで揺する。
「ここを出た方がよさそうですね・・・芳人さん、龍司さんをお願いします。」
ルイスがそう指示をだす。
「いやだっ・・・!離せ!!美砂っ・・・美砂ぁっ!!」
俺は必死になって芳人の手から逃れようともがく。
でも、焦れば焦るほど力が入らなくて、芳人に簡単に押さえ込まれる。
「煩い、黙れ!!」
銀髪の男が怒鳴る。ガタンッ・・・と音を立てて立ち上がると、
俺達の方に歩み寄ってくる。
「お前達は、人の話を聞くつもりはないようだな。そこの黒髪の小僧。
お前は美味そうだ・・・と言ったろう?そして、今はまだ食うわけにはいかない、
とも言ったな。お前は私の研究材料になってもらうつもりだ。
出て行かないのなら結構。私の娘が、お前達を始末してくれる・・・」
そう言いながら、冷たい氷のような笑みを浮かべる。
「な・・・何を・・・」
俺が大人しくなると、少女に向かって手招きをする。
無言で近付いてくる少女の手には、鈍い色を放つ剣が握られていて・・・
「あ・・・なたに・・・は、死ん・・・で」
途切れ途切れに言う少女は、そこまで言うと剣を落として・・・・
「あ・・・お・・・にいちゃ・・・」
膝を突いて倒れこむ少女は、苦しそうに呻いている。
「お兄ちゃん・・・」
ふと顔を上げたときの言葉は、笑顔で俺に話しかけてきた美砂と同じで・・・
「美砂・・・?」
その場にいる全員が、時が止まったかのように動かなくなる。
「ちっ・・・やはりまだダメなのか・・・」
銀髪の男が呟く。そして、その少女を抱き上げると、奥の部屋に消えていった・・・
「美砂っ!!」
「龍司、いい加減にしろ!!」
また追いかけようとする俺の鳩尾に、芳人の拳が埋め込まれる。
「よ・・・しと?!」
薄れ行く意識の中で、芳人が「ごめんな」って言って、俺を抱え上げるのが分かった。
そこで俺の意識は途切れてしまった・・・・
「美砂っ!!」
「龍司、いい加減にしろ!!」
また追いかけようとする俺の鳩尾に、芳人の拳が埋め込まれる。
「よ・・・しと?!」
薄れ行く意識の中で、芳人が「ごめんな」って言って、俺を抱え上げるのが分かった。
そこで俺の意識は途切れてしまった・・・・
「う・・・」
どれくらい時間が経ったのか、眼を覚ました俺の視界に飛び込んできたのは、
真っ白な天井だった。
一面真っ白で、体が浮いているような気分になる。
「ここは・・・」
起き上がって辺りを見回すと、どこかの屋敷の部屋のようだ。
「龍司!」
突然響く芳人の大声に、俺は肩を竦める。
「芳人・・・」
ボーっとして芳人を見つめると、不安そうな顔をして覗き込んでくる。
「大丈夫か?俺、強く殴りすぎちまって・・・ごめん!悪かった!」
芳人は俺の真横で体を2つに折って頭を下げてくる。
「大丈夫だよ。俺だって伊達に何年もこの仕事やってるわけじゃねえし、
仕事でケガするのとかだって慣れてるしな。」
「龍司・・・お前、本当に大丈夫か?」
不安そうな芳人を見て、首を傾げる。
何が言いたいのか、いまいちよく分からなかった。
「その・・・あの子、お前が言ってた、連れ去られた子だろ?
お前、昔から自分の所為だって思い込むと感情の暴走がすげーじゃん。」
「そんなにヒドイか?」
確かに、俺の所為だって思うと感情を上手くセーブ出来ないのは真実だ。
でも、芳人が言うほど悪くないと思ってたんだけどな・・・・
「とにかく!もし、今の状況であの館にもう一度行ったとしても、
前回の二の舞になるのがオチだ。お前が落ち着いて、あの子に起きた事を
素直に受け止められてから、あの館に行こう。な?」
芳人の、聞き分けのない子供を宥めるような口調がおかしくて、俺は思わず笑った。
「わかってる。自分でも、感情の暴走には気付いてたから。今は一人にしてくれ。
少し・・・考えたいんだ。美砂のこととか、あの男のこととか・・・」
俺が大きな窓のほうを見つめて言うと、無言で芳人が部屋を出て行った。
「美砂・・・・」
思わずそう口にして、自己嫌悪に陥る。
あの時、美砂を助けてやれてれば、こんなことにはならなかったんじゃないか、
俺にもっと力があれば・・・って、今更どうしようもないことをしつこく考えていた。
もう、過ぎてしまったことだ。忘れよう。それがダメならバネにして強くなろう。
そう、頭の中では分かっているつもりだった。
なのに、美砂を目の前にして思ったのは「生きてた」ただそれだけだった。
食ってやるなんて言ってたから、もう生きてないかも・・・なんて考えてただけに、
喜びと驚きは大きかった。
外から聞こえる子供の笑い声が気になって、カーテンの引かれた窓へ寄ってみる。
窓を開けると、そこはベランダになっている。
顔に当たる微風が、妙に気持ちいい。
ヴァンパイア事件なんて物騒なことが起きている土地とは思えないくらい、
のどかな風景が広がっている。
ここは、エレンとカレンの館のようだ。
見覚えのある、巨大な門があるから。
手摺に手を掛けて下を見ていると、騒いでいた子供が気付いたらしく、
俺を指差して笑っている。
「お兄ちゃん、髪の毛ハネてるよ!!ウニみたい!」
そんなことを言っている。
「ウニで悪かったな~!」
笑いながらそう言い返すと、一緒にいた女の人が俺を見上げてきた。
「龍司さん、ですよね?眼が覚めたんですね!今、行きますので待っててください!」
顔はよく分からなかったが、明るい茶色の長い髪を靡かせて、
白い服を着ているその女性は、遊んでいた3人の子供を連れて、部屋に入っていった。
「暇だな・・・」
俺が扉の方へ向かって歩いていくと、バタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。
「龍司さんっ!!」
飛び込んできたのはルイス。
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