ひーちゃんのゼミナール 名古屋産業大学(現代ビジネス学科)・大学院環境マネジメント研究科)現代の社会・経済・環境・芸能・スポーツ・宇宙

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2021.10.14
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「山城教授は蛍雪大学にいたんだ。ということは鮫島教授とは旧知の仲……」
自分たちのビジネスホテルへの帰り道、仲村は真佐子に言った。山城が、現在は横浜の五条大学に在籍していることは、先ほどの検索ですぐに分かった。
「でも、なぜ翔馬さんは殺されたのかしら。黙示録の役をもらったことと、何か関係があるのかしら」
 真佐子が、当然ながら疑問に思ったことを言った。あたりは急に薄暗くなり、秋の到来を告げていた。季節は初秋から中秋へと移ろっていた。真佐子は口数が急に少なくなった。事件に深入りしてきたことを悔いているのだろうか。真佐子がそのような性格でないことはわかっていたが、仲村は聞いた。
「真佐子さん、ここらあたりで少し事件とは距離を置いて、日常に戻ったほうがよろしいのでは」
と、仲村はぎこちない言葉で言った。真佐子は意外にも、あっさり
「そうね」
とうなずいた。
「あなたも授業が始まるわね。私淋しいわ」

 仲村は迷惑をしているのではないだろうか? 見慣れたはずの沖に並ぶ漁火が、真佐子の心を動揺させた。亭主が亡くなってから漁に出たことはない。もうかれこれ3年になる。小さな漁船のエンジン音が懐かしい。
 私は、なぜこうも仲村に付きまとうのだろうか? 自分の失った記憶を取り戻すためと割り切って、仲村に甘えてきた。仲村の本心が知りたくなった。仲村は何かを隠しているかもしれない。その何かを言い出す機会を探っているのかもしれない。仲村は真佐子にいつかこのようなことを言った。
「あなたは、僕が就職先に面会を求めた時に、もう会いたくないと、受付を通じで回答しました。会いたくないという返事は、本心だとは思うのですが、会うことを禁じられたのではないかと思うのです。でも、あなたには記憶がないのだから、それが分かりません」
 しかし、それを聞き、自分もまた心の内を開くことで、いまの関係が崩れることが怖かった。そのためらいが、いったん実家へ帰るように誘った。仲村は、会うことを禁じられたいきさつを、推測にしろ、分かっているのではないかーー真佐子はそう考えたが、それより先へは進まなかった。
「なぜ、会わなかったのだろうか。会って結局、破局が来たとしても、納得がいくはずなのに」
真佐子は自問自答した。

「腹ペコペコよ。コンビニのでいいから買って部屋で食べましょうよ」
 真佐子は悟られまいと、陽気な自分をつくろった。
「萩の駅まで行ってみましょう。適当なレストランがあったら、そこで食事をしましょう」
仲村の誘いに、
「ええ、いいわ。お酒が飲みたいわ」

 駅の右手に、明るい照明を灯したレストランがあった。店内はすいていた。アクリル板で隣席と仕切ってある。入り口で消毒、検温をして、4人掛けのテーブルについた。軽食を注文して、
「山陰は冷えますね」
と、仲村は当り障りのないことを言った。大陸の冷たい空気が一時的に下りてきていた。注文したワインとフライドポテトが来たのでグラスを高くかざした。
「明日は、途中あなたの湯玉へ寄りたいな」
「山口まで送っていただけると、新幹線で帰りますから」

 真佐子は酔ったふりをした。
「いえ、あまり長居をすると、未練が残るから」
「あら、女みたいなことを言うのね」
 真佐子は、また箸で仲村の腕をつついた。
「未練が残るほど、わたしに魅力があるのね?」
「そうなんです。未練が張り付いて取れなくなっちゃう」
「まあ、そんな言葉どこで覚えたの。奥さんに叱られますよ。どうせ、よその女に不渡り手形を乱発してるんでしょ」
 真佐子は、今度はフォークの先で仲村の指をつついた。
「僕は嘘は言いませんよ」
「怪しいもんだわ」
 真佐子は、ワインを一気に空けた。
 スタッフが、注文したステーキを持ってきた。真佐子はステーキをほおばって、
「でも許してあげる」
と言って、ワインのおかわりを求めた。
「何か恐ろしい組織があるような気がするわ」
と、真佐子は話題を変えた。
「僕も実はそう感じていたんです」
「ただの興味本位のテレビ番組の企画じゃないような気がして」
 真佐子は、ほろ酔いを感じてきた。

 二人は飲食店を出てホテルへ向かった。明日は観光協会へ行かねばならなかった。二人の殺人事件と瑠偉のひき逃げ事件、これらの事件の背後に、「黙示録」の影がちらついてきた。仲村は、『黙示録』に一応目を通してきた。キリスト教者でイエスの弟子である作者が書いた本ではあるが、内容はバビロニアの崩壊に際して、痛烈な批判を書いている。バビロニアに蓄積された富によって、一部の富裕なものが贅沢三昧、淫行に更けるさまを描いては、これを痛烈に批判し、神の裁きによって神の王国が築かれることを切々と論じているのであるが、この神の黙示は、いま世界中へ警告として発せられているかのようであった。コロナのパンデミックに入ってから中断していた「黙示録」のプロジェクトが、だれの指示からはわからないが、動き出したようだ。でも、このことと殺人事件とは果たして関係があるのだろうか?
 旅先でいろいろと話していると時間がたつのが速い。時計の針は九時を回って、眠気もさしてきた。
「明日、目が覚めたら、あなたは隣の部屋にいるのね」
と、真佐子は眠気眼をこらえて言った。仲村は、
「早く休んでください。僕は瑠偉君に電話をかけてから寝ます。明日は観光協会へ乗り込みますよ」
と言って、隣の部屋のキーを真佐子に渡した。仲村は自分の部屋に戻り、風呂に入ってから瑠偉に電話をかけた。
「すみませんね、こんな時間に電話をして」
と仲村が言うと、
「とんでもない、実は僕も電話をかけようと思っていたところです」
瑠偉は、あの歌う時の澄んだ声で言った。
「風吹翔馬のことは本当にびっくりしました」
「何かあったのでしょうか、その、命を狙われるほどのことが」
 仲村は、明日萩の観光協会へ行くことを告げてから言った。
「もうそこまでお分かりなんですね。仰せの通り、翔馬君と僕は二年前、仕事で萩の観光協会にお世話になりました。二人で歌を歌ったんですよ。もう観光協会へは行きましたか?」
「いえ、明日午前中に行こうと思っています」
「先生がお帰りになったら、詳しくお話ししますが、実は山城という大学の教授が来ていたと、翔馬君が言っていたのです。僕は山城さんは知らないので、ああそう、くらいでしかなかったのです。でも、翔馬君がああいうことになって、黙示録の企画のことをうちの社長に聞くと、山城教授が実質的に動かしているらしいと聞いて、先生に電話をしようと思っていたのです」
瑠偉は、興奮して言った。
続く





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最終更新日  2021.10.17 14:03:20


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