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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年08月02日
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少女の本体がそう言ってきたのは、夏至祭りから六日後だった。エル・フィンに強制休暇をとらせた直後のことだ。
なぜ?と聞き返した本体に、彼女は今生で羽が大の苦手だというトラウマを説明した。
ルシオラが死んだときの、羽が片方折れたときの映像が元だと思っていたが、当時自分は痛みを快感に変換されていたはずだし、そもそもすでに死んでいるのだからトラウマになるのはおかしい、と。そして最後にこう結んだ。

「ルシオラとしての記憶では、羽はずっと二枚だった。もし二枚に落とした時点があったとしたら、きっと手術をうけるずっと前、まだ子供の頃だろう。なんとなく、そう思った」

それを読んだ瞬間、本体の脳裏にかつての記憶がひらめいた。緑の少女が入院している間、庭の白い花を眺めながらトールが思い返していたものだ。
自らの羽を背から折り取る生々しい感触とともに、ざあっと情景が甦ってゆく。

それを「羽ばたいて 2」というタイトルで物語として下書きした後、「落とした羽はどうしましたか」と聞いてきたのはデセルだった。
大きな四枚の翼。家に置いておけるようなものではない。どうしたのだったか、最初本体は思い出せなかった。
うすぼんやりと景色が見えてきたのは、デセルが自分の記憶を教えてくれてからだ。



――遠い、遠い場所。それでいてすぐ近くに入り口のある場所。

腕に布包みを抱えて、彼は壮麗な神殿の中を歩いていた。
高い天井、何本もの太い円柱。
神殿内は透き通った金色の光に彩られ、そこにまだ力が満ちていることを示していた。

大理石のような床に靴音を鳴らして、彼はまっすぐ奥へと進んでゆく。
何度も来たことがあるという足取りだった。

(――神よ)

最奥の祭壇の前に立って、彼は心に呼びかけた。
祭壇をこえた壁の上部のあたりの空間がゆがみ、大きな目のようなものが紫色の雲をまとってゆらゆらと現れる。

(これは珍しい。かつて翼の無き者、そしてこれより名を無くす者が)

(……相変わらず手厳しくておられる)

銀髪の男は苦笑した。

(そうとも。私は時。誰も護らず、誰も攻撃することはない。来たるもの過ぎゆくものを内包し、ただ見つめる存在ゆえに)

まばたきをしない大きな目が、まっすぐに彼を見つめる。

(その翼、二度とお前の手に戻ることはないぞ)

時の神は言った。布包みの中身をなぜ知っているか、などは愚問だ。「時」が見ていないものなど、この世には存在しないのだから。
そして神は理由を述べない。その後も伝えない。
ただ、起こるであろう事実だけを投げてくる。まぶたの裏を一瞬通り過ぎる予知のように。

言われて彼は、腕の中の大きな包みを見直した。

四枚の大きな純白の翼。背に残る二枚とあわせて、自分が六枚羽のセラフィムの一族であったという証。

――今手放せば、それきりか。

そう思えば、わずかに惜しいような気もしないでもない。けれども過去の証よりも大切な存在が、今の彼にはあった。
まして、もうすでに折り取ってしまったもの。
時を巻き戻すことはできない。

(……お前は、お前にとって大切なものを、これからいくつも手放さなければならないだろう。度重なる選択が、お前を永く責め苛む)

空気をふるわせるのではないかという重い振動をともなって神は告げた。
銀髪の男は、長く深い息を吐いた。

(知っています……そういう時代ですから。そう、闇が堕ちることを引き受けた、あの時から)

彼の脳裏を、けして忘れることのない神殿の最期が過ぎ去ってゆく。あの月が欠けてゆく間に、すでにとても大事なものをいくつも、彼は自らの手で失っていた。

護りたかったものも。
護ってくれていたものも。
そして護るべきものも。

すべて失った慟哭の後に何が残る? 
そして今、大切なものを護るために、差し出せるものがあるのだとしたら?

……私はすべてを差し出すだろう。
たとえそれが、どんなものであったとしても。


(……そう言うだろうと思っていた。銀の髪の巫子よ)

神の視線がやわらいだ。

(懐かしい呼び方をなさる)

(私にとっては変わらぬ。時は私の上には流れぬのだから。我が力を分け与えし始めの子よ……
その翼を置いてゆけ。どうなるかはお前自身の目で見るがいい)

まばたきをするように、濃い紫の雲が上下から一瞬神の目を隠す。ふたたび開かれたとき、その光が男の青灰色の瞳を灼いた。

はるかな未来。朽ち果て、廃墟となった神殿の遺構。
翼は吹き溜まりのような場所にあり、なにかの山の下に埋もれていた。
暗い……とても暗い。
輝く金色の光は、すでにしてそこには届いていない。
受け取るものがいなければ、神は現れる場を持たぬがゆえに。

誰かが山を掘り返すようにして、なにか作業をしている。
顔は見えないが、泣いているのがわかった。

次の場面では、その誰かが翼を壊れ物のように胸に抱いていた。
どこかへ持っていくようだ……けれども、それを嫌だとは思わなかった。

自分では持っていられないものだ。
過去にも未来にも置き場所のないもの。

あれほど大切そうにしてくれるなら、その人のところにあったほうがいいだろう。
誰かは知らないけれども、折れそうにひどく泣いていた、その心の役に立つのなら。


その次の瞬間、意識はぐっと現代に引き戻された。
あれはデセルだったのだ。

彼のところにあるならば、もちろん否やはない。
必要としてくれたなら、もういらないと思うまで持っていてくれればいいと思う。

もう返さないよ、と冗談めかしてデセルは笑った。












<羽はね恐怖症 1>(じぇいど♪さん)
http://plaza.rakuten.co.jp/californiajade/diary/200906280000/


<from among  1>(デセルさん)
http://blog.goo.ne.jp/hadaly2501/e/3884ca319af47aefd381274d868bd506




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>>【銀の月のものがたり】  目次1  ・  目次 2

>> 登場人物紹介(随時更新)



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最終更新日  2009年08月02日 09時15分44秒
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