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2008年09月06日
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テーマ: たわごと(27805)
カテゴリ: カテゴリ未分類
ビルの入り口に灰皿があるものだから、私はそこに座り込んで煙草に火をつけた。トキタニさんの姿は見かけなかったな、そんなことをぼんやりと考えていたら、トキタニさんに声をかけられた。
「カワタニさんじゃないですか、こんなところに座り込んで、あやしいですよ」
まあ、そんなふう。
だけど、すぐには立ち上がれなかったな。
「どこ行くの」
「どこいくのって、帰るんですよ」
「地下鉄?」
「ええ」
「じゃあ、そこまで一緒に歩こう」

「いやあ、トキタニさんのこと考えたらトキタニさんに会えました」
なんてことは言えなかったな。あまりにも疲れていて、きっと年齢相応の後ろ姿だったと思うよ。
トキタニさんとカワタニさんといえば、軽口を言い合いながら、互いの距離をはかっていたのにね。まあしかたがない。

もうまったく話はかわるのだけれど、あの人は、「私はそういうことがあったら、迷わず息子を戦場に送るわね」って言った。相変わらず頭の回転が遅い私は、気の利いた台詞なんて返せなかった。そのかわりこうして、何度も記憶を取り出してみるのだ。それもひとつの思考停止なのかもしれない。
それで思い出した。あの日ウエノさんは研究室にいて、バルカン半島からの客を迎えた。なぜ世界はこうも無関心なのか、その客は訴えた。なぜ日本は空爆を支援しないのか、なぜ、軍事活動に加わらないのか、と彼女は言うのだ。私たちは軍事活動には加わらない、私たちには憲法があり、軍事活動に頼らない平和創出のための……
バルカン半島からの客は「ナンセンスだ」と言った。そうして感情を押し殺すようにして笑ったのだ。それでも研究室の外で、ふたりは抱き合った。それは日本滞在中のその人の、もっとも人間的な抱擁だと、私には感じられた。

さて私は仕事をして、仕事をして、「千年の森」に行こうと思う。新日曜美術館でみた千年の森。
聞いてる? 電話をしながらオペラシティの階段を登っていたんだ。そしたら君は水の音が聞こえる、って言った。行きたいところがもうひとつある。ほら、サイレンの話を覚えている? 北炭夕張炭坑のサイレンが街中に流れる話。1981年10月23日のサイレン。
そのことを思い出した。

あの人は27階のマンションのテラスに寄りかかり、煙草を吸っている。
そうしてはるか遠く向こうの、音のない雷光を眺めている。








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最終更新日  2008年09月06日 23時14分30秒
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