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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2010年03月30日
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パキン、と視界が割れ崩れる。



いつのまに意識がとんでいたのだろうか。
アルディアスは頭を振って、気持ちを読んでいた厚い本に戻そうとした。しかし難解な古代語で書かれた魔法専門書は、いつものようには親しく扉を開けてくれない。

よそよそしい文字の羅列が、呪文のようにまたあの光景を呼び戻す。
昼間、リフィアの訓練につきあったからだろうか。
もう何年も見なくなっていたのに。

光景といっても、秩序だったものではない。
あっけないほど乾いた音とともに、視界にひびが入ってすべてが崩れ出す。

ビルの爆破実験のように崩れ落ちてゆく世界。

「アルディ、どうしたの?」

いつのまにか背後に立っていたリフィアが、心配そうに彼の顔を覗きこんだ。
自分の編み物を終え、いつものように読書中の彼の銀髪を三つ編みでもしていたずらしよう、と思っていたところらしい。

なんでもないよ、と微笑もうとして、アルディアスは失敗した。
ただ目を和らげてかすかに首を横に振る。意識がとんだのはほんの一瞬のことだったと思うのに、身体中に汗をかいていた。

「まあ、震えてるじゃないの」

驚いて、リフィアは震える身体をそっと抱きしめた。しばらく落ち着くまでそうしていたが、夏の薄地のシャツがじっとりと汗で濡れて、このままだと冷えてしまいそうだ。

初夏の気候になってきてはいたものの、雨が続く日は肌寒さが残る。

「着替えたほうがいいわ、アル。温かいお茶を淹れるから」

震えがおさまってきたのを確認し、優しく銀髪を撫でてから着替えを取りに行って、彼に渡す。彼が着替えている間に、リフィアは台所へ向かった。



戻ってくると、彼女はアルディアスの手をひいて椅子から立ち上がらせた。そのままリビングへといざなってゆく。
淡いミント色のソファの前、厚手のラグを敷いた床に、ほかほかと湯気のたったマグカップが二つ盆に載せて置かれていた。

「さあ座って。ソファじゃなくて床ね。こういうときは気分をかえなきゃ」

ソファによりかかるようにアルディアスを座らせ、自分もその横に来ると暖かなマグカップを押しつけた。ほんのすこし甘くした紅茶が、ほっと心に染みてゆく。

「ねえ、何を見たの? 壊れていたあれは……今日わたしが半壊させちゃったような訓練装置?」


アルディアスは眉根を寄せた。心配げな目をむけながら、リフィアは両手でカップを持って紅茶をすする。

「相手があなたで、しかも近くにいたから。それで……? ……言いたくなかったら、べつにいいけれど」

そういうわけじゃないけど、と銀髪の男は首を横に振った。言いたくないわけではなかったが、何から言えばいいのか見当がつかない。
しばらく二人で黙って紅茶を飲んでいると、窓のむこうで雨の音がした。リフィアが口をひらく。

「訓練装置にしては、規模が大きかったみたい。もうもうと煙みたいなものがたって……それから、視点が低かったような」

どうやらあの一瞬に自分がつかまえた映像を吟味していたらしい。

「……今の訓練所は、二十数年前に建て直されたものだって知っているかい?」
「ええ。耐用年数にはまだまだだったはずだけど、あのあたりに局地的な地震があって壊れちゃったとか。地下エネルギーの誘導ミスだったって……え、まさか」
「その、まさかだよ。君の訓練装置半壊くらい、かわいいものだ」

アルディアスは寂しげに微笑んだ。化け物、と言われた記憶が耳に甦る。
戦場でも何度も言われる、もう耳慣れてしまった言葉。しかし最初に言われたのは、いったいいつのことだったろう。

今日の訓練では、初めてリフィアが一人で装置に入り、アルディアスとの繋がりを意識してエネルギーを通す練習をしてみた。
最初はまったくもって一般人の反応を示していた彼女に負担をかけぬよう、初心者むけの装置にしたのだが、勘がいいのか自習が効いたのか、予想よりも強いエネルギーが一気に流れて、ポッドを半壊させてしまったのだった。

その事故の後、割れたカバーガラスを見て表情を凍らせた彼女を思い出し、ずきりと胸が痛む。やはりそれが普通の反応なのだ。

黙りこんでしまった恋人の横顔に、リフィアは困った視線を投げた。なにがきっかけになってしまったのか、今日の記憶を探ってみる。

中庸の力を通す訓練で、なぜポッド半壊のような暴力的な出来事が起こってしまったのか。自分からするとそういうのはちょっと怖い……。
そんな話を、今日神殿の池のほとりでしていたのを思い出す。

そのとき、リフィアはあくまでも自分の話をしていると思っていた。なぜあんな状態になったのか、それを引き起こした自分ってちょっと怖い、と。

圧倒的な力に魅せられかけた自分の心。
その力が方向を定めぬままにほとばしるとしても、制御する精神の座を明け渡してしまいそうだった。
そこまで自覚してもなお惹かれてしまいそうで、そんな自分の心に対する禍々しいものを見た気がしたのだ。

割れたカバーガラスの鋭いエッジを見たとき、それでどこかを切った気がした。
実際には怪我はなかったのだが、恐ろしいと思った。

……彼も同じことを、いやもっと大規模な事故を起こしていたのだとしたら。
あのとき見えない血が流れたのは、どこ?

あんなに激しく呼び起こしてしまうほどに、彼の心を削ぐように切ってしまったのは。
ようやく瘡蓋になっていた場所に新しい傷をつけてしまったのは……私?

「アルディ。ごめんなさい……わたし」

ぞっとしてリフィアは言った。どう慰めたらいいのかもわからなかったが、とにかく謝らずにはいられなかった。

穏やかな顔で彼女の言葉を聞いていたアルディアスは、内心どんな気持ちでいたのだろう。
彼がどんな人かは、自分が誰よりもよく知っているのに。
おそらくは長年の修練のもとに、力の魅力に抗して精神の座を制御しつづけているのだろうに。

「いや、リンのせいじゃない。……リンのせいじゃないんだよ」

古傷を抱いていたのは私自身なのだから。薄い苦笑とともに彼が言う。
そう、彼女のせいじゃない。それだけは確かだ。

ポッドのガラスが割れる直前、びりっと振動した様子があの時と同じだった。
世界が崩れてしまう気がして、半分無意識に……とっさに全員にシールドを張った。
セシルは気づいていたかもしれない。

結果ポッドは割れたものの、誰もかすり傷ひとつ負わずに済んだ。
だからよかったと思える、はずなのに。

(違うの。 あなたが怖いのではないの。 …違うのよ)
(あなたは望まないわ。 それは知ってる)
(あなたは悪くない)

うまく言葉にならない気持ちを、リフィアは彼の肩に頭をもたせかけて直接伝えた。

アルディアスの心に隠れていた深い傷跡が血を流すのが、彼女には見えるようだった。
どくどくと流れるその新しい血を、どうしたら止めることができるだろう。

泣きそうになりながら探す言葉は、どれも月並みに思えて。

直接手を伸ばしてその傷を抱きしめられたらいいのにと、リフィアは切に願った。


















【銀の月のものがたり】 道案内

【第二部 陽の雫】 目次


前回のセルフヒプノ、楽しんでくださる方がけっこういらしたようで嬉しいです~♪
REFと併用してもいいですねw

さてこのお話は、実はアルディアスのことを思い出し初めてから
2話めくらい書いたもので、去年の8月の日付になってました。
最初に書いたのは【指令】ですね。エル・フィンさんと初めて会うお話。

アルディアスのトラウマ話なわけですが、半年以上かけて
ちょっとずつ書き直し書き直し、ようやくしっくりする形に書けた…かな?という気がしてきたので出してみます。


なかなかレスできずに申し訳ありませんが、ご感想いただけますと小躍りして喜びます♪



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最終更新日  2010年03月30日 15時57分06秒
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