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SDの猫の夕涼み
小説ひめ(仮題)1章1ノ3 平常(前半)
「ん…」
朝の冷えた空気を体に感じて意識が覚醒しだす。
わずかに眼を開けるとカーテンから差し込んできた朝の日の光が飛び込んでくる。
「朝か……」
まだ眠気の残る頭をふりながら体を持ち上げると、眠気がゆっくりとひいていくのを感じる。
そのまま少しボンヤリしてると自然と頭もはっきりしていく、時刻は6時18分いつも起きる時間だ。
タイマーは6時半にセットしているがいつも鳴るより早く起きれる、例外があるとすれば…昨日のような場
合である。
布団から飛び出て服を着替えながら昨日を思い出す、確かバイトから帰って食事>風呂>寝るといった具合
だったな。
…簡潔に言い表すとどこかとても親父臭さが漂った気がするがあえて気にしないことにしよう。
着替えと用意を終わらせて居間へ行く、時刻は6時半頃で昨日より20分は早い。
この時間に起きてこなければアゲハが起こしに来てくれるわけだが、それはあまりにも兄として情けないた
めしっかり起きるようにしよう。
居間では昨日と同じようにアゲハが朝食を作っている、昼食や夕食もアゲハが作ってくれていることを思う
と苦労をかけているなと思う気持ちと同時にいつもありがたいと思う気持ちが沸いてくる。
「南無阿弥陀仏」
結果、エプロンをつけた妹の背中に両方の気持ちを込めて手を合わせ拝む。
「お兄ちゃん……何やってるの?」
と、静かに言ったつもりだったのだが丸聞こえだったようだ……、アゲハが変なものを見るような眼でこち
らを見つめていた。
「いや日頃の感謝を行動で表そうと思ってな」
まだ手をすり合わせながら拝みポーズをとる俺。
「あはは、そんな拝まれても困るんだけどなぁ……。そ、そんなことよりお兄ちゃん、さっき静音さんから電話あったよ」
「静音から?」
困ってるのか恥ずかしいのか、アゲハが多少無理やりに話を切ってくる。
しかし静音から電話とは珍しい、ほぼ毎日一緒に登校しているのだからわざわざ電話するほどのことはそう
ない。
「うん、今日は一緒に登校出来そうにないから先に行ってって」
「え、アイツ何かあったのか?」
「ううん、総一郎おじさんが帰ってきたから、って言ってたよ」
「おじさん帰ってきてるのか」
なるほど、それなら納得だ。
「やっ、おはよう秋悟♪」
と、声が聞こえたかと思うと背中にわずかな重みが圧し掛かってきた、首には何か細いモノが回され、から
みついてくる。
「!?」
全く油断していたので何が起こったのか理解できない。だが学生服の布地越しに背中に柔らかな膨らみが押
し付けられるのをはっきりと感じる。
「え?えぇ!?」
目の前でアゲハがうろたえている、なんだか見た感じ俺自身よりうろたえているところを見ると少し落ち着
きを取り戻してくる。
「おはよう秋悟♪」
首の右側に息が吹きかかり、同時に声が聞こえてくる。
「ミナミ!?」
そこにはブロンドの美女の顔が……というかミナミの顔があった、その顔は満面の笑みで実に楽しそうだ。
一度落ち着きかけた心がまた昂ぶってくるのを感じる、それはそうだ、普段静音などの女性と接していると
はいえ俺も男。
ミナミほどの美女に抱きつかれて平常通りでいられるほど出来た人間じゃない、しかも未だに背中には柔ら
かな膨らみが押し付けられている。
これがミナミの……っていかんいかん!そんなことを考えるのは失礼だ!
冷静に冷静に、気持ちを落ち着けろ……、なんでもいいから気分を落ち着かせるもの、九字でも唱えるん
だ!南無阿弥陀仏……だったかな?あれ?なんか違う……、あれ?あれ?
「ミ……ミナミさん!大変お兄ちゃんが離れてだから!!……あれ?あれ?」
兄妹そろってメダパニ状態だった。
結局二人そろって混乱する以外何も出来ないまま、この騒ぎは台所から魚の焦げた匂いが漂ってくるまで続
くのであった……。
「うい~っす」
朝の騒動のせいか少し疲れた感じで教室に入る。
あの後結局こげてしまった食事の片付けやら何やらで結局昨日より遅く家を出る結果となってしまった。
ミナミも昨日気づいてもらえなかったから今日ははっきり気づいてもらえるようにああした、とのことで結
局責任は俺にあるらしく、ミナミ自身にも悪気はないので怒れない。
しかしやはりああして抱きつくのは勘弁してもらいたい……、外国人のミナミには普通?のことかもしれな
いが免疫のないこちらにとったら脅威の一撃だ。
事実今日の朝食と朝の兄妹の団欒に受けたダメージは計りしれない。
いつものように自分の席へ向かう、今日は友が寝ていたりということはなく俺の席には誰も座っていなかっ
た。
とはいえそれが自然なのだが。
席についてカバンを横にかける、、と急に後ろから「ぐっ」と変な音が聞こえてきた。
「?」
後ろを振り返る、しかしそこには何もない。
俺の席はクラスの一番後ろの一番窓際、後ろに席はなく誰もいない。
あるものといえば掃除用具入れくらいなのだが……
ガタガタ
と、また音が聞こえてきた、しかも掃除用具入れの中から。
「……」
ガタガタ
何かがもがいてるような音……、例えるならヒヨコが卵から生まれようともがいてるような音……。
だがしかし俺の椅子が邪魔して出られずに足掻いてる。
「……」
黙ってあたりを見渡してみる。
既にかなりの生徒が登校していて、話をしている学生でかなりにぎわっている。
その中にヤツの姿は……ない。
「……」
もう一度後ろを見返す、掃除用具入れは相変わらずもがいており、よく見てみると追い出されたらしきほう
きやモップが横に置かれている。
「…………」
TVで見るマジックのようにこの箱を剣で串刺しにしてコイツを今ここで抹殺するべきか?という思いがよ
ぎるが、幸か不幸か刺すべき剣があたりに無かった、運がいいヤツだ。
「……なぁ」
そんな思案をしていると中から声がかかる、思った通りのヤツの声。
「なんだ」
「……ごめん、出して」
弱ッ、というかコイツはこうなることを考えてなかったんだろうか?
椅子を前にひいてやると掃除用具入れの中から少しよごれた友が出てきた。
「何やってんのお前……」
「いや、お前を驚かせてやろうと思って学校着いてからずっと待ってたんだ」
アホだ……。
「ずっとって、お前いつ学校に来たんだよ?」
「確か7時半くらい」
うわっ、世紀のアホ爆誕。
「お前1時間近くも入ってたのかよ」
「お、そんなたってる?けどお前の驚く顔が見れると思うとそんな苦じゃなかったさ!」
いやそんな笑顔で言われもな、成功してないし、そもそも成功しても多分呆れてたと思うぞ……。
しかしそんなことは意に介していないのか、世紀のアホは無駄に爽やかな笑顔をし続けていた。
「そんなことよりも、静音はまだ来てないようだけどお前一緒じゃないのか?」
「あぁ、静音は遅れるってさ」
俺は朝の電話の話を伝えてやる、もちろんその後のドタバタは省略する。
「お、総一郎さん帰ってきてるのか。確か今回は3週間ぶりくらいだっけ?」
「確かそのくらいだな、あの人出張が多いから静音も色々大変だよ」
「何の仕事してるんだっけ?秋悟知ってる?」
「いや知らない、静音も聞いたことないらしいしなぁ、色々謎な人だよあの人は」
少しの間人の親の話で盛り上がる。
はたから見ると変なヤツらだが、静音の親とは俺も友も幼い頃からお世話になってる第二の親のような存在
であり、友人のような付き合いをしてきたため話題に上ることもけっこうある。
「そういや平もいないな」
話してる途中で平もいないことに気づく。
「ん?そういえばそうだな。でもまぁいつものやつじゃないか?」
「そっか……、まぁそうだよな……」
平は授業にはほとんど出ないが学校自体には来る、しかしそれは8割くらいの確率で後の2割くらいは学校
に来ないこともある。
そんなもんだから友もそれほど気にはしていないようだ、俺も普段ならそれほど気にはしないだろう。
が……しかし。
なんだろう……奇妙な感覚がある、普段とは少し違う感覚。
まるで心臓の横にわずかなシコリがあるような違和感。
そしてその違和感とともに不安を喚起させるような記憶が呼び起こされてくる。
昨日の朝の会話……
夜自分の横を通ったパトカー……
普通ならこんなことは関係性があるはずはない、いや全く関係がないということはない。
この街に住んでる以上あの事件と全く関係無しでいられる人などいないのだ、平と事件の関係性などその程
度のものでしかない。
こんな想像や胸騒ぎは俺一人の想像でしかないはず、そうそれが普通だ。
嫌な感覚を頭から振り払う、どうも神経質になっているのか昨日から考えすぎな感がある、あまりいい傾向
ではない。
「全員席につけ」
二人が話している間に担任がやってくる、バラバラに固まって話をしていたクラスメイトたちがいそいそと
席に戻っていく。
全員席についたところで教室は先ほどまでの喧騒がウソのような静けさに包まれる。
「?」
普段ならここで出席をとったりするはずだが……一向に始まる様子がない、心なしか担任も緊張してるかの
ような面持ちだ。
「今日は重要な連絡がある、最近この街で起きてる事件については皆知ってるだろう」
ドクン
わずかに心臓が高鳴る。
ついさきほどまでの考えがまたしても沸き起こってくる、今日は本当にどうかしている、担任の口から事件
の話を聞いたからといってだからなんだと言うんだ?
そんなことはありえないことじゃない、一昨日もあった事件だ、しかもこの殺人事件なんてそうそうない静
かな街で起こった事件。
担任が生徒を思って注意を喚起したって不思議ではない、だから落ち着け、いちいち自分のくだらない想像
に流されるんじゃない。
「その事件が昨夜……」
担任が話を続けていたその時、勢いよく教室の扉が開けられ、静音が飛び込んでくる。
「すいません遅れました!」
「支倉か、遅刻だがちょうどいいとこにきたな。とにかく席につけ」
静音が席についたのを見るとまた話を続けだす。
「今まで起こってた事件については皆も知っているだろうが。昨夜も事件があった、という連絡を受けた」
淡々とした担任の声、聞きなれてるはずのその抑揚の少ない声がどうしても不安を運んで耳に届く。
「そして昨夜の事件にこの学校の生徒がまきこまれたとのことだ、その生徒は……」
どうしようもない不安、根拠のない不安、それらが合わさって押し寄せてくる。
違う違う違う、想像に振り回されるな、落ち着け結城秋悟!
考えすぎるのはいつもの悪いクセだ!
昨日何度も事件の不吉な話を聞き、バイト帰りで夜の静けさにあてられただけ!
それだけ、ただそれだけだ!
平とは昨日の学校以来会ってはいないがそれもただそれだけのこと、別に今回が初めてのことでもなければ
珍しいことでもない!
頭にこびりつくかのように離れない不安感を無理やりに押さえ込む。
「うちのクラスの夜繋 平だ」
担任の声が静かな教室に響き、それがクラスにわずかなざわめきを呼ぶ。
だが、俺にはそんなこと聞こえていなかった。
頭が真っ白になる……、ついさっきまで否定し続けていた根拠のない想像。
それが実体のある事実となって俺に重くのしかかってくる。
だがそれがどういうことなのか俺はしばらく理解できずにいた。
平が……どうしたって?
事件に……誰があったって?
平と一昨日一緒にケンカしたばかり、あの時平と話した確かに元気だった。
平と昨日も会った、朝話した、確かに怪我もなく元気だった。
いつも通りだった
いつも通りのはずだ
今日もいつも通りになるはずだ
アイツは今日サボっているだけで明日も普通に登校してくる…はず…だった。
それが
それが
一体なんだって?平が事件に合った?
それって一体なんだ?どういうことだ?もう平はこの世にいないってことか?
昨日アゲハは言ってた。
――事件現場に被害者がいなくて一応失踪事件ってことになってるんだけど――
被害者がいない……、つまり死体がない……
死体がない……
死体がない……
死体がない……?
死体がないのにどうやって平だってわかったんだ!?
「――というわけだ。今日は授業は無しで集会の後全員帰宅となる。部活動も当面の間は禁止だ、全員まっす
ぐに帰宅するように。では集会までの間しばらく教室で待機してるように」
そう言って担任が教室から出て行く。
しまった、肝心の話を聞き逃した!
すぐに友の元へ駆け寄る。
「平どうなったって!?」
「病院に運ばれたってさ」
焦っていたために至極簡潔な聞き方になるがそこはツーカーの中、友も俺が聞きたい情報だけを的確に返し
てきてくれる。
それを聞き終わるか否かというとこで俺はもう走り出す、集会をサボることになるがそんなことは重要では
ない、一気に教室を飛び出す。
「秋悟!友!アンタたち集会どうすんの!?」
「静音代返よろしくッ!」
「出来るかァ!」
走って行く俺達の背中に静音から声がかかったが後ろについてきていた友が返事をし、そのまま二人で走り
去る。
「付き合うよ」
「……悪い」
「いいさ」
そうして友と一緒に学校から抜け出す、正門は見つかる可能性が高くつかえないので裏門から抜け出す、朝
方通常なら授業のあってる時間帯、そんな時間帯に二人して学生服で街を走り抜ける。
喋ることもなくスピードを落とすこともなく目指す目的地はただ一つ平の下、正確な場所は聞いてないがこ
こいらで入院と聞けば該当する場所は一箇所しかなく、それは俺も友もわかっていた。
病床数607床、設立50年、敷地面積5400坪、診療科目は内科・小児科・小児外科・外科・心臓血管
外科、整形外科、形成外科、脳神経外科、皮膚科、泌尿器科、産科・婦人科、眼科、耳鼻咽喉科などなど多岐
に渡る市内で最大の病院。
そこが平の運ばれた場所だった。
学校からダッシュすること約30分、さすがに到着した頃には俺も友も息切れしていて足取りも多少フラつ
いていた。
だがそれでもかまわずに正面から入り、運良く空いていた受付にかけこむ。
「平のベッドはどこですか!?」
いきなり息切れした学生があまりに意味を理解するにはあまりに簡潔な一文を言ってきたのだ、流石に受付
の御姉さんもきょとんとした顔を浮かべて対応に困ってる様子。
「昨夜こちらに運ばれてきたはずの夜繋 平のベッドはどちらでしょう?」
平のことで頭がいっぱいだった俺に横から友が助け舟を出してくれる、受付の御姉さんも友の説明で分かっ
てくれたらしく、少々お待ち下さいといってパソコンに何か打ち込み始める。
「落ち着けって……」
友が横から俺をたしなめてくる、自分ではそこまで冷静さを失ってるつもりはなかったのだが友から見れば
そうでもないのだろう。
だが俺はわずかに頷き返しはするものの本当に冷静になる余裕などなかった。
パソコンで調べてくれているのであろうがその動きがとても緩慢なものに思える、1秒が1分にも感じられ
受付のお姉さんの作業がとてもまどろっこしい。
「夜繋 平さんですね、0408号病室です。しかし……」
「ありがとうございます!」
最後まで聞かずに走り出す、後ろでは受付のお姉さんが何かしら言ってる声がしてるが俺には聞こえていな
かった。
受付からもっとも近い階段へ、エレベーターを待つという考えなど最初からない、二段飛ばしで一気に駆け
上がる。
4階につくと目の前に案内板、その前を一気に駆け抜け、通り過ぎる時一瞬で焦点を合わせ0408号室までの
経路を全て読み取る。
0408号室へ向けて人のほとんどいない道をさらに走る、角を一度曲がり見えた2番目の病室、個室らしく名
札は平のモノしかかかっていない。
個室前で急制動、一気に止まりその勢いで扉に手をかけ開――、
「待ちなさい!」
急に横からかかった声で冷や水を浴びせられたかのように動きが止まってしまう、横を見てみると看護士ら
しき女性がすぐ近くに立っていた。
「走り回るなら別の場所でやりなさい、ここは病院であって運動場ではありません。それに貴方、その扉の文
字が見えないんですか?」
言われて初めて扉を見直してみる、そこには一枚の札がかかっており「面会謝絶」とだけ書かれていた。
「すいません……入院したって聞いて焦ってたもので……。平は無事なんでしょうか?」
面会謝絶がどういう時に行われるのかは知らないが、ハンパな自分の知識の中では決していい意味で使われ
ているという画は想像できない、そしてその文字がここにあるということはたまらなく不安を喚起される。
しかし看護士らしき女性はそれには答えてくれず、厳しい顔のまま―、
「まず名前を名乗りなさい」
とだけ言った。
「あ、結城 秋悟って言います。平……入院してる夜繋 平の友人です」
慌てているとはいえあまりに対応がまずかった、これでは怪しい奴以外の何者でもないだろう、自分のバカ
さを呪いつつもなかなか落ち着くことが出来なかった。
「貴方も?」
「?」
看護士さんが俺から僅かに眼をそらしつつたずねてくる、俺もそれに合わせて視線を動かしてみると―、い
つのまにか横に友が立っていた。
「はい、そうです。北里 友って言います、結城君と同じで夜繋 平君の友人です」
ここに至っても友は冷静だった、まっすぐに看護士さんを見つめて立っていた。
その顔色にも慌てたような様子はない。
「結城さんと北里さん……ですか」
厳しかった看護士さんの顔がわずかに緩む、しかしそれは疑念の色といった感じだ、しかもなぜかその疑念
は友に向けられている……そう俺は感じていた。
「面会に来たのですね?」
「はい」
友が答える、普段の友からは想像もつかないほどの冷静で淡々とした答え方だ。
「……わかりました。特別にですが面会を許可しましょう」
そう言って看護士さんは面会謝絶の札を取って病室への扉を開けてくれる、そしてわずかに笑顔で―、
「面会謝絶の札を取りに来たとこですから、面会自体は問題ありません」
と言ってくれた。
友と二人で看護士さんの後に続いて病室に入る。
室内はかなり簡素な作りがされており、小さなビジネスホテルといった感じだ。
そこに平がいた。
白い服で病室のベッドに静かに横たわっていた。
顔はケンカを何度も何度も繰り返してきていたというのに全く傷がなかった以前と変わらず、こうしてみて
る限りでは何の悪いところもなく、本当にただ寝ているかのようだ。
「心配してきたのでしょうけど彼は大丈夫よ。外傷はほとんどないし、精密検査のための入院なくらいだから。
まだその結果は出てないけど今のところ命に別状はないわよ。ただ……、いまだ昏睡状態から覚めずに運ばれてから一度も意識を取り戻してないの」
少し呆然としていた俺に後ろから看護士さんが説明をしてくれる。
「そ……うですか……」
看護士さんの説明で気が抜けた俺は椅子にへたりこむように座ってしまう、昏睡状態から眼が覚めてないと
いう説明は決していいことではない。
だけど、最悪な想像ばかりしていた俺からしたら生きていただけで朗報だった、それがただ、嬉しかった。
俺はこういう事態に平がなるなんてほとんど考えたことがなかった。
平はケンカ慣れしている、決していいことではないが事実としてそうなのだ。
そしてただ慣れているというだけでない、何にも才能があるように平にはその才能があった、危険だがそれ
を持つ者には何よりも強力な武器となる才能が。
そしてそれらを使う平自身も慢心することはなく、決して負ける戦い方はしないし危険を察知し避ける力も
ズバ抜けていた。
だからこそ、
目の前で静かに横たわっている平は、俺が知っている平の姿からするとあまりにかけ離れていて非現実的だ
った。
体から緊張が抜け、言葉も無く椅子に座り込む俺と友、そんな様子をしばらく看護士さんは何も言わずに見
ていた。
「君達は本当に心配してるのね……」
看護士さんが静かに言ってくる。
「大事な仲間ですから」
友が答える。
そう、大事な仲間だ、平とは友や静音ほど幼い頃からの知り合いというわけではないが平も友や静音と同じ
ように俺の大切な友人だった、だからこそ……
「看護士さん……、平の家族は……来ましたか?」
看護士さんの眼を見て問う。
俺の質問の意図がわかったのか看護士さんは少し悲しげに眼を伏せた。
「そう……、貴方は本当にこの子と仲がいいのね。……患者のプライバシーに関係することだから言えないけ
ど、多分貴方が考えてる通りよ」
またしてもやり場の無い怒りがこみ上げてくる。
平に視線を移すとベッドで同じように寝ている、その表情に変化はない、しかし平が起きた時このことを知
ったらどう思うのだろう?
こんな時に、息子が死んでもおかしくないという事態にすら現れなかった平の父親、直接の面識はないが多
少のことは平から聞いていた。
友は何も言わないでいる、友は平の家庭事情までは知らない、だが俺が今どう思っているのかはある程度察
してくれているのだろう。
「すいません……、もう出ます。面会させて下さってありがとうございました」
やりきれなくなり、看護士さんに頭を下げて部屋を後にする。
「悪い……、ちょっと考えたいことあるから……」
病院を出る前に友にそう伝えておく、一人で考え事したくなるとだいたいこう言う、友もそれはわかってい
る。
「ん、一応言っておくけどあんま考え込みすぎるなよ?そういうとこお前のいいとこだけど悪いとこでもある
しな。俺は何があったのか少し調べてみるよ」
「あぁ、別に一人でどうこうしようなんて考えないから大丈夫だよ……」
「当たり前だっての」
少し軽い感じで接してくれる友の気遣いがありがたい、友は普段はバカなことをしてくれるがやはり友人と
しては最高のやつだと思う。
友と別れて一人歩き出す、何も考えていないし行き先など決めてはいなかった。
けれど俺が昔から考え事するといったらあそこしかない、頭で考えなくても体が覚えていたのだろう、俺の
脚は淀みなく歩き出す。
そうして俺は街の中心地から離れていった。
長い石段を登りきると見慣れた大きな鳥居がはっきりと眼前に現れる。
その奥は広い境内が広がっており、ここまで上る間左右が木々に囲まれているために一気に視界が開けてよ
り広く見える。
そこは浅影神社、街の唯一にして最大の神社、敷地も社殿もこの街の規模から考えるとハンパじゃなくデカ
くその歴史も古い、建てられて300年ほどはたっているはずだ。
俺と静音は家が近かったが友は家が遠かったために俺達と遊ぶ時はそれぞれの家のほぼ中間にあったこの場
所で遊ぶことが多かったので、俺からしたら馴染みの深い場所である。
中学以降は遊び場ではなくなったが、雰囲気が落ち着くからか考え事したい時などよくここに来た。
そしてこうして今ここに来ている。
変わってないな俺……。
境内にいくつかある石で出来たベンチの一つに腰掛ける、ここからは街が一望できるため、お気に入りの場
所になっている。
普段見たら美しく清清しいこの景色も、今の俺には濁って見えてしまう、頭の中で感情と記憶がごちゃごち
ゃして混沌としている……。
事件のこと……
平のこと……
危険な事件があってるとは昨日聞いていた、しかしそれは自分達の世界とは別の世界の出来事、そう感じて
いてそれほど気にもしていなかった。
それが……、今日になっていきなり自分達の世界に入り込んできた。
――。事件現場に被害者がいなくて一応失踪事件ってことになってるんだけど、血が大量に残ってたりして
どう見ても人が殺されたとしか思えないような状態になってるんだって――
……そうだ、確か事件では死体すら残さずに人が消えている。
だが平は死んでいない、生きている、だから最悪の事態ではない、それは分かっている。
わかっているが、だからといって納得できるものじゃない。
平が襲われたのだ、平がやられた、俺の友人がやられたのだ、思考が頭の中を回転して出て行かない。
怒りが消えてくれない、平を襲った犯人が!平がああなっても見舞いにすらこない平の父親が!
だが俺は事件の犯人はおろか平の親とすら面識はない、怒りをぶつけることも出来ずただ悶々とするしかな
い、それが限界。
理不尽な怒りだとわかっている、これは平の気持ちを無視した俺の勝手な感情だ、俺がいくら怒ったからと
いってそれを俺が犯人や父親にぶつけることを平が望むとは限らないし、俺にはその権利もない。
だけどやりきれない、なぜ自分が昨日平と一緒にいなかったのか!自分の無力さが情けない!
肝心なところで役に立たない……、自分にとってこれほど情けないことはない。
そう考えるとやはり犯人などを憎むことは筋違いだなとも思う……、俺が怒れる権利があるのは俺にだけだ、
俺の無力感に、俺の不甲斐なさに。
「くそッ!」
足元にあった石を蹴る、物に当たってもどうしようもないのに。
頭が体が熱くて熱くてたまらない、悔しい、ただ悔しい。
なんでなんでなんで
答えの無い自問を繰り返していく。
「なんでだよ……」
「んなこと主語がないのにわかるかァ!あとうざいんじゃボケェェェ!」
自問がつい口に出てしまっただけで誰に問いかけたわけでもない。
しかしその時後ろから凄まじくドスの聞いた声とともに頭から冷水がかけられる。
「!?」
あまりの不意打ちに反応も出来ず、水の冷たさに思わず固まってしまう。
やっとのことで首だけ後ろに回してみると、そこには青い髪の女性が巫女服姿の井出達で仁王立ちしていた、
その顔は仁王様もかくやといった怒りの形相を浮かべている。
「わ、わかばさん……」
「秋悟ぉぉぉおおお、境内でシケた面さらしてんじゃねぇ!客が寄り付かなくなんだろがッ!!」
「ごごごご、ごめんなさい!」
思わず謝ってしまう、不意打ちな上にこの形相、さっきまで堂々巡りしていた思考はもはや停止し、相手の
言葉にいいように反応するだけの人形になってしまう。
わかばさんは俺も昔からの知り合いで、この神社の巫女さんなのだが怒ったらとてつもなく怖いのだ、俺か
らしたらこの人に逆らうくらいならそのへんのヤクザにケンカ売った方がマシといったくらいである。
一応こちらの謝罪で多少は怒りが治まったのか、わかばさんの顔が仁王からただの厳しい顔つきにランクダ
ウンする。
「なぁ、秋悟。うちは客商売なんだよ、お前にあんな面であんなとこにいられたらこっちまで影響を受ける、
だからいちいち考え事あるからってあんなとこでシケた顔してふてくされるんじゃねぇ、わかったか?わかっ
たな?わかったと言え、よし分かったということにしておく。次やったら殺すぞ、あんだすたぁぁん?」
凄い勢いでまくしたててくる、その顔は真剣だ、がしかし…どこかあちこちおかしい気がするのだが…気の
せいだろうか?
そんなこちらの思案もわかばさんは全く意に解する様子はない、俺は何も答えられずただ座っていただけで
何一つ答えられていないのだがわかばさんからしたらもうこの会話は終わったものなのだろう。
「ほれ」
と言って、袖の中から缶珈琲を出し俺に投げてくる。
「飲め、少しは落ち着くぞ」
「あ、ありがとうございます」
ある意味まだ混乱が続いてるんだけど、ここでそんなこと言おうもんなら今度は何言われるかわかったもん
じゃないので素直に珈琲を飲む。
「う…」
飲んでから気づいたが、ブラックなのでかなり苦かった…。
こちらが口をつけたのを確認するとわかばさんもまた珈琲を取り出し口をつける、なんでこの人そんなとこ
に珈琲仕込んであるんだ?
「で?」
「え?」
「お前なんで凹んでたんだよ?」
珈琲を飲みながらこちらに眼をあわさずにわかばさんが聞いてくる、あいかわらず行動・会話がマイペース
で話を掴みづらい…。
一応気にはしてくれているということはわかったので、今日合ったことをかいつまんで説明する。
その間わかばさんは何も言わずただ聞いていた。
「なるほど、事情わかった。んで?」
「え?」
なんか最初主語がないからどうのと怒られたがさっきからわかばさんの言葉にこそ主語がない気がするな…、
そんなことは面と向かって言えるはずもないが。
「事情は分かったが私はその平って子のことは詳しく知らん。だから私が言えるのは秋悟のことだけだ、それ
でその事件があって友達が巻き込まれた。で、秋悟は一体どうしたいんだ?」
この人らしいじつにさっぱりとした言い方、ともすれば平のことを斬り捨てているとも思える言い方だが不
思議と腹は立たない。
「……」
言われて改めて考えてみる、俺は結局どうしたいのか?
怒りはある、悔しさもある、しかしだからどうしたいのか?と言われると……、答えることが出来なかった。
どういう行動が正しいのかはわからない、例えば平の側にいてやるのも一つの行動だろうし悪い選択肢では
ない。
けれどそれを、俺がしたいのか?と問われるとイエスではなかった。
かといって他にしてやりたいこと、自分がやりたいことなど思いつきもしない、いやそれはむしろ…
「……まだわからないか?」
「……」
なんとも答えられずただ一つ首を振る。
「秋悟、お前の考えてることはわかる。私もお前とは長い付き合いだからな、お前は現在ある選択肢から選べ
ないのだろう?つまりお前はとても優柔不断で踏ん切りがつかない、いつまでも同じとこに踏みとどまってし
まう、自滅傾向のあるあほぅということだ」
なんだか酷い言われようだったがわかばさんは昔から歯に絹きせぬ言い方をしていたため最早今更だった。
そこでわかばさんは一度言葉を切り、飲み終わった珈琲の缶をバスケのシュートよろしくゴミ箱へ投げる。
缶は綺麗な弧を描いてゴミ箱の中に吸い込まれていった。
「だけどな、秋悟。私はお前のそういうとこいいと思うぞ、現在ある選択肢を破棄してでもよりよい最善を模
索する、カッコいいじゃないか。まぁだがたいていの人間は模索する途中で力尽きるけどな」
そう言ってわかばさんは大笑いしている、全然シャレになってないのだけど……、まぁこの人なりに励まし
てくれてるの……かな?
「すいません、迷惑かけちゃって」
よく分からない経緯を辿ったが結局相談にのってもらう形になってしまった俺は一言謝っておく。
「ん?まぁ気にするな、結局お前が自分で決めることだ。お前がその平って子の親友なのなら、しっかり考え
た上で行動してみろ。結果どうなるであれ、私はそれが一番いいと思うぞ。ただな、考えるのはいいが今日み
たいに一人で凹みまくるのはやめておけ、お前にとっても回りにとっても邪魔なだけだ」
「はい」
視線を外しながら淡々とした口調で喋っているが、最初は怒ってたのに結局は相談にのってくれる、やはり
この人の性格の本質はこれなんだろうなと思う。
「ところで、お前まだこんなとこにいていいのか?」
「え?」
唐突にそう言われ固まってしまう、わかばさんが言ってる意味がよく理解できない。
「ほれ、時間」
そう言って袖から懐中時計を取り出し見せてくれる、がその時計は12時15分あたりで完全に止まってい
た…。
「これ、止まってますけど……」
思わずそう言ってしまう。
「ん?あぁ、すまんこっちだった」
持っていた懐中時計をしまい、新しい懐中時計を出してくる。
一体何個持ってるんだ。
「ん、大丈夫だな。ほれ、今の時間」
今度見せられた時計はしっかり動いていた、時刻は15時40分ほど…、15時40分!?
「まずっ!バイトだ!!」
「おら、こんなとこいてないでさっさといけ」
わかばさんが笑いながら急かしてくる、バイトの時間は16時から、ここから走ってたとしてももはや遅刻は
免れない時間だった。
「すいません!この借りはまた今度!」
「あぁ、覚えておくからしっかり返せよ。それとな、一人で解決できないなら誰かに頼れ!お前は不器用なん
だから!」
その言葉を背に受け階段を駆け下りていく。
「ったく…、すぐ凹むくせにすぐ立ち直るんだから……」
小説ひめ(仮題)1章1ノ3(後半)
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