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道徳教育の転機を控えて
現在小中学校で週に1時間設定されている道徳の授業が、2018年度から小学校で、2019年度から中学校で「特別な教科道徳」となる。その背景に、現在の道徳の時間が学校行事などに転用され、十分に行われていないということがある。また、「いじめ」に対応するためにも道徳教育の充実が必要という文部科学省の考えがある。
週の授業時数が増えるわけではないから、教師の負担が増えるわけではない。ただ、これまでは十分に行われていなかった道徳の授業を、他の教科と同じように年間35回(週に1時間)行わなければならないということである。それに教科になると評価を行う必要がある。
私見では、道徳の教科化がいじめ防止に直接つながるとは思えない。「特別の教科道徳」になって教師の道徳の授業のレベルが一気に上がり、生徒の道徳性が高まるならば別であるが、そうはいかない。なぜなら多くの教師は道徳の時間を重荷に感じているからだ。
しかし、自分の経験では「道徳」の授業の時間をできるだけ確保し、教材を工夫して生徒の心を揺さぶるような授業を積み重ねれば、学級経営で苦労することが少なくなる。道徳の時間は道徳的価値について考えさせるだけでなく、担任の人生観や生き様を間接的に感じさせる場でもあるのだ。その当時は、「いじめ問題」で世間が騒がしい時代ではなかったが。
道徳教材には、資料の類型から大別して次の4つがある。 (宮田丈夫 御茶ノ水女子大名誉教授)
1 実践資料
=基本的生活習慣などの、道徳的実践の定着を図るような資料。
2 葛藤資料
=相反する考えが出て、生徒間に選択の迷いや葛藤が起こるような資料
3 知見資料
=道徳的価値の良さや意義を例を挙げて示すような資料
4 感動資料
=児童生徒があこがれや驚きを感じ、そうなることを目標と思うような資料
この中で、1と3は道徳的価値観の押し付けになる恐れもあり、自分としてはあまり使いたくない資料である。教科化を控えてトレンドになろうとしている資料は2の葛藤史料である。自分もこれまでも、葛藤史料を使って生徒の価値観を揺さぶる授業を心掛けてきた。
先日ある学校で道徳の研究授業を参観した。題材は「二通の手紙」。舞台は動物園。そこに勤務するベテラン職員の「元さん」を主人公とする話である。
<問題の発端>
毎日閉園時間まぎわにやってくる姉弟がいた。姉は小学校3年生ぐらい、弟は3.4歳といったところだ。最初は、定年後も嘱託として働いているベテランの元さんは規則だからとして入園させなかった。ある日、子どもたちは入園料を握りしめてまた入場門の前に来た。「今日は弟の誕生日」という姉の声に動かされたのか、元さんは姉弟の入園を認めた。
<その後の経過1>
その後、子どもたちが園内で行方不明となり全職員で探す騒動になった。1時間後、姉弟は小さな池で遊んでいたところを無事発見される。
<その後の経過2>
数日後、元さんあてに一通の手紙が届いた。子どもたちの母親からの手紙だった。そこには、父親が病気のために母親が仕事に出るようになったこと。姉が弟の面倒を見ながら母親の帰りを待つことが多くなったこと。姉はためていた小遣いを持って動物園に連れて行ったこと。元さんの温かい配慮に大変感謝していることなどが書かれていた。
<その後の経過3>
しかし、数日後、元さんは上司から呼び出され、一通の手紙を渡された。戻ってきた元さんが握りしめていた手紙の内容は「懲戒処分」の通告だった。
授業では、経過2まで資料を読んだところで、元さんの判断に対して、「賛成」か「反対」かを生徒に尋ねた。結果は「賛成」が20人、「反対」が11人だった。ここまでで25分が経過していたが、約5分間、「賛成」と「反対」のグループに別れて話し合いをさせた。
「話し合い活動をする生徒たち」

(道徳でも、話し合いや意見発表を重視するアクティブラーニングの手法が有効である)
話し合いの後、それぞれ判断した理由を発表させた。(この時点で「考えが変わった者」と教師が問いかけたが誰もいなかった)
このあと、資料の後半、元さんがもらった2通目の手紙(懲戒処分通告)のことを生徒に範読させた。懲戒処分の意味を口頭で説明を加えた。私は、この時点で考えが変わった生徒がいたかもしれないと参観していて思った。
最後は時間が不足して、感想を書くところまでいかなかった生徒もいた。少しでも感想を交流する時間を確保したかったところだ。
「この時間の板書」

(生徒の意見を大事にするのはいいが、時間不足にならないような工夫も必要である)
今回の授業は「決まりを守る」ことの大切さを考える教材であったが、規則を曲げて入園させた元さんに「賛成」という生徒が多かった。これは元さんの「情」という部分に生徒が共感したからであろう。それはそれで、この授業は成功したと思う。生徒達には「決まりを守る」ことは日常の生活態度を見ても身についている。
元さんの行動に対して、どうとらえるか状況から考えて悩むところである。それがこの「二通の手紙」という資料が「葛藤教材」に分類される所以でもある。
小さな部分では改善も必要だが、経験の浅い先生の授業としては十分に合格点が与えられる授業だった。欲を言えば、もう少し子どもたちの考えを揺さぶる発問なり仕掛けがあればよかった。
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