ラメな毎日

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【ジゼル】ミラノスカラ座

フェリのジゼル アレッサンドラ・フェリの【ジゼル】全幕


【アレッサンドラ・フェリの「ジゼル」】(ミラノ・スカラ座バレエ)
(収録:1996年/ミラノ・スカラ座 劇場)


ジゼル: アレッサンドラ・フェリ
アルブレヒト: マッシモ・ムッル
ミルタ: イザベル・セアーブラ
ヒラリオン: マウリツィオ・ヴァナーディア
ペザント・パ・ド・ドゥ: ロベルト・ボッレ、ベアトリーチェ・カルボーネ
二人のウィリー: シルヴィア・スクリヴァーノ、ジルダ・ジェラーティ

美術的センスがさすがイタリア。舞台は色づかいといい影の使い方といい、奥行きと広がりが感じられる。照明が更に時間の経過を表現して、影を落とした舞台全体がドラマチックで濃厚な色合いになっていく。この色彩感覚はイタリア人としての使命に近いと思う。やらなきゃプライドが許さない。ファッショナブルであることが当然で、ダサいのは罪なのね、きっと。

衣装もイタリアらしい生地と質感で高級感がある。まー、でもドイツの農村という設定だけに、玉虫色に輝く微妙な色合いのシルキーな生地なんて、村娘たちが着るか?という疑問も多いに残るところではある。ジゼルのスカートは薄く柔らかいシフォンが重なって、農村というシチュエーションを考えなければ、それはそれは素敵なスカート。
綿100%の丈夫な生地に鮮やかなプリントやレース使いが自然じゃなかろうか。

一幕のアルブレヒトは愛しいジゼルをその手に抱きとめたくて、手をにぎったり顔を向けさせたり、いきなり両手に口づけるのも、やり方が「イタリア男だな~」と思う。貴族の高貴さとか若者のほほえましさではなく、素朴な娘をやさしく包む大人でもなく、このかわいくてしょうがない娘と性急に熱愛したい恋する男といった感じ。

ベンチに座ったジゼルがスカートを広げると、「ねぇ、それじゃ僕はどこに座ったらいいんだい?」というアルブレヒト。ちょっとだけお尻をずらしてスカートの端を恥ずかしそうにたたむジゼル。うーん、かわいい。ムッル@アルブレヒトは、逃げるジゼルの腰に手を回そうとする。恥らうジゼルを引き寄せては顔を近づけてキスをしようと急接近したり、とにかくジゼルをつかまえておきたくてしょうがない。だって、まぁ、かわいいしねー。本気か嘘気かよりも、本能で「ジゼル、LOVE」なんだね~。

ジゼルはそんなアルブレヒトに目が恋しちゃってる。普段ならお母さんの言うこともきちんと聞くのに、愛しの人ばかり見てしまう。母は、「このヤサ男。うちのジゼルにちょっかい出してくれて。おかげで娘は浮かれるし、あー、メ-ワク。」と露骨に顔に出す。

フェリのジゼルは体が弱いことなんて普段は忘れていて、踊ることが好きで、楽しくなると村の誰よりも快活にはしゃいでしまう、純粋で一途な女の子。

ペザントのボッレは顔がなんだかまだあどけない。このころは売り出し中だったのかな?太ももは腰まわりよりも約2割増し。楽しそうに踊っております。

事実を知ったジゼルは、まさに「狂乱」。泣き濡れて髪振り乱した壊れたジゼルと、幸せだった自分を思い出して薄く泣き笑うジゼル、どっちもコワい。目は空洞のようにどこも見てなくて、魂も抜けそうな虚ろな表情。と思うと突然我に返り、驚愕すると突風のように走り回り、周りをすべて巻き込んで大声で叫びまくる(わめき散らしてると思う)。バチルドに追突し、ヒラリオンに(正気に戻るように)揺り動かされ、母親にすがりつき、アルブレヒトに激突せんばかりに突進したとたん、絶命。あまりの激情に心臓もびっくりしてぷっつり鼓動を止めちゃった、そんなショック死でした。

いやー、ジゼルって激しい女ですねー。

2幕の照明は藍色に近い濃紺のような青い死人の世界。とでも言おうか。ウィリー達はみんな血の気のない青い肌となり、チュチュも青白い。ナマっぽい感じがないので、ウィリーが静止してると本当に死人がずらーと並んでるのかと寒気すらする。

ウィリーになったジゼルがミルタに呼び出されて唐突に激しく回るシーンはもっと接写してほしかったな。ただただミルタの魔力で回らされていて、ウィリになったばかりのジゼルの意思はまだどこにも存在していない。それともあれは服従を示すのだろうか。

ウィリー達はヒラリオンを端から中央へと六つの放射状の線となって追い詰める。さきに見たキーロフは左右から横に遮る形だったけど、スカラ座はこの放射状のフォーメーションが印象的。ヒラリオンを輪でぐるぐる囲む速度は速くて目がまわりそうだった。
ミルタは氷のように凍てつく青白さで、ヒラリオンにはもちろん、アルブレヒトの懇願にも冷酷な命令を下す。アルブレヒトが最後にめいっぱい踊らされるときも放射状で突き刺すようなフォーメーションをつくる。

1幕のアルブレヒトはそこにはいない。恋する色気は勿論なく、はじめは悲嘆にくれるヤワな男に見えた。ジゼルには夢中だったけど、誠実でも切実でもなかったと思うし、最後には貴族の生活を選ぶ気がしたから、その崩れぶりが意外な気もした。ジゼルを突然失って予想以上に痛手を負ってることに気づいたのかな。傷口がちっとも塞がらずに血を流しつづけていたのかもしれない。ショックを受けすぎると感情が麻痺してそれほどでもないと思ってるのに勝手に涙ばかり出ることってあるじゃないですか。よくわからないまま胸ばかりぎりぎり痛くて。そうだとしたら、つらすぎる。

二人は初めすぐに触れ合えずに、互いの間合いを計るように微妙に距離を置いている。このときジゼルはまだ半分魂だけの存在のように、アルブレヒトの周りを浮遊しているよう。ジゼルがユリの花を抱えて、それをまるで自分の分身のように、アルブレヒトの腕に押し込めていく。それは「受け取って」でもあり、「受け止めて」でもあると思う。
高々とリフトされたジゼルには体重なんてなくて、ぽっかりと浮いていた。本当にぽっかりと。

ジゼルの瞳は徐々に悲しみを帯びていき、パ・ド・ドゥではジゼルが泣きそうに見えた。あれほど狂乱したのが嘘のように、静かに二人を確かめあう。

夜明けの鐘が鳴り、ウィリー達が去っていくとジゼルはアルブレヒトを聖母のように包み、安堵と愛情のこもった表情をする。でもすぐに別れるつらさが顔をゆがめる。アルブレヒトに抱きかかえられて寄り添い、それは短いけど永遠のような長さだった。

小さく徐々に後ずさりするとき、ジゼルはまだ彼を見ているけれど、お墓の前までくるともう見ていない。お墓の中に吸い込まれるように消えていくジゼルにはもう見えていなかったのかもしれない。

残されたアルブレヒトは、なんだか泣き腫らして放心状態の子供のようだった。
お墓にとりすがって終わるのではなく、茫然自失のアルブレヒトが膝からくずれて泣き顔をさらしたまま幕となる。なんだか哀れで、かわいそうでならなかった。

ジゼルの想いは昇華したけど、アルブレヒトは立ち直れていなかった。この先彼はどうなるのだろう。



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