時の旅人

時の旅人

その16


 最後に時間つぶしに立ち寄ったのは、菰池(こもいけ)と言う名の三島駅から近い公園。ここにもよく遊びに来たものだ。友達と待ち合わせ場所にしたこともある。二十年前に比べるとずいぶんきれいになって、鯉をはじめ数種の魚が泳いでいる。この菰池に限らず市内の公園や小川は整備された印象がある。
 休憩所でベンチに腰を下ろすと、隣に座っていた年配のおじさんが話しかけてきた。
「実は二十年ぶりに三島に来たんですよ」僕は言った。
「おやおや、前はどこに住んでたの?」
「川原ケ谷です」
「そうなの。どうだ、二十年ぶりの三島は?」
「いやあ、だいぶ変わりましたね。でも、川原ケ谷は今でも田んぼがたくさん残ってて安心したかな」
「あの辺はね、調整区域だからいじることが出来ないのさ」塗装職人だというおじさんは少々乱暴な語り草で話してくれる。
「この公園もそうだし、随分綺麗になったと思いますよ」
 僕が言うと、おじさんは興味深い話をしてくれた。
「実はねえ、湧き水が涸れ始めて大変だったんだ。皆が諦めてたんだけどさ、今年になったら出たんだよ」おじさんはしみじみと語った。
 そういえば、二年ほど前だと思うが、NHKの列島リポートで三島市の楽寿園の湧き水が危機だと言っていたのを思い出した。楽寿園に限らずこの菰池や白滝公園の湧き水も富士山系の湧き水と言われる。その量が激減していたというが、楽寿園も白滝公園も先程訪れた際には満々と湧き水があふれていた。現にこの菰池でも澄んだ水の中で魚たちが元気に泳いでいるものだから、あのニュースを忘れかけていたのだ。
「地下水を汲み上げていた企業が、この不景気で操業を制限したんだな。汲み上げる量が減った分、湧き水が増えたそうだ」おじさんはタバコの煙をくゆらせながら語った。
「なるほど・・・」僕は頷いた。平成の大不況がもたらした副産物というわけか。
 それからおじさんは、家業を継ぐという息子さんや語学堪能な娘さんの話をし始めた。
「ところで、お兄さんは今どちらに?」
「秋田です」
「そうかい。そういえば少し訛りがあるもんねえ。うちの家内も岩手の人間なんだ」
 訛り?この僕が?ちょっとショックだった。
 僕は高校を卒業して働くようになってから、出来るだけ標準語で話そうと努力していた。
 だから「鈴本さんはどちらの出身ですか?」「訛りが全然ないですね」などといわれると内心嬉しかった。
 でも二十年も秋田にいるとやはり滲み込んでしまうのだ。最近では、スクーリングで他県の学友と話すときも訛りを完全に抑えるのは不可能となってしまった。まあ、これも致し方ないことだろうが。
 結局、おじさんとは三十分以上話していた。時計を見ると、十二時三十分。駅前のフォトショップに預けたフィルムも現像が上がっているはずだ。
「じゃあ、僕そろそろ・・・」僕は立ち上がって会釈をした。
「そうかい、じゃあ気を付けて。またおいで」
 おじさんの言葉に暖かさを感じつつ、公園を後にした。いつかまたこの場所を訪れたとき、会えるかな・・・。

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