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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年06月14日
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鍵も厳重に増やしているようだ。
中を透視しようとすると、きちんと偏向フィルタがかかっている。トールはともかく、本体あたりはこれで手もなく騙されてしまうだろう。

彼の気持ちもわからないでもなかったが、このまま消耗戦に持ち込んでいていいはずがない。

トールはひとつ息を吸うと目を閉じた。かかっていたセキュリティとフィルタをすべて取り去り、扉を開ける。
デセルの細工は見事なものだが、そもそもがここはルキアである上に、今のデセルにはそれほどの余裕がない。おそらく当人もそれをわかってやっているのであろうが。

大股で暗い室内に入る。左の奥の壁に、濃い陰の中に溶けるようにして、背の高い人影がもたれていた。座ることも眠ることもできず、腕を組み、ただうねりを耐えて立ち尽くして。

うねりの残滓を読みとり、トールは絶句した。
表面に見えていた以上の壮絶な影。これは……このことに気づかなかったとは、なんという迂闊さであったろう。
彼の想いが大きければ大きいほど、傷は深いはずだった。
たとえ望んで事が起こったわけではなかったにしてもだ。

デセル、と呼びかけた声にあげた顔は憔悴していた。
申し訳なさをこらえて、銀髪の錬金術師は続けた。

「デセル、君は言ったじゃないか。一人でぎりぎりまで耐えることはするなと。君も同じだよ……手伝わせてくれ。ほんの少しでも」

窓にひかれたカーテンのわずかな隙間から月光がさしこみ、銀青の服を着た錬金術師の姿を浮かび上がらせる。
暗闇でも明るさを失わないペリドットの右目から、すっと涙が落ちた。
本心は(そばにいて)だったから。

(大丈夫、そばにいる)

トールは触れた腕から、言葉によらず明確な意思を伝えた。君が望んでくれるかぎりは、いくらでもそばにいる。

あのことが起こった、それを自分の責任というのは傲慢なのだろう。大きな波と小さな波がまじわって、物事は起こるべくして起こる。たまさか流れを覗くものをあざ笑うかのように。
現実さえ把握しきれないときがあるというのに、なぜ未来の破片が降ってくることがあるのだろう。覗くだけで変えられないなら、それになんの意味がある?
あのときマリアがかすかに首を振った、理由はここまで明確に見えていたわけではないけれど。
いつも、ただ、受け入れることしか許されないのか。

軽く頭を振って思惟を払い、トールはペリドットの瞳を見直した。いまはまずこちらだ。自分の思いなぞはあとで沈めばいい。

「・・・・・・押さえ込もうとして失敗してる。このまま消耗して倒れるのと爆発するの、どっちがいい」

「・・・・・・」
金茶の髪の友人は無言だった。どっちも嫌だ、とは言えない。
自分ひとりで綺麗に処理できてしまえばいいのに。

そうと察したトールはため息をついた。

「爆発させよう。私は受けとめられると思う」

ぱっとデセルが顔を上げる。

「でも、本体が・・・・・・」

「本体は遮断して別個にヒーリングを送る。完全に切り離すわけにはいかないけど、フォローする。
おいで、荒地に行こう。思う存分暴れられるようにね。この部屋にセキュリティをかけてもかまわないけど、君は遠慮するだろう」

内圧がそこまで高まっていては、押さえ込むのはもう無理だよ。君だってわかっているだろう?

親友を見やって、トールは軽く片手を振った。部屋の空間がぐにゃりと歪み、荒地へと繋げられる。デセルは壁ではなく、銀髪の友人の肩にもたれる格好になった。

「さて、と」

トールはデセルの肩をかついだまま、空いた片手で空中に魔法陣を描いた。瑠璃の陣が荒地に広がり、空間をきれいに覆って外界から遮断してゆく。元々荒地は幾重もの魔法陣で結界されているが、これでここで何があっても、外部に影響が出ることはない。

「トール・・・・・・俺は、そんな」

まだためらう親友を、トールは間近からじっと見つめた。

「わかってる。本当の原因の方には手を出せない。けれど触発されて出てきた影の方ならば、爆発させても受けとめることができる。それだけでも少しは楽になるはずだ……
ただの対処療法かもしれないが、頼む、やらせてくれ」

言葉にならない言い尽くせない謝意が、肩を通してデセルに伝わる。

すべてを経験するために生まれてきた、という。
痛みすら味わうために生まれてきた、という。

けれども大事な人が苦しんでいるのを見るのは辛い。
けしてわざとではなくても、傷つけてしまうのは辛い。
なぜこうなってしまうのだろうと悩み苦しみ、自分の中の弱さを見せつけられて。

誰より幸せになってほしいと願う相手を、どうしようもないほど傷つけ苦しめる、それすらも時間の葉に記された必要な予定事項だったと、世界樹ならば言うのであろうか。
たとえそれが、渦中に生きている人間にとっては、血を吐くような経験であったとしても。

派生した影の解放をデセルは了承した。
それは彼の優しさであると、トールにはわかっていた。




荒地に白い光が爆発した。

突発的な暴風が起こり、二人の髪を巻き上げてゆく。

助けて
助けて
助けて

たくさんの手が地中から伸びて二人に縋りつこうとする。

わきあがる死傷者の群れ。
足の踏み場もないくらいたくさんの怪我人、病人、中にはもう、明らかに生きてはいないだろうと思われる亡者たち。

助けてくれたじゃない
助けて 見捨てないで おねがい・・・・・・

声は輪唱のようにやむことなく、血まみれの手が際限もなく伸ばされ、二人の足にまとわりつく。

(出来ない。出来ない)

デセルの心が絶叫する。
もう力は使い果たしてしまった。これ以上は何もしてやれない。助けてやれない。
来るな、来ないでくれ、出来ない、出来ない、出来ないんだ俺は・・・・・・

爆発する白い光、記憶を置き換えようとしてきた空白。なかったことにしようとして。


トールは親友の肩を支えながら、現れた影を慎重により分けて今対処できるものだけを浮き上がらせた。
少なくともこちらなら、まだなんとかなる。ヒーラーなら誰もが直面する問題、自分と相手とのバランス、そしてエネルギーの源について。

錬金術師は、あえて意識を目前の影だけに合わせた。大元をちらちらと気にして、エネルギー的にひっぱるようなことになってはいけない。今はできることに集中するべきだった。

亡者たちの声は、耳を覆わんばかりに強くなってきていた。
デセルは歯をくいしばって目を見開いたままだ。
光の爆発が出きったと判断して、トールは自分のエネルギーをゆっくりとデセルに同期させた。

「大丈夫、自分の力を使うんじゃない・・・・・・エネルギーは無限にある」

デセルのエネルギーをつかまえて、上端を「源」に伸ばす。光も闇も区別ない、大らかな力が二人に流れ出した。

「そして私達が癒すのでもない。癒されることを選択するのは、つねに相手なんだよ。
相手がそれを望まなければ、いかに無限のエネルギーを通せても、状況が好転しないことはままある」

源から流れる力は揺るぎがない。
ヒーラーは上下を繋ぐパイプであり、それ以上でもそれ以下でもない。

「人は人を救えないと、私は思う。人は、つねに自分から『救われる』んだ」

ベニトアイトとペリドットの光がぱちんと合った。
ヒーラーであれば誰しも、状況を改善できなかった無力感をいくつかは心に抱いているものだ。
けれどもたぶん、どんなに力があろうとも、「救える」と思うこと自体が間違いなのだ、とトールは思う。

どうなるかは相手が選ぶ。
杖としていっとき支えることはできても、相手の人生を代わりに歩くことはできないのだ。

相手のために自分を捨ててはならない。
自分自身のためにも、そして他に癒しの手を待っている人がいるかもしれないから。

ペリドットの光が落ち着いてくる。
トールはうなずき、視線を泣き叫ぶ亡者たちにあてた。

「彼らは望んでる。だから私達は・・・・・・君は、必要なエネルギーをすべて、源から降ろして渡すことができる。ほら」

二人の身体を貫いていた光のフィールドがぐんと拡がり、亡者たちを飲み込んでゆく。
それは突き刺すような強さではなく、暖かく包み込むような大きな光。
先ほどとは違う明るさを増してゆく光の塊の中で、血まみれの手が次々に光の粒子になって消えてゆくのがわかる。

(さあ、お帰り。君たちの行くべき場所に)

トールのささやきが聞こえた。


やがて荒地の光すべてが消えたとき、デセルは足の力が抜けてがくがくと震えている自分を発見した。
肩をささえてくれる銀髪の友人を見やる。ひどい脱力感があった。

「しかたがない、あれだけ身体を酷使していたからね。熱が出るだろうけど、寝ていれば治るよ」

トールは彼を部屋に連れていき、そのままベッドに寝かせた。
ありがとう、と笑うデセルの優しさに、ようやく微笑で応える。

いまやったのは応急処置にすぎず、友人の抱える辛さは、根本的になにも解決してはいない。
それをわかっていてなお、デセルは自分に笑いかけてくれる。

彼を打ちのめした壮絶な体験――わが腕の中で愛する人がロストするという――その女性の分身であり、さらにはからずとはいえ、今回のフラッシュバックを引き起こしてしまった張本人である本体の分身でもある自分に。
ありがたさと申し訳なさで胸がつまる。なんという、強くやさしい想いであることだろう。

親友が眠るまで、トールはベッドの脇につきそっていた。

ヒーリングなぞできずとも、彼の価値にはいささかも変わりがない。
その魂のすべてに、その存在そのものに、どれだけ自分たちが助けられていることか。
いつでも支えてくれたその温かさに、甘えすぎていたのかもしれなかった。

幸せで笑っていてほしいと思う。それだけには嘘がない。

そしてせめては、今彼が安らかに眠れるようにと、心からトールは祈った。




















*************

この【銀の月のものがたり】シリーズは、現在カテゴリを images から  銀の月のものがたり  へと移行中です。
移行期間中はご迷惑をおかけいたしますが、どうぞ両方をごらん下さいませm(_ _)m

→→ 登場人物紹介(随時更新)


わ。もう前話アップしてから1週間以上たってたのですねえ^^;
いろいろあったのでぜんぜん気づいてなかった・・・
お待たせしましたっ。



おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。
どれも大切に嬉しく拝見しております♪
続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪


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最終更新日  2009年06月14日 16時01分33秒
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