ひーちゃんのゼミナール 名古屋産業大学(現代ビジネス学科)・大学院環境マネジメント研究科)現代の社会・経済・環境・芸能・スポーツ・宇宙

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2021.11.27
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カテゴリ: 推理小説
四十四

曽根信也の所属するアジア・エンタメは大変な騒ぎになった。新企画「天国の黙示録」が始まろうというときに、内部抗争と思える第三の殺人事件が起きた。目下警察による現場検証が行われており、夏は警視庁に任せることとして、アジア・エンタメを出て、いったん神奈川県警へ戻った。事件を聞きつけた蜜柑が夏の帰りを出迎えた。
「アジア・エンタメ系の芸人さんが殺害されたということは、対立抗争グループがどこか別の事務所にあるということかしら」
応接室で、父親を迎えた蜜柑が言った。
「内部抗争かもしれないが、皆目わからなくなったな」
夏がコーヒーをすすりながら言った。
「アジア・エンタメは、力づくで新企画を大坂のワールド・エンタメから奪い取ったのではないかしら。君川敏夫社長が殺されたのも、この新企画の利権の奪い合いに端を発しているとしか考えられないわ」
「君川敏夫は、アジア・エンタメの社長の弱みを握っていたのだろう」

蜜柑が聞いた。
「アジア・エンタメ、当時のワールド・エンタメは、カネで新企画を大坂のドリーム・エンタメから買おうとしたのではないだろうか。大阪府警の調査では、ドリーム・エンタメは、当時多額の借金を抱えており、倒産のうわさも流れていたという。山城は、傾きかけた事務所に見切りをつけ、かねてから東京の大学へ移り、女性タレントとしても一世を風靡したいという願望があったという。大坂にいたのでは、研究者としても、タレントとしても限界は見えているわけで、手土産を持って、東京の大学へ移籍され、タレントとしてトップに立ちたいという野望にとりつかれていた。何らかの機会をとらえて、天国の黙示録という土産持参で東京に一気に地盤を創ろうとしたのかもしれないな。あるいは、政界へ足を踏み入れたいという野望もあったのかもしれない。これはさる野党の筋から聞いた話なんだが。彼女は何でも極左とまではいかないにしても、常軌を逸した思想の持ち主だという噂がある。」
夏は、自分が仲村教授だったら、こう推理するだろうという筋書きを言った。
「あら、パパ、その推理当たっているかもよ。最近の政治家を見ていると、その辺の芸能事務所のタレントと少しも変わらないものね」
蜜柑が茶化していう。
「おい、俺は刑事だぞ」
二人は、声高らかに笑った。

 真佐子は、山口県湯玉の自宅でテレビを見ていた。母親は、このところ体調を崩して寝たり起きたりを繰り返している。とくにこれと言って悪いところはないのだが、喉に痰が絡んで息苦しく、流動食を取るのがやっとで、介護ヘルパーの手助けで、何とか生を支えている。嫁が母親の面倒を見てくれるので、真佐子が家事の一部を負担し、老々介護の重圧を何とか跳ね除けながら、母親を支えていた。
東京でずいぶん遊んできたという負い目があって、しばらくは仲村のことは考えないようにしていた。真佐子は、犬の散歩の係を受け持っており、夕暮れ時、昔元気だった亭主と仕事に励んだ漁港を歩いていた。この日は夕焼けがきれいに海を染めて、元気だったころの亭主と魚の荷揚げに励んだことを、つい昨日のように思い出していた。
しかし、亭主は天国に召され、真佐子の心の隙間に秋風が吹くようになった。その時、仲村と出会った。何か不思議な「運命のいたずら」のようなものを感じる。亭主が元気で生きていたら、傷心を海で癒すため、島根の海へ出かけることもなかっただろう。そこで仲村を見つけることもなかっただろう。亭主の死が仲村との出会いへ導いた。
愛犬もだいぶ年取ってきた。孫がすくすくと成長していることがせめてもの慰めだった。埠頭の先に犬をつなぎ、真佐子は、今日届いた仲村からの手紙を取り出した。仲村は、よくこうして手紙を書いてよこしてくれる。最初は、家のものが不審に思うことを避けるために、道の駅のほうへ送るように、中村に頼んでそうしてもらっていたが、何もやましいことをしているわけではない、堂々と付きあえばいいと思い、強く心に言い聞かせて、自宅へ手紙を送ってもらうことにした。仲村も同意してくれた。差出の住所は大学の研究室になっている。

ところで、この秋の東京での探偵ごっこ、とても面白かったです。目まぐるしく事態が進展して、山口県の萩まで犯人の痕跡を追うことになるなんて、思いもかけないプレゼントでした。
夏警部から、近いうちに会いたいと言ってきました。芸能界のことは苦手で、僕に大胆な推理を頼むというのです。それに、蜜柑さんがあなたにぜひ会いたいそうです。
嬉しいニュースがありますよ。瑠偉さんがライブを開くらしいです。横浜の高級ホテルで、なんと『よみがえる黙示録―お笑い芸人より愛をこめて―』というライブです。歌手の藤堂麻里矢さんがよくやる同じホテルです。藤堂さんの友情出演もあるかもしれませんよ。
なんでも、横浜市のウイズ・コロナ実験事業との協賛ということで、ワクチン接種、PCR検査などが条件になっています。チケット二枚がsyowa-entertainment事務所から僕のところに届いています。アジア・エンタメが天国の黙示録の権利を手に入れて、企画が動き出そうというところへぶつけてきていますね。なんだか風雲急を告げる事態になってきました。一気に捜査が進展しそうな気配がして、僕はライブにどうしても行きます。真佐子さんにも、やりくりをつけて、ぜひ来てくれるようにお願いします」
 仲村にしては事務的な内容だった。真佐子は胸がどきどきしてきた。日本では、現在は感染者が下火になり消えてなくなりそうな気配だ。しかし、この不気味さは、新たな感染拡大の序曲なのかもしれない。今行かないとまた感染拡大で移動禁止にもなりかねない。真佐子の気持ちは勝手な理屈を作っている。

真佐子は、息子の嫁の啓子に相談した。
「仲村さんでしょ。この界隈じゃ有名よ。行ってらっしゃいよ」
啓子は笑いながら言った。
「悪いわね。でもそんなんじゃないの」
真佐子は照れながら言った。
「分かってますよ。お母さんを信じていますよ」
テレビを見ていた息子が言った。真佐子は、嫁の啓子には一切を隠さずに話していた。
「でも、東京や横浜は怖いところよ。気をつけてくださいね。私ついていこうかしら」
 嫁は笑いながら言った。
「おいおい、それって野暮なおせっかいだよ」
 息子夫婦の気の使いように、真佐子は涙が出る思いだった。





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最終更新日  2021.11.27 19:50:50


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